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背中を押さない。

背中を押す、というのは物理的に押すことだけじゃなくて、相手に一歩先へ行くための比喩として使われることがある。
 
子育てというのは、往々にして背中を押すことだと思うようになった。
ほら、やってごらんと言って背中を押す。
ためらいや、とまどいや、うろたえや、おくびょうや、いろんな引き止めるマイナスの力に対抗するように、ぽんと背中を押してやる。
 
失敗したっていいんだよ。そうしたら戻ってくればいいだけなんだよ。
 
そう言ってやるためにはぼくが、家庭が安全地帯になってなければならない。いつでも戻れる安全な場所があってはじめて子どもは外の世界へ踏み出すことができる。これを愛着理論と提唱した心理学者がいる。
 
今日は背中を押さないからね。ぼくは娘にそう宣言した。前回のサイクリングでは登りのほとんどをぼくが押していた。これは背中を押してるんじゃなくてただの甘やかしだ。いや、押してるんだけれども。
 
娘はぶつぶつ文句を言っていたが、本当に押してもらえないと一生懸命漕ぐようになった。登れないところは自転車を降りて歩いた。ぼくは後ろについてがんばれがんばれと声をかけるだけ。
 
押してないけど押してるんだよ。
 
ぼくはついキミのことを甘やかしてしまうけれども、それはキミにとっていいことではないんだ。必要なときに頑張れる力を養わないといけない。そのためにぼくはキミの心を押すのさ。手は添えなくてもちゃんと押してるんだよ。
 
お父さん、お願い。一回でいいから押して!
 
んもう仕方ないなあ。一回だけだよ。
 
そういって三回くらい押しちゃうんだけれども、今日はよく頑張ったよ。

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