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【読書感想文】ホームズの知識ほぼないのに『再演のライヘンバッハ』を読むという暴挙
どうも!
突然ですが皆さん、シャーロック・ホームズシリーズは読んだことありますか?
あれほど世界的に有名な探偵小説を読んだことない人なんかいるわけないじゃないですか〜やだ〜という声が聞こえてきそうです。
はい、ここにいます。
正確には、小学校低学年くらいに児童書で『まだらのひも』と『青いルビー』は読んだことあるはずなのですが、まったく覚えてないのでノーカン状態です。
青いルビーてそれサファイアじゃないん????
と思って調べたら、原文では『青いカーバンクル』が正しいらしいですね。
翻訳にあたりわかりやすく『紅玉』にしたら、本来の日本語では『紅玉=ルビー』であるため、間違いが広まっちゃったとかなんとか。
そもそも『青い紅玉』って一行で矛盾してますがな。
近年では『青いガーネット』と訳されることが多くなっているようですが、この宝石の正体はスター・サファイアであるとか、ブルー・ダイヤモンドであるとか、いろんな説があるそうです(Wiki調べ)。
話は戻しますけれども、そんな私のホームズ知識はほぼ名探偵コナンくんからきてます。
特に、私史上最高におもれーコナンくんの映画、『ベイカー街の亡霊』は私にホームズを教えてくれた最高の作品なので全人類一度は見るべき。
数あるコナン映画の中、もし私がなにか一作挙げろと言われたら迷わずこの作品を推します。そのくらい好き。
当時お小遣いでDVDを買い、今でも大切に取ってあります。
江戸川乱歩賞を受賞した小説家の野沢尚氏が脚本を書いているので、面白くないわけがなかった。
後年、ふと気になって野沢氏について調べたら、自死されたと知ってしばらくショックで立ち直れなかった思い出が……。
そのくらいホームズについては、この作品の印象が強いです。
さて、そんなホームズにわかな私が本日ご紹介するのはこの作品、デデン!
『再演のライヘンバッハ』!!!!
例のごとく前半はネタバレなし、後半はネタバレありでいきます。
まずはあらすじ、ぺたりといきますけれども。
再演のライヘンバッハ あらすじ
1891年5月4日、シャーロック・ホームズを道連れにライヘンバッハの滝へ消えたジェームズ・モリアーティ教授。気がつくと彼は、20年前にタイムトラベルしていた。うかつに過去を変えるのは危険だ。したがって、ホームズが滝壺へ落ちるまで待つと決めたものの、いささか寿命が心もとない。そこでジキル博士の変身薬で若返ろうとするが、なぜか美少女になってしまった! しかも次第に、本来の過去とは誤差が生じ始め――モリアーティはふたたび、ライヘンバッハへ至ることができるのか。【カバーイラスト/MARIA】
本の概要 より
そもそも、なぜ私のようなホームズにわかが本作品を手に取ったかというと、今月頭に作者先生のツイート(最近知りましたが、今は『ポスト』と呼ぶのが正しいらしい。慣れぬ……)がバズって、私のところまで流れてきまして。
細かいパーツは似ていないのに全体のバランスとか表情とか見比べるとだんだん似てる気がしてくる……(SAN値1減少 https://t.co/8wEBR3lWKN pic.twitter.com/GFsUbaazk8
— 森人 (@al4ou) December 5, 2024
で、そこにツリーでこんなツイート(……ポ、ポスト……)がぶら下がっていたのです。
嫌じゃ! こんなアホみたいな引リツでバズりとうない! そんなことより儂の本を読んで! モリアーティ教授が女体化してホームズのストーカーになるから!https://t.co/OnkITNA4kw
— 森人 (@al4ou) December 6, 2024
ほうほう、女体化したモリアーティ教授がホームズのストーカーとな?
近年いろんなキャラクターが女体化していますが、モリアーティ教授の女体化はまだ見たことがなかったな……。
そこでわたくし、好奇心でリンクをポチッとしてみました。
そこには見どころとして、こんな紹介文が。
「ホームズ・シリーズって話によって記述が矛盾してない?」
「コナン・ドイル先生さあ、ホームズ書くの嫌だったからって雑すぎない? 記述矛盾しちゃってるじゃん」
「なんで時系列順じゃないの? しかもこれだと記述矛盾してない?」
シャーロキアンにかぎらず、ホームズ・シリーズの読者は少なからず疑問に思った経験があるでしょう……それが実は、時間が巻き戻っていたせいだったとしたら?
