西加奈子「i」を読んで
自分に起こった危機、自分に起こった恐怖、それを語る権利を、アイは得たかったのだ。そして後に、そんな権利を得ようと思った自分を、この上なく恥じ、軽蔑したのだ。
愛があるかどうか
苦しんでいる人にどうやって声をかければいいのだろう。
例えば、病気の人に対して、その病気を経験したことのない自分がその人の気持ちをどれだけ理解出来ているのか。
「経験していない人に気持ちは分からない」
と言われると返す言葉もない。だからといって、声をかけなかったり知らないフリをするのは違う。「じゃあどうすれば?」その答えが、ずっと分からなかった。
愛があるかどうかだよ。
主人公アイの夫であるユウの言葉。
これはどんなことにでも共通する、一つの答えだと思う。
他人の痛みは想像するしかなくて人にはそれぞれの苦しみがある。想像は想像でしかないことは確かで、慎重に言葉を選ぶ必要はある。でも、そこに愛があるなら愛はきっと伝わるんだと「i」を読んで強く感じた。
私はここよ
アイは自分の恵まれた環境を恥じ、その恥じる気持ちに苦しみ続けていた。
そんなアイが最後に色鮮やかに解放され
この世界にアイは、存在する。
と自分の存在や愛の存在を認めた時、アイが過去の自分を抱きしめたくなったように私もアイと自分自身を抱きしめたくなった。