裏話になりきらなかったアナリストの裏話(現役スポーツアナリストによるアナリストQ&A③)
①、②の続きです。
前回の記事で、ちょっとディープな記事を書きます(暗黒微笑
とドヤ顔で予告したものの、書いてみたらそこまで深くはなりませんでした。筆者の見通しの甘さに乾杯(完敗
とは言え、少し深い話も書いているので、もし良ければ読んでいって頂けたら幸いです。
Q7.アナリストって稼げるの?
筆者は学生カテゴリの人間なので、それより上のカテゴリの話はよく分かりませんが、チームから給与を貰って"アナリスト一本"で活動している人は決して多くないのではないかと感じます。
そもそもVリーグの仕組み自体が、会社という母体があって活動しています(我らがブレス浜松のような例外もあります)。なので、アナリストも外部の人間でなければ、基本的には社業に従事しながら活動しているはずです。
代表レベルにしても、所属が日本バレーボール協会の方もいれば、みんな大好き伊藤アナリストのように普段はVリーグのチームに席を置いている方もいます。
なので、ぶっちゃけ給与に関してはよく分からないというのが正直なところです(そもそもバレーボールという競技自体がプロ前提ではないですし…)。ただ、前々回の記事にも示した通り、アナリストが在席しているor過去在席していたVリーグ加盟チームはおよそ7割を超えており、今後もこの流れは続くと思います。なので、学生カテゴリでアナリストとして活動している方には、Vリーグの世界に跳びこむチャンスは必ずあるはずです。そこで、社業に従事しながらアナリストとして活動し、給与を頂ける可能性は充分あるでしょう。
また、ちょうどこんな記事を見つけました。
これは元日本代表女子チームのアナリストを務めた宮脇さん(https://twitter.com/wakky929analyst)が運営しているブログの記事になります。
宮脇さんは以前からアナリストについての情報を様々な形で発信されており、ブログだけでなく自身のYouTubeチャンネルなどで技術や戦術についての解説をする等、アナリスト界の発展に貢献してきている方です。
筆者がアナリストセミナーで初めてお会いしたときに生意気にも話しかけさせてもらいました(確か相原監督率いるアンダーの日本代表がアジアの大会で韓国かどっかのA代表倒して優勝したとき)が、気さくに質問に答えてくださったのが印象的でした。
記事の内容としては(バレーボールに限らず)スポーツデータを用いた仕事ができる多種多様な就職先を解説したものです。
プロ野球チームをはじめサッカー、ゴルフ、駅伝やバイク等のロードレース種目にもアナリストの需要は高まっています。
本noteの記事ではアナリストが行う「ゲームの分析」を主眼にお話していますが、宮脇さんの記事を読んでいくと、それ以外にもスポーツデータが活用できる場面があることが分かります。
例えば、スポーツウェザーという気象データを活用してスポーツ会場の局地予報や開催判断のコンサルティングを行っている会社では、外で行う競技で「見えない風や気温」などのデータを取得し、放送画面にCGにて可視化することを行っているそうです。
とあるように、試合の分析だけでなく、スポーツに関する全てのデータにまで視野を広げると、スポーツアナリストという役割にはまだまだ多くの可能性が秘められていると言えるでしょう。
Q8.どうやったらVリーグのアナリストになれるの?
Q7にてVリーグのアナリストになれば給与を頂きながら活動できるという話をしましたが、じゃあ、どうやったらVリーグのアナリストになれんねんってお話です。
結論から言うと、Vリーグのアナリストになるための試験などはありません。
基本的には自分で売り込むか、紹介してもらうか、声をかけられるかのどれかだと思います。
まず試験についてですが、今まで聞いた限りではアナリストを選抜するための試験を実施しているチームは聞いたことがありません(前述の通り、特定の企業が母体となっているチームがほとんどなので入社試験はあると思います)。
じゃあどうやって選考してるのかって話になりますが、それは学生自体のアナリストとしての活動などを加味してチームの方から声がかかるか、選手などに知り合いがいればそこから話を通してもらうか、それが無理なら自分でチームに対してなんらかの方法でコンタクトを取るか、のいずれかの方法で勝ち取る他ないと思います。
そんな訳でこんな格言(?)もあります。
これはとある知り合いのアナリストの方の言葉ですが、アナリストセミナーでも、似たような言葉を講師のどなたかがおっしゃっていたような記憶があります。
彼はアナリストとしての実力はもちろんのこと、この言葉を体現し見事アンダーカテゴリの日本代表チームのアナリストに抜擢をされ、チームも素晴らしい結果を残しています。
アナリストはデータを主に扱うので、さも自分だけが真実が見えているように勘違いしてしまうこともあるかもしれません。しかしながらスポーツにはそもそも正解はなく、最適解を皆で模索するものであると捉えると、やはり人を、チームを大切にし、選手や監督、スタッフ陣で共に意見し合いながら成長できる人間を目指していく。心構えとして、最終目標として、胸に残しておきたい言葉だと思います。
Q9.アナリストとして活動するためにはどんな力が必要なの?