そう、すべては女体化したモリアーティが過去改変したせいだったんだよ! ナ、ナンダッテー!
19世紀末を舞台に、ドラキュラ伯爵やトム・ソーヤーなど名作のキャラクターたちがアッセンブルする、ヴィクトリアン・ユニヴァース第一弾! ここに開幕!
Togetter より
な、なんか面白そうじゃあないか……!
ただの女体化なら「ふーん」ですませていたと思うのですが、こういう原典の矛盾を力技で解決するために『女体化』という要素を差しこんでくる作品は嫌いじゃありません。むしろ好き。
むちゃくちゃな設定を大真面目に貫きとおしてくれる作品は面白いって相場が決まっています。
しかもKindle Unlimitedで読める!!
というわけでポチッとKindleに入れておき、このたび読みはじめたわけです。
ちょうど読書垢も作ったことだしね!
で、読みはじめて割とすぐの感想。
面白いし、めちゃくちゃ読みやすい。
モリアーティ生還後、ちょっと地の文が続くんですけど、文章が読みやすいのでサラサラいけちゃう。お茶漬け感覚。
ちょっと珍しいトッピングが乗ってるのに、基本がしっかりしているので変なアレンジャーの未知なる料理にはなっておらず、ちゃんと従来の味わい深さを感じる。それでいて新鮮さも感じて、安心して食べられるのに飽きがこないという不思議な味わい(小説の話です)。
会話シーンのテンポがよく、それでいてシャーロック・ホームズ作品っぽいというか、海外翻訳小説のような言い回しもあり、文章からヴィクトリア調の香りがただよってくる。
ホームズにわかの私が「あー、これこれ! これこそシャーロック・ホームズだよね〜!」とか知ったかぶりするくらいシャーロック・ホームズ感ある。
言うてホームズのこと幼稚園時代の先生の顔より覚えてないけど。
お前がホームズのなにを知っているんだ、とシャーロキアンから石を投げられそう。
女体化というトンデモ設定なのに、なんならそれすら納得のいく理由を用意しているからすごい。
理由を聞いたら、「ほな女体化もするか〜」ってなる。
あらすじからわかるように、今作には『ジキルとハイド』とか『ドラキュラ』とか、ファンタジーやSFなどの要素も織りこまれているんですよ。
というか、めちゃくちゃいろんな同時代作品を、同じ世界に共演させている。
かといって話がとっ散らかったりせず、これだけの情報量をきちんと一冊にまとめきっているのがすごい。匠の技。
それはきっと、このヴィクトリア時代を語るうえで避けては通れない光と闇の部分をきっちり描き、かつそれらに絡めたオリジナル設定が、それぞれの要素を自然と結びつけているからです。
作者自らあとがきにて「さしずめヴィクトリア朝・アヴェンジャーズ」とおっしゃっているのですが、まさにですね。
というか出てくる人物がほぼ客演なので、ほとんどの読者が一度にすべての元ネタを把握するのは難しいほどなのですが、それでも違和感なく最後まで読ませてしまうのがすごい。
本作はいわゆるホームズ・パスティーシュの作品なのですが、未読者にもわかるよう、必要な情報はきちんと解説してくれているので、ホームズにわかな私でも安心して読めました。
そして、きっとそれぞれ元ネタの原典を読みたくなることでしょう。
知らない人も楽しいし、知ってる人はより面白い作品だと思います。
ここからネタバレありです。
では、以下本編の内容にガッツリ触れつつ感想を述べていきたいと思います。
あと私のシャーロック・ホームズに関する知識がほぼ『劇場名探偵コナン ベイカー街の亡霊』由来なので、ベイカー街の亡霊のネタバレもあります。
まず本作で私が一番心揺さぶられたのは、ホームズとモリアーティの関係性ですよね。
アイツらなんなん??
いや、いきなり暴言じみた言葉がまろび出てしまったのですけれども、そう言いたくなる私の気持ちもわかってほしい。
冒頭のやり取りからしてもうね、何??
