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オペラ:バイロイト・バロック・オペラ・フェスティヴァル①、開幕公演、ポルポーラ作曲《アウリーデのイフィゲーニア》、9月5日、バイロイト辺境伯歌劇場、Bayreuth Baroque Opera Festival 2024, 05.09.24, Markgräfliches Opernhaus Bayreuth, Porpora "Ifigenia in Aulide"

9月5日、バイロイト・バロック・オペラ・フェスティヴァルが始まりました。今年は9月15日までの開催です。

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今年の開幕公演はニコラ・アントニオ・ポルポーラ作曲《アウリーデのイフィゲーニア》、9月5日のプレミエを観ました。

辺境伯歌劇場

プログラム

左のページはジョン・ファンダーバンクによるポルポーラの肖像画

ポルポーラは当時、ナポリで歌手の教育者として高名でした。弟子にはあのファリネッリもいます。
J.ハイドンの先生でもありました。
ロンドンではヘンデルのライヴァルでした。

劇場内部

カーテンコール

演出チーム。
最も左がカウンター・テノールのスターの一人、マックス・エマヌエル・チェンチッチ。
このフェスティヴァルの芸術監督です。
この公演では主役のアガメムノンを歌い、演出も手がけました。

今年も日本からお見えになったT教授とお会いしました。
「七夕みたいですね」と笑い合いました。

第一幕が終わったところでお会いしたTさん、開口一番
「『あれ』、つくりものではないですよね?本物ですよね?」
私「『あれ』、私の席からよく見えなかったのですが、そうだと思います」
Tさん「オペラグラスがないとよくわかりませんね・・・」
私「本物でも別にどうということはないですよね」

何かというと、上演の冒頭に出てきた立役の兵士たちの下半身のことです。
『あれ』は『いちじくの葉』一枚で覆われておらず、裸だったのです。

Tさん「オリンピックも終わったばかりですが、古代オリンピックでは下半身裸で闘っていたんですね」と、さすが博識です。

古代オリンピックのことをちょっと調べました。

競技参加者はギリシャ人男性に限る、とありました。

男性であることの証拠として、裸であることがマストだったのでしょうか?
でも競技前にチェックすれば良いと思うのですが・・・

また、当初は競技参加者のみが裸だったのですが、その後、トレーナーにも「裸の法則」が適用されました。
というのも、自分の選手が勝った折、喜んで駆け寄ったトレーナーの衣服が破れ、実はトレーナーは女性ということが判明した事件があったからだそうです。

また女性の観客は未婚者のみ、ともありました。なぜ?

古代ギリシャは極端な人種差別、女性差別を行ない、奴隷制の上に成りたっていたことはよく知られています。

また、トロイ戦争が古代オリンピックの起源になったという説もあります(この演出にもつながります)。

さて、よく『オペラはイタリア』と言われます。
こう言われると当惑を禁じ得ないのですが・・・。簡単にいうと、

確かにオペラはルネサンス時代、イタリア、フィレンツェで誕生しました。
フィレンツェのカメラータが古代ギリシャ劇の再演を目指したのが始まりです。

ルネサンス後、イタリア人がヨーロッパのオペラ界を牛耳っていきました。
とくに17世紀後半から18世紀のバロック時代、優秀なカストラート歌手を産んだナポリ楽派の勢いは他に並ぶものがありませんでした。
音楽理論も同様です。たとえばモーツァルトも《魔笛》の冒頭、3人の侍女が大蛇を退治する劇的な場面で『ナポリ6度』を使用しています。

そんな大スターのカストラート歌手を育てるために当時大人たちがやったことはとんでもない小児虐待です。
男児の去勢手術は、至高の芸術という祭壇へのお供えの儀式だったのです。

加えて、ナポリ音楽院は音楽のみならず厳しい一般教育を施しました。

そんなカストラート歌手はナポリからアルプスを超えてオーストリアやドイツ、海を超えてイギリスまで「輸出」されました(ただ、バレエ嗜好の強いフランスは少し様子が違いますが)。

バロック時代のオペラ作品はカストラート歌手のために書かれたと言っても過言ではありません。
そして、彼らとオペラは王侯貴族の庇護なしには存在できませんでした。

ところで、バロック時代というと『バッハのバロック音楽』を考える人も多いと思います。ただ、バッハの活動はライプツィヒを中心とした狭い範囲で、その後19世紀初めまで忘れられてしまいました。もちろん大作曲家で、素晴らしい作品を残しましたが、バロック時代はオペラの時代だったのです。

その意味で『オペラはイタリア』でした。

なぜ私が当惑するかというと、『オペラはイタリア』という人で、バロック時代のオペラ作品に注目し、観たいという人が少ない気がするからです。

オペラを『豪華絢爛な劇場で、絢爛豪華な美術と衣裳、スター歌手の至高の芸術に酔う』と考えている人にうってつけなのが、まず、バロック・オペラなのです。

カウンター・テノールの素晴らしい歌唱を聴きつつ、今は存在しないカストラート歌手の歌唱を想像し、作品を楽しむ・・・それができる機会は実に少ない。
そのひとつが紛れもなく、このバイロイト・バロック・オペラ・フェスティヴァルだと思います。

『あれ』から去勢手術、カストラート、バロック、オペラ・セリアの英雄、古代オリンピック、オペラ・ファン・・・
そんなことを考えながら上演を観ていました。

FOTO:(c)Kishi

以下はフェスティヴァル提供の写真です。

© Clemens Manser
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© Falk von Traubenberg
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© Clemens Manser

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