コスモポリタン都市で『和食』を『誰かを想う』と解く
『人口の4人に3人が外国人』という世界第二のコスモポリタン都市ベルギー・ブリュッセルに住んで、三十年近くになる。
そこで生まれ育った息子たちがこよなく愛するもののひとつは、どっこい『和食』である。それも、雅な設えのものより、素朴であったかい家庭料理の方だ。三色丼や鰯の蒲焼、ほうれん草の胡麻和えやアサリの味噌汁などのお馴染みの品々。長年、夏休みの度に日本のばあばがふるった威力は然ることながら、母親である私がベルギーでの子育て期において、息子たちのためにおそらく一番心を砕き時間を割いた、愛しい『和食』。日本の外で材料の調達はそう容易いことでもなく、それをこんなに愛してくれることになって、なんだか、誇らしい。
息子たちが通った地元の公立校は、全校生徒二千人ほどの各家庭に縁のある言語を数え上げると、実に四十あまりにも上るほど多彩な環境だ。そこでは言語のみならず、人種も文化も宗教も思想も社会的差異も、まさに『異なることが前提』になっている。友人たちから見聞きする話も、食卓を彩る食事だって。
とはいえ、幼少期は、学校におむすびを持参すると珍しそうに眺められることを恥ずかしがって給食やサンドウィッチを望んだが、高校生にもなるとむしろ、BENTOを羨ましがられ、勇んで持っていった。親友たちに振る舞い、お礼に未知の品をもらい、小さな国際交流を地で行った。
ブリュッセルはまた、知る人ぞ知る美食の街である。大御所パリに輝くレストランは数知れないけれど、残念な店だって多いと聞く。その点ブリュッセルは、満足のゆく店が多くハズレが少なく平均点が高いと囁かれもする。食事が人生の一大事であるベルギーではだから、食事の多様性も上質を求める姿勢も評価されるのだ。
かくして私は、世界各国からここに流れ着いた友人知人にも、肌や瞳の色も、言語も、宗教も、ジェンダーだって想像を超える、息子たちの未来のパートナーにも、孫たちにも、和食に腕を振るい続けるに違いない。だって、胃袋をぬくぬく満たす相手との争いごとを、いったい誰が望むだろう。
我らが『和食』の温もりを味わってもらう。『美味しい』は『幸せ』、それが溢れたら『誰かを想う』力が湧くというものだ。ということは、みんなが『和食』を『美味しい』と感じたら、みんなが『誰かを想う』ことに繋がるではないか!
ささやかな『美味しい』をこれからも届けたい。
#未来のためにできること#海外暮らし#ベルギー#ベルギーの森から
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