お互いのことはお互いが一番よくわかってますよと言わんばかり。
おそらくホームズもモリアーティも天才であり、だからこそ孤高で、その孤独を本当の意味で理解してあげられるのはお互いだけなのでしょう。
ホームズのほうには相棒であるワトソンがいて、調べるかぎりホームズはなんかワトソンのこと好きすぎない???? って感じなんですけど、でもワトソンはあくまで凡人なので、天才であるホームズを本当の意味では理解してあげられないし、孤独を埋めてあげることはできないんだろうな。
なんかちょっと調べるうちにWikiかなにかでチラッと見てしまったけど、結婚して自分から離れていってしまったワトソンに、ホームズがめちゃくちゃ恨み言をこぼしてるみたいだし。
いや、これはこれでクソデカ感情すぎる。
でもね、モリアーティ教授という存在も、ホームズにとっては大きい存在だったと思うんですよ。
だって彼が亡くなったあと、「モリアーティを失って以来、この町はつまらなくなった」って愚痴こぼしてたの知ってるんだからなホームズお前。
Wikipediaで見ちゃったんだから。
まあ、光あるところに影が生まれ、影があるからこそ光が際立つように、彼らはお互いに表裏一体の存在なのでしょう。
真逆ってことは、ある意味一番近しい存在なのかもしれません。
普通はそんなキレイに反転しないものですからね。
つまり彼らは根本的には同じ性質だということです。
そんな彼らですが、それでも相容れないものがあります。
それは『あの薬』に対しての考え方。
この『薬』については後ほど出てくるわけですが、この時点ではまだわかりません。
ただ、その薬が人間の本性を引き出すものであることは説明されます。
そして、それに対してモリアーティは、
「もし薬を飲んだ者が悪魔になるなら、もともとその者の本性が邪悪だったということだ」
と言い、ホームズは、
「たとえ本性が邪悪であろうと、善良に生きることはできる。ある意味では、生粋の善人よりも尊敬に値する人々だ」
と主張します。
私が思うに、モリアーティの考え方って一見して冷酷そうに聞こえるのですが、ある意味で潔癖ですよね。
これって裏を返せば、
「魂から潔白でない人間は善良ではない」
ってことじゃないですか。
それってつまり、「盗もうと思った時点で、すでに罪を犯している」みたいな話ですよね。
なんというか、どこか信心深さも感じます。
一方のホームズは『思想・良心の自由』を尊重していますね。
ちなみにこのへん、国際法では90年代に保障されたらしく、ホームズは時代の先どりをしているとも言えます。
ある意味、こっちのほうが現実主義者ですね。
反面、モリアーティは宗教的な考えを持っているようです(これは原典モリアーティからしてそうなのか、本作オリジナルの設定なのか、原典ミリしらの私には判断がつかないのですが……)。
作中、モリアーティがこんなことを言っています。
モリアーティはいわゆる神のような、高次元の存在を信じている。パスカルの言い分をもっともだと認めているからだ。パスカルは神を信じるほうが得だと言った。なぜなら、神を信じた者は賭けに勝てば地獄行きを免れるし、たとえ負けても損はない。
著・木下 森人
p12 より
これは『パスカルの賭け』というフランスの哲学者ブレーズ・パスカルが提案した考え方だそうです。
さすがの私も、モリアーティが数学者だということは知っていたので、もっと「ふん。科学で証明できないものなど、くだらん」みたいな迷信とは縁のない性格なのかと勝手に想像していたのですが、意外にも人間くさい一面を感じ取った場面でした。
神を信じる理由が合理的な点は、さすが犯罪界のナポレオンといったところですが。
そんなわけで、タイムリープの事実も最終的には受け入れたようでした。
というか、ここでモリアーティが、
「すべての不可能を除外して最後に残ったものが、たとえどれほどありえそうになくとも、それが真実ということだ」
などと言うのですが……。
そ、そのセリフ知ってる〜!
名探偵コナン28巻 282話 FILE9『最後の一矢』でコナンくんが言ってた〜!
服部…
不可能な物を除外していって残った物が…
たとえどんなに信じられなくても…
それが真相なんだ‼︎
著・青山 剛昌 出版・小学館
282話 FILE9『最後の一矢』
コナンくんが言うってことは、つまりシャーロック・ホームズのセリフの引用なわけです。
つまり、図らずもモリアーティはホームズと同じことを言っていたわけですね〜!
