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読みきりの短編や、中編・長編の試し読み
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#物語

[試し読み]紅の石使い 第1話 天空の砦

 吹き荒ぶ風が顔を刺す。千切れそうなほど髪がうねる。感覚を失うほど皮膚が冷えていく。息をすることさえままならず、全身に大きな獣がのしかかるような風圧に耐え、薄く瞼を開くと、灰色の雲間を真っ逆さまに落ちていることを確信した。 *  そのときリックは迷子になった仔羊を探していた。父に言われ、数頭の羊を連れながら空を眺めていたときのことだ。リックの碧い目は白い半月が浮かぶ空を映し、ますます碧くなった。  流れる雲を目で追っていると、白い鳥の群れが滑らかに飛んで来るのが見えた。

[試し読み]モナート 第1話 おはよう、世界

 目が覚めたとき、私は少年になっていた。  ジュラルミンの台の上で身を起こすと、傍らには二人の人間がいる。ひとりはネイビーのスーツを着た眼鏡の中年男性で、もうひとりはモスグリーンのワンピースを着た白髪の老年女性だ。私はゆっくり首を回し、隣にある巨大な鏡に映った自分の姿を確認した。  瞳の色はサファイアのように青く、体は細身で肌は白い。プラチナブロンドの髪はボブカットにしてある。最初は少女と錯覚したが、骨格、体の凹凸、白と紺の水兵服に膝丈のショートパンツという格好から、十二

[試し読み]星の子供たち Episode.1 暁

さらさらとした砂ばかりが続く白い大地に、暴力的な太陽の光が照りつける。地表から草木が姿を消して千年、大気が薄くなるにつれ、紫外線は強さを増した。昼間は大人でも防護服なしで外を歩くことができないのだから、十三歳になったばかりの俺が、そう簡単に外へ出ることは適わない。 子供が外に出ることを許されるのは、陽が沈んだ後だけだ。それでも酸素が薄く、昼とは逆に凍えるほど気温の低くなった外に出ていられるのは僅かな時間。限られた時間で食い入るように見つめるのは、宝石を散りばめたような眩い夜