そんなこんなで色々アナリストの話をしてきましたが、自分がアナリストに向いているかどうかが知りたい!という人は以下のことができるor興味があるかどうかで考えてみるのがいいかと思います。
スキル面で必要なこと
①情報分野に関する知識
これまでアナリストの活動について話してきたので薄々気付いているかと思いますが、
試合の撮影:ビデオカメラ、SDカードや外付HDDなどの各種記憶媒体
分析ソフトの使用や試合のストリーミング:ノートPC、タブレット端末、インカムやルーターなどの通信機器
試合の分析とその結果の共有:ExcelやPowerPointなどのソフトウェア
と、ざっと書いただけでもこれだけの情報機器を扱えなければいけません。映像データを扱うときに「拡張子って何?」というレベルだと少しばかり勉強も必要になってくるでしょう。とは言え道具は「使って覚える」が一番なので、やる前から身構える必要もないかなとも思います。
②分析ソフトの入力
できなくてもやれることは沢山あると言いましたが、使えるに越したことはないでしょう。データの算出だけでなく、映像の編集など、作業効率が段違いです。タイピングは最低限キーボードを見ないで1分間にアルファベット150文字程度打てるぐらいの力があると、基本的なデータの収集レベルなら遂行できる力があると思います。
③データを扱う素養
これもまずは基礎的な部分だけでも身に着けたいところです。いくら正確に分析ソフトが入力できても、「バイアスとは何か」ぐらいのレベルの知識は分かっていないとチームに提供するデータの妥当性が担保できません。
④バレーボールに関する知識
基本的なオーダーの考え方や、フォーメーションは知っておく必要があるでしょう。相手チームのブロック戦術が基本的にスプレッドかつコミット主体なら、わざわざデータを見なくともXプレーが有効なのは予想がつきますし、その状況でXプレーの決定率が高くなかったなら映像を見返して修正する必要があります。
また、自チームのいるカテゴリのセット当たりのアタック決定本数やサイドアウト率がおよそどれぐらいなのか等、「基準」が分かっていないと、データを算出してもそれが高いのか低いのかも判断できません。
アナリスト育成セミナーでこの辺りの知識は講義の中でやってもらえますし、バレーボール学会が出版したVolleyPedia(バレーペディア)にも詳しく掲載されています。
現在は絶版で入手困難ですが、バレーボールの用語を整理した本当に素晴らしい1冊なので、見かけたら是非ご一読を。
メンタル面で必要なこと
①監督の意図を感じる心
②選手の機微を感じる心
まあこれはアナリストに限った話ではないかもしれませんね。アナリストもチームの一員なので、他者と共同してチームの目標に向かっていく訳です。
ここが分かっていないと、監督の指示通りにプレーしている(それが実行できている)のにアナリストから提示されるデータによる評価が低くなってしまったり、選手がアナリストからのアドバイスを受け入れられなくなったりしてしまうことも十分に考えられます。
監督がどんなチームを思い描いているか、それに向かってどんなデータをとり、どう評価するか… コミュニケーション能力と理解力が求められます。
(筆者はついこの前に監督の意図がようやく理解できてきたなんて口が裂けても言えない…)
③競技を愛する心
同じ試合を20回観ても飽きなければたぶん大丈夫でしょう(適当)。コートの中には情報が溢れています。見るたびに違う発見ができる、または見つけようとする知的好奇心。これがあればアナリストはめちゃくちゃ楽しいと思えるはずです。
④学ぼうとする・知ろうとする心
アナリストをやり始めてからというものの、常に新しい何かに触れている気がします。
ここ最近だとVリーグのデータコラムを真似して各大学のスキルをレーダーチャートで表してみたり、ベンチとの情報共有のために新しい無線機器に手を出したり。