……いや、まてよ?
このモリアーティはホームズのことをものすごくよく知っています。
動向だけでなくセリフの一つひとつまで、それこそストーカーのごとく。
つまりこれは、ホームズのセリフが、モリアーティの考え方に影響を及ぼしているのでは????
元々似たような思考の持ち主って可能性もありますが……このモリアーティならありうる。
ちなみに、上記のエピソードでもわかるように、名探偵コナンの英才教育のおかげで、ホームズにわかな私でも有名なセリフはわかりました。
本編で『緋色の糸』という単語が出てきた時には、ベイカー街の亡霊で工藤勇作シャーロック・ホームズが、
人生という無色の糸の束には、殺人という真っ赤な糸が交ざっている。
それを解きほぐすことが、我々の仕事なんじゃないのかね?
ベイカー街の亡霊 より
って言ってたな〜と嬉しくなりましたね。
わかる、わかるぞ……! と、石板を読むムスカの気分。
ちなみにこのセリフ、シャーロック・ホームズシリーズの『緋色の研究』に出てくるセリフだそうです。
知ってるよバーローとコナンくんに怒られそう。
なにしろ私、ライヘンバッハの滝がスイスにあることも知りませんでした。
ホームズといったらイギリスなので、てっきりイギリスのどこかにあるのかと……。
国外を舞台にしたりもするんですね。意外とワールドワイド。
そしてモリアーティもまたフッ軽なので、変身薬の材料を求めてハンガリーやらルーマニアやらへ旅だったりする。
いやあ、トランシルヴァニアと聞いて、もしやとは思ってたんですよ。
さすがの私も、かの有名なドラキュラ伯爵や、そのモデルがヴラド3世であることは知っていましたからね。
変身薬の材料、最後のピースが吸血鬼の血と聞いて納得です。
変身する吸血鬼って多いですもんね。
そうしてドラキュラ伯爵に気に入られたモリアーティは、完成させた変身薬を飲むわけですが……まあ、なんと金髪碧眼の美少女になっちゃうわけです。
この美少女、おそらく不思議の国のアリスがモデルですね。
作中で青いエプロンドレスを着ているのはもちろん、チャールズ・ラトウィッジ・ドジソンが変名で発表した小説を読んだりしています。
このドジソンはルイス・キャロルの本名――つまり、変名で発表した小説とは、かの有名な『不思議の国のアリス』でしょう。
アリスはワンダーランドに迷いこむわけですが、一方で自分がなぜ少女の姿になってしまったのか、いったい自分のどんな感情がそうさせたのか、モリアーティあらためフリーデリケは迷宮にはまりこむわけです。
『不思議の国〜』の作中で「私は誰?」とモラトリアムに陥るアリスは、自分でも理解していなかったモリアーティの本心を表すのにピッタリなキャラクターだったわけですね。
とはいえわたくし、「自分の本性にふさわしい姿になる」という変身薬を飲んだモリアーティが美少女になったときには、なんとなーく察しがつきました。
冒頭であんなに「お前を一番理解しているのは私だ!」ムーブされちゃあね……。
そりゃ隠すのはムリってもんですよお嬢さん(いや元はオッサンなわけだけど、今は名実ともに少女であるからして)
途中でどんどん暴走しだして、娼婦を自らの手でぬっ殺してしまったり、ホームズに直接モリアーティの著書を手渡しにいってしまったあたりでは、
「いや、これ変身薬の副作用で理性ぶっ飛んでない!? アンタ本来もっと冷静で、自らの手を汚さず裏で糸引くタイプだったでしょーが!!」
と思ったもんですが、ちゃんと作者の意図するところだったようです。やっぱりね〜!
