オペラの記録とロシアのウクライナ侵攻に対する反応(13):エッセン・アールト・ムジークテアター、ヴェルディ作曲《ドン・カルロ》新制作プレミエ(3月12日)


エッセン・アールト・ムジークテアターの新制作《ドン・カルロ》を観ました(3月12日)。
これはシュトラースブールのラン国立オペラとの共同制作です。

《ドン・カルロ》には複数の版がありますが今回は1884年ミラノ版(4幕)
でした。
個人的にはドン・カルロとエリザベッタの愛のシーン『フォンテンブローの森』を含む5幕版の方がずっと好きなのですが(やはり、オペラには『愛の二重唱』は欠かせないと思うので)、4幕版だけでも上演時間3時間、5幕版になると4時間になるため、集客や劇場内部の調整のため、5幕版の上演はそう簡単ではありません。

また簡単に4幕版、5幕版と言っても、ナンバーの省略なども多々あります。


プログラム。


プログラム中の写真。Foto: Hans Joerg Michel
左がドン・カルロ、右は父王のスペイン王フィリッポ2世


Foto:Matthias Jung
左はエボリ、右はエリザベッタ


カーテンコール。


指揮者も登場してオーケストラを讃えます。

FOTO: Kishi


さて、公演前、インテンダントのムルダースさんがステージで挨拶しました。

ロシアのウクライナ侵攻直後に作曲された《ウクライナー戦争の犠牲者のために》という作品をここで演奏する、というものです。

作曲者は Eduard Resatsch、ウクライナ出身でバンベルク響のチェリストです。
彼の家族はウクライナに住んでいます。

ドイツ・オーケストラ連盟(DOV)が所属のプロ・オーケストラに「連帯のための音楽的シンボル」として演奏するよう依頼したものに応え、エッセン・フィルと合唱で演奏する、という説明でした。 

短い作品ですが、戦争犠牲者の静かな祈り、銃撃音、爆撃音が鳴り、ロシア国歌が中断され、EU賛歌(ベートーヴェン《第九》4楽章のメロディー)を挟み、最後はウクライナ国歌が「自由と平和」への希求として聴こえてきました。

以下の写真はこの作品のリハーサル時のものです。
コーラスは《ドン・カルロ》公演の衣裳を着けています。

FOTO:TUP


《ドン・カルロ》は男声の『響演』が楽しみな作品です。

ドン・カルロ ー テノール
ロドリーゴ ーバリトン
フィリッポ2世 ー バス
大審問官 ー バス

大まかにいうと、イタリアのテノール、ドイツのバリトン、ロシアのバスはとても魅力的なのですが、こういう楽しみも平和が大前提、その平和はしかし自明ではないこと。

そして《ドン・カルロ》の原作者シラー、シラーの《歓喜に寄す》がベートーヴェン《第九》の4楽章に使われ、そのメロディーが《EU賛歌》になっていること・・・。

通常にも増して考えを巡らす夜でした。

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