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読書日記断片⑤ 電子書籍も悪くない

韜晦でも何でもない事実として、僕はまったく読書家ではないのだが、いちおう出歩く時には本を持ち歩いている。書痴の端くれとしての嗜みである

ジャンルはいろいろで、収集対象であるところの近代小説やその研究書だけでなく、現代ミステリや文化史の本とか、できるだけ傾向が偏らないように気を付けている。

しかし、コレクションとして買っている"初版本"を外へ持ち出すのは憚られる。ただでさえ状態の悪いものが多いのに、持ち運べばそれだけ傷むし、予測不能な脅威が潜んでいる電車内などで開くのもちょっと避けたい(というか、埃だらけの本を僕が取り出したら、隣の乗客はあずましくないことであろう)。

かといって、根が吝嗇な僕は、新刊で購入したピンピンの本ですら、傷むのを恐れて携帯することができないのである。グラシン紙を巻き、その上からブックカバーを巻いたとしても、屋外の塵芥に汚れるのが堪らなくイヤなのだ。

と、いうことで、僕が持ち出すことのできる本の条件は、①高価でないもの ②古書としての価値が高すぎないもの ③新品でないもの、ということになる。
ランクとして言えば、古書店の均一で買ったものとか、ブックオフやヤフオクメルカリで購った、比較的新しい古本に限られてくる。

いろいろ勉強したい気持ちとは裏腹に、制約があまりに大きい。


まあそれはそれとして、いま読んでいる本はこれ。

★近代食文化研究会『お好み焼きの物語』(新紀元社)

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著者はTwitterでさまざまな食文化に関する蘊蓄を傾けていらっしゃる方で、このテの雑学本にありがちな孫引きに次ぐ孫引きに頼るのではなく、徹底的に当時の資料を参照して歴史を書き起こしている、いわば正統派の書き口である。

ネットで読んで深く感心したのが、「福神漬けは如何にしてカレーの付け合わせになりしか」という件。どこのページから読んだのか覚えていないが、以下のリンクから参照できるので是非読んで欲しい。


『お好み焼きの物語』も、なんとなく語られてきてしまった"それらしい"トリビアを、資料(史料)でもって丁寧に検証し、覆していくスタイルが実に痛快である。

関連した食べ物にも触れているので、これを読めば「お好み焼き」だけでなく、「もんじゃ焼き」「ウスターソース」「支那蕎麦(ラーメン)」などの日本史に詳しくなれることは間違いない。


ところで、最近新しいスマホにKindleのアプリを入れてみたところ、ずいぶん前にライブラリに入れていた本がいくつかあることが分かった。
いつ入れたものか記憶にないが、そのうちの1冊に、本書『お好み焼きの物語』の電子書籍版『お好み焼きの戦前史』があった。

冒頭に書いたように、僕は本を持ち歩くのに抵抗があるものだから、これを好機と、ここ数日はスマホでもって『戦前史』を読み進めている。

いままでどうも電子書籍には後ろ向きであったのだが、使ってみればなかなか快適である

本が傷むのを忌避する一方、こういったお勉強的な本には書き込みを厭わない主義なのだが、電書ならマーカー機能で簡単にできる。気になるワードをすぐ検索できるのも強みだろう。

また、これは本書でとりわけ顕著に言えることだが、電書であれば発売後も著者が内容をアップデートすることができるのである。小説ならともかく、情報の正確さをウリにする本において、これは実に優れた特徴と言えよう。


一方で欠点もある。

僕は紙の本を読むとき、フレーズとかキーワードが見開きでどの位置にあったか、だいたい記憶している。従ってページを遡って読み返そうと思ったときに、「右ページの右下あたり」などとおおよその見当をつけて検索することができるのだが、電書だとそれが難しい。

むろん検索窓に言葉を入れて文字列検索をすることは可能だが、画面があっちこっちに飛んで、いま読んでいる場所がわからなくなったりするので、アナログでページを繰るのに慣れきっていることを痛感する。

また、以前急ぎの用があってKindleで漫画を読んだことがあるのだが、どうもしっくりこなかった。よくできた漫画ほど、紙の本における「ページ」の扱いが上手く、たとえば見開きをいっぱいに使った表現などでインパクトを与えたりするものだが、アプリでは半ページずつ、もしくは見開きが圧縮して表示されるので、どうしても効果が薄れる。


紙の本も電子書籍も一長一短で、それぞれに良い点とイマイチな点があるのは当然である。

せっかく勢いが付いたのだから、うまいこと使いこなして、読書習慣を身に着けたいところだ。


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文化史系の本も、どんどんこなしていかないと。最近買ったのだけでこれだけあるのだから、架蔵のすべてをきっちり読み終わるのは何年後か……。

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