キャラがぶれてるわけじゃなく、しっかり伏線だったわけです。
もうね、後半スタビンズにホームズについて語って聞かせてやるシーン、オタクの早口そのまんま。
好きじゃん。
めちゃくちゃ好きじゃん。
そして、そんな自らのクソデカ感情に気づき、最終的には受け入れる……どころか、開き直って「おのれこそがホームズにふさわしい」と押しかけようとする始末。
おい待て暴走娘。
でもね、そんな激重感情を抱えているキャラクター、嫌いじゃないです。むしろ好き。
だから今一番の願いは、娼婦をコロコロしちゃった犯人がフリーデリケであることがバレたり、ましてフリーデリケの正体がモリアーティであることがホームズにバレたりしないでほしいってこと。
だってホームズ、名探偵じゃん。
めちゃくちゃ推理力あるじゃん。
「すべての不可能を消去して、最後に残ったものがいかに奇妙なことであっても、それが真実となるんだよ、フリーデリケ嬢……いや、モリアーティ教授」
とかドヤ顔で言いそうじゃん!!!!
やだよー! そんなのやだやだ!!
たとえ中身がオッサンだとしても、私は恋する美少女が泣くところなんか見たくないんだよ!!!!
それに、美少女にクソデカ感情を向けられてるイケメンがスカした態度のままなのも嫌だっ!
だって中身がモリアーティってことは、ホームズにとって初めて対等に競い合える女性になるんじゃない?
そりゃ、世間ではアイリーン・アドラーこそホームズが唯一愛した女性であるとか、ただ一人名探偵を出し抜いた女性とか言われてるけどさ?!
フリーデリケ嬢なら、(暴走さえしなければ)アイリーン以上にホームズを翻弄できること間違いなしじゃん!?!?
私はイケメンが美少女に情緒を乱されてるところが見たいんだよ!!
真実を暴くことを躊躇してしまうくらい、自分のエゴのために謎を謎のままにしてしまう名探偵とかどっかにいないですか!?(そこにないならないですね)
あとは、本編では絶対に出てこないだろうけど、ふと、
「もし変身薬をホームズが飲んだとしたら、どんな姿になるんだろう?」
なんて疑問もよぎったり。
いや、でもあまりにロマンスを話の中心にされると、それはそれでなんかちょっと違うので(めんどくせーオタク)、トムとジェリーみたいに永遠に追いかけっこやっててほしい……。
それこそ、冒頭で二人が、
「キミさえその気なら、私たちは上手く付き合えたと思わないか? 私が犯罪を演出し、キミが名探偵としてその事件を解決する。さしずめ新聞小説のように、何度でも茶番を繰り返せばいい。きっと楽しいぞ」
「……確かに、そんな未来を一度でも想像しなかったかと言えば、嘘になるだろう」
著・木下 森人
p6 より
と言っていたように、ホームズとモリアーティで成立しなかった関係が、ホームズとフリーデリケで実現しないかな〜。
そんな未来を妄想してしまうのでした。
本作の最後、フリーデリケはビリーというページボーイとして221Bに潜入しているので、今後どうなるのかひっっじょ〜〜〜〜に楽しみです。
恋も謎も、ぜひ翻弄してやってほしい。
なんか私が二人の関係ばかり熱く語っているので誤解されそうなんですが、本作はミステリー部分もめちゃくちゃ作りこまれていますし、決してロマンス小説ではないです。
そこのところ誤解なきようお願いいたします。
あっ、そうそう。
最後にちょっと気になったのですが、本編中にこんな記述があったんですよね。
ポーロックが最初に接触して来たのは、今から三年半ほど前だ。その日は新聞の訃報欄で、ジョナサン・ハーカーの死を知った――出張先のトランシルヴァニアにて事故死、と。しかも彼の婚約者ルーシー・ホルムウッドも、あとを追うように病死したという。旧友の死に悲しむホームズへ、ポーロックから手紙が届いた。
著・木下 森人
p171 より
いや、原典『吸血鬼ドラキュラ』の結末とめちゃくちゃ違ってる――!!
これって本編でクインシー・P・モリスがフリーデリケのこと「おもしれー女……」とか言って(多分)惚れちゃったから??
クインシーて本来はルーシーに惚れてて、求婚するんですよね??
そして、正史ならドラキュラ伯爵との死闘の末に亡くなるのはクインシーのほうで、ハーカー夫妻は生き残り、生まれてきた息子に「クインシー」と名づけるはずです。
それに、ジョナサンの妻はルーシーの幼なじみであるウィルヘルミナ(ミナ)・ハーカー(旧姓マリー)のほうで、ルーシー・ウェステンラにはアーサー・ホルムウッドという婚約者がいたはず。
そして彼女はドラキュラ伯爵によって吸血鬼化してしまい、最終的に亡くなるはず。
しかも「ルーシー・ホルムウッド」の名前になっているということは、ルーシーは一度アーサー・ホルムウッドと結婚して、その後にジョナサンの婚約者になったということ??
