コンサートの記録:WDR響のコンサート(10月9日、ケルン・フィルハルモニー)、ケルン・オペラのインテンダント、マイヤーさんのこと

10月9日、ケルン・フィルハルモニーでのWDR響コンサートに行きました。

プログラム。
この日の指揮はイェルク・ヴィートマン。
ヴィートマンは作曲家、クラリネット奏者です。スター音楽家の1人です。

最初はヴィートマンの作品、そしてグラスハーモニカの演奏の後、ヴィートマンの指揮&演奏でモーツァルト《クラリネット協奏曲》、休憩後はモーツァルト《交響曲第41番》〈ジュピター〉でした。



まず客席内に入るとステージ上のグラスハーモニカが目につきます。
グラスを並べた『グラスハーモニカ』の演奏を聞いたことはあるのですが、この形をライブで聴くのは初めてでした。

私の列にケルン・オペラのインテンダント(支配人)、Dr.マイヤーさんが入ってきました。
彼女は自分の席を探していたのですが、私が「こんばんは!マイヤーさん!」と言ったら、「眼鏡がないから座席番号が見えないのよ」と言いつつ、「あなたの隣、空いているようなので、座るわ」と私の隣に座りました。

ちなみに彼女の博士号は「医学博士」です。

そして私に「ステージにあるの、何?」と訊くので「グラス・ハーモニカですよ」と言ったら、「えー、ナマで見るの、聴くの、初めて!」そして「あなたも知ってると思うけど、《ランメルモールのルチア》で使うじゃない!?」と言うのです。
もちろんオペラの場合はピット内で演奏するわけですが、最近はフルートに替えることも多いので、実際に目にすることは珍しいのです。

グラスハーモニカの演奏が終わって、ステージの袖でグラス部分を外しているのを見ながら、マイヤーさんが「あのグラス、高そうよね」と言うので、「ボヘミア製?」と言ったら、「ヴェネチアかもよ」と彼女は言い、「いずれにしても高そう」と2人でうなづき合いました。

ヴィートマンの解釈と演奏はとても面白いものでした。
《クラリネット協奏曲》の指揮とクラリネット演奏が終わり、満場の拍手を受けるヴィートマンとオーケストラ。

「モーツァルトの《クラリネット協奏曲》は超有名なのに、ライブでの演奏に接することはとても珍しい」、そうマイヤーさんに言ったら、「本当にそうよね・・・」。
なぜなんでしょう?やはりクラリネットもオーケストラもとても難しい、ということに尽きるかもしれません。

この夜はコンサートが始まる前、休憩時、終わってからもマイヤーさんと話しました。オペラで会っても彼女はとても忙しいので、あまり話す時間がないのですが、今回は良いチャンスでした。

マイヤーさんは2022年夏、ケルン・オペラを去ります。この経緯については『音楽の友』の今年の4月号に書きました。

オペラハウス内のインテンダントと音楽総監督の確執は珍しいことではありません。
しかし、今回のケルン市長(ヘンリエッテ・レーカー)の決定はあまりに一方的で、マイヤーさんの業績に対するリスペクトがないこと、そして劇場で働く人たちと一般人の署名運動、ドイツ語圏オペラ協議会議長のケルン市に対する公開書簡を無視したという点で、稀と言うしかありません。

また、マイヤーさんは現在、ドイツ語圏オペラのインテンダントの中で、たった1人の女性です。マイヤーさんが去った後、ケルンの音楽シーンの要職は男性のみで占められることになるようです。
ケルン市長自身は女性ですが、結果、女性の登用にはあまり積極的ではないようです。

マイヤーさんと確執関係にあるとされているケルン・オペラの音楽総監督フランソワ=グザヴィエ・ロート(ロトという表記を目にしますが、実際の発音はロートです)は、オペラのピットに入るギュルツェニヒ管の首席指揮者(ギュルツェニヒ・カペルマイスター)です。
マイヤーさんが去った後、ケルンに残り、2025年まで契約延長しました(2027年までのオプション付き)。

コンサート指揮ではとても優秀だと思いますが、オペラの指揮にはかなり?がつきます(それでもケルン・オペラの音楽総監督になってから大きく進歩したとは思います)。

ロートはベルリン・フィルをはじめ、優秀なオーケストラの指揮もしていますが、オペラ指揮には招聘されていません。
元々『オペラ指揮者』ではないことが大きいのですが、こういう事件があると、今後、ケルン以外でのオペラ指揮はそう簡単ではないかと思います。

FOTO:©️Kishi

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