同じことをルーティーンとしてやっている瞬間ってあんまりないなあという印象です。常に試行錯誤している気がします。(それが収斂できているかは置いておいて)新しいことを始める、その為に必要なことを自分で身に着ける、道具なら使ってみる。それが楽しいと感じるのなら、現時点でスキルが未熟でも、いつかは何かしらの芽が出るんじゃないかなと思います。
フィジカル面で必要なこと
アナリストなのになんでフィジカル?と思うかもしれませんが、これはマジで言います。
"睡眠時間を削っても大丈夫な身体がないと大会は乗り越えられません"
どういうことかというと、前回の記事でも触れましたが、試合中もさることながら、試合後のアナリストの作業量はかなりのものです。
分析ソフトへの入力の修正、映像データの編集やアップロード、ミーティングをするのであれば資料の作成などの諸々の作業を、およそ2日後ぐらいまでには完了できないといけない訳です。
そして、それが終わると次の試合の準備が始まり、また次の試合が終わるとまた次の作業が始まり…
これを自チームだけでなく、全チームの試合に対してやるので、それはもう大変です。
もうすぐ開催の女子の世界選手権の日程を見てきましたが、予選は24チームを4つのプールに分け、9日間で全試合を消化するので
アナリストは全60試合を1週間ちょいで入力・分析することになります。
(代表のアナリストは3~4人体制だったと思うのですがそれでもクソ大変だと思います)
アナリスト育成セミナーでも、データとかフォーメーションの話を散々しておいて最後の最後に
「アナリストは根性」
と言われる所以はここにあるのでしょう。
アナリストに幸あれ(2回目)。
Q10.アナリストのやりがいって何?
色々アナリストについて書いてきましたがいかがだったでしょうか。最後はやりがいについて。
これは人それぞれ違う答えが返ってくると思うので完全に私見を言います。
選手をサポートするのが楽しい、データ見るのがそもそも好き、試合を納得するまで噛み砕いて解釈していく工程が面白い、まあ色々ありますが…
結局のところ
"選手として届かなかった世界にアナリストとしてなら足を踏み入れることができる"
自分はこれなんじゃないかなあと最近思います。
これは決してアナリストが選手より下とかそういう話ではありません。
筆者はプレイヤーとしては全く通用しなかった人間で、頑張れば頑張るほど体のどこかが痛くなったり、考えれば考えるほど上手くいかなくなったり…
正しい努力の仕方が分からないまま、競技への熱量と、それに見合わない自分の技量への自己嫌悪で苦しんでいた時期がありました。
今でこそ、アナリストなどの経験でで得た知見や、社会人になって受けたパーソナルトレーニングや栄養士の方から栄養に関する知識を学べた受けた経験から、なぜ当時上手くいかなかったかがよくよく分かります。
が、当時は本当に何をしていいのか分からなかったのです。
そんな自分の思いを唯一昇華できるのが、このアナリストという役割でした。
競技人生で一度も県大会出場すら叶わなかった人間が、春高出場経験のある選手と、今一緒に戦っています。
スパイクが打てなくてもキーボードが打てればチームの力になれます。
拾えなくとも閃ければチームの力になれます。
ああ素晴らしきこの世界。
アナリストの世界よもっと広まれ。
最後に
アナリストQ&Aはひとまずこれで終わりにします。初めて通しの記事を書ききりました。笑
リーグ戦も間近に迫っているのでサラッと書いていくつもりでしたが、書き始めると書きたいことが溢れてきて妥協できなくなりますね。
このnoteは全てのアナリストを目指す、あるいは興味のある方の力になりたいと思って書いています。過去の筆者のように、自分の熱量をうまく燃やすことができずに苦しんでいる人がまだ全国に大勢いると思います(まあそういう思いを抱えているのは大体高校生か大学生なのでnoteじゃなくてTikTok使えという話になりますが…)。
そんな方々に本記事が届くことを願って。
アナリストになって本当に良かったと思っている筆者より。