【追記】
作者の木下森人先生より、「1958年の映画版に近い形で改変された」と元ネタを教えていただきました。
感謝……!
圧倒的感謝……!
【追記ここまで】
なんか原典とめちゃくちゃ剥離しているのが気になりますが、これは続編が出たら明らかになるのか、ひょっとして作者の別作品『呪われた黄金の飢餓』に繋がるのだろうか??(そちらはまだ未読なので、いずれまた読む予定)
多分、フリーデリケの影響で、いろんなバタフライエフェクトが起きているんですよね。
一周目のワトソンがアフガンで負傷したのは肩だったのに、二周目では足になってるし。
一周目のワトソンはモリアーティについて「まったく(聞いたこと)ないね」と言っていたのが、二周目では「有名な科学的犯罪者」と言っているし。
このままいったら、どれほど原典と剥離していくのか。
私、気になります。
はてさて、そんなこんなで『再演のライヘンバッハ』、ホームズにわかでもとっても楽しめました!
作者の木下森人先生があとがきで、
ところで確認するのは今さらかもしれませんが、あなたは原典をすでに履修済みですか? もしそうでないとしたら、「なんで本作を読んだの?」と言いたいところですね。――いやいや、もちろんべつにかまわないんですけど。むしろありがたいんですよ。ただ、原典読まずに本作を読むのって、例えるなら『装甲悪鬼村正』の原作プレイせずに、いきなり魔界編読むようなものだと思うんですけど――エッ? 例えがよくわからない? ああ、ひょっとして十八歳未満の方?
著・木下 森人
あとがき より
とおっしゃられていますが、まさに私ですすみません!
でも面白かったです!!
これを機に原典履修しようと思います。
ちなみに本作を読みながら元ネタを調べまくった結果、相当量のメモが溜まったので、のちほど別記事にまとめます。
というか、私がX(旧・Twitter)で本作について呟いていたら、なんと作者の森人先生直々にお声をかけていただけまして、図々しくもめちゃくちゃ元ネタについて質問しまくったので、かなりの範囲をカバーできたと自負しております。
もし本作を読んで元ネタについて気になられた方は、ぜひ参考にしてください。
あっ、そうそう。
先生にご回答いただけた中で、特に「す、すごい……!」と感動したものがあったため、ここでご紹介いたします。
これは私だけが独り占めするのはもったいなさすぎる……!
Q.「フリーデリケ・ヴィルヘルミーネ・プルンペ・フォン・オルロック」の名前も元ネタがあるのでしょうか?
映画「吸血鬼ノスフェラトゥ」「ジェキル博士とハイド」監督のF・W・ムルナウの本名フリードリヒ・ヴィルヘルム・プルンペです。ファーストネームはモリアーティの複合性というシャーロキアンの説に絡めたオリジナルです。
— 森人 (@al4ou) December 25, 2024
フレデリックの愛称はフレッドで、Orlockの頭にPlumpeの頭文字Pを足すとPorlockになります。あとヴィルヘルム(ウィリアム)の愛称はビリーです。
— 森人 (@al4ou) December 25, 2024
フリーデリケ・ヴィルヘルミーネ・プルンペ・フォン・オルロック
↓
フリードリヒ・ヴィルヘルム・プルンペ
(元ネタになった監督)
↓
フリードリヒの英語読みはフレデリック
(今作モリアーティのファーストネーム)
↓
フレデリックの愛称はフレッド
↓
ホームズと内通しているモリアーティの部下はフレッド・ポーロック
↓
Orlockの頭にPlumpeの頭文字Pを足すとPorlock
さらに、
ヴィルヘルム(ウィリアム)の愛称はビリー
↓
221Bのページボーイはビリー
という、
モリアーティ=フリーデリケ=ビリー=ポーロック
の図式が成り立っているわけです!!
いや、ここまで作りこんでいるのすごくないです????
ムダな情報がほぼない作品ですよ。
そんなインディーズにしておくにはもったいないくらいの小説『再演のモリアーティ』、オススメです。ぜひ読んでみてください!
それでは、今回はこのへんで。
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