【選挙ウォッチャー】 名護市長選2018・分析レポート。
僕たちはまさに「歴史的な瞬間」を目撃することになりました。2018年2月4日、辺野古基地問題を抱える沖縄県名護市長選が行われました。日本の未来を大きく左右する非常に重要な選挙でしたが、4万8781人の有権者が下した審判は「辺野古基地の建設推進」でした。辺野古基地が建設され、オスプレイが落ちるかもしれない命のリスクより、経済が停滞して死ぬかもしれないリスクの方が深刻であると判断されたのです。かなりグレーな戦いを繰り広げていた渡具知武豊さんの陣営でしたが、これが功を奏した形となりました。
■ 稲嶺 進 72 現 辺野古反対
■ 渡具知 武豊 56 新 辺野古推進
最大の争点は「辺野古基地問題」でしたが、10代~50代は渡具知武豊さんを支持し、60代以上の高齢者が稲嶺進さんを支持していました。つまり、若い人たちは新しい基地ができることに抵抗は少なく、それよりも経済が活発になることを望んでいるのです。本土で暮らしている僕たちは「基地」がすべてだと思いがちですが、ここで暮らしている人たちにとって基地問題はそれほど大きな問題ではないのです。どれだけ埃だらけの候補者であっても、世の中は着実に「反左翼」という勢力が広がりを見せていて、この選挙は「反左翼」の勝利になったのだと思います。
■ 「反左翼」という思想の定着と「新自由主義経済」への憧れ
この名護市長選で明らかになったのは「反左翼」という思想の定着と「新自由主義経済」への憧れではないかと考えています。つまり、名護市も含めて日本全体が大きなネトウヨの波に飲まれつつあり、その源になっているのが、たとえ貧富の差が激しくなり、多くの人がより貧困に落ちることになっても、自分だけは裕福でいられるチャンスが欲しいという「新自由主義経済」への憧れです。貧困層をボトムアップするために税金が使われるくらいなら、貧困層を切り捨ててでも夢を見られる経済であった方が良いというのです。
あの池上彰でさえ「リベラル」を「左翼と呼ばれたくない人」と言ってしまうくらいなので、緩やかに沖縄を心配している人たちさえも「左翼」として括られ、その思想がまるで「反日」という印象になりつつあるのです。リベラルとして括られている人の多くは、どんどん右傾化していく日本に危機感を抱いているだけの「本当は真ん中にいるかもしれない人たち」かもしれないのですが、百田尚樹さんや我那覇真子さんのようなカリスマ的ネトウヨの大活躍により、次々に「左翼活動家」というレッテルを貼られてしまうため、まるで悪意を持って日本を貶めようとしているかのような印象をつけられています。僕のような「ネトウヨが気持ち悪いだけ」という人たちまで「左翼活動家」に括られてしまうと、あらゆる発言が説得力を失い、「反左翼」が力を持つようになるのです。多くの名護市民は「ネトウヨ」ではありません。ネトウヨが広めた幻説(言説)が、一般の人たちに広く浸透してしまった結果、名護市は大切なものを失ってしまったのです。
■ 辺野古基地は普天間基地より安全という価値観
残念ながら、辺野古基地が完成しても普天間基地が返還され、移設される可能性は極めて低いです。というのも、一度は合意された普天間基地の返還ですが、アメリカと約束した通りには進んでおらず、再びゼロから交渉を始めなければならないため、アメリカから反故にされる可能性が非常に高いからです。稲田朋美さんが防衛大臣をやっていた時にも、辺野古基地が建設されても普天間基地がなくなるわけではないと言っていましたし、辺野古基地はあくまで「新設」であって、けっして「移設」ではありません。しかし、そんな事情を知る人はほとんどいないのです。名護市民の多くは危険な普天間基地が辺野古に移設されるものだと信じており、保育園や小学校に米軍ヘリの部品が落ちたことも、「辺野古だったら海に落ちるから安全だ」と信じています。普天間のような市街地の真ん中にあるわけではないので、海に部品が落ちる分には人災にはならないと考えているのです。ただ、実際には普天間基地は返還されず、沖縄に新たな基地を建設して、事故のリスクを増やしただけに過ぎません。もちろん、辺野古から離陸したオスプレイが必ずしも海上を飛ぶわけではなく、市街地上空を飛び、不幸にも人災に発展する可能性はゼロではありません。客観的に見ている人たちからすれば「騙されている」と感じる話ですが、詐欺に引っかかっている人たちは実際に痛い目を見るまで気づきません。将来、オスプレイが落ちて「やっぱり辺野古基地は間違っている!」と思った時には、残念ながら、どうすることもできないところまで来ているのです。この決断を後悔するのは20年後かもしれないし、30年後かもしれませんが、この選挙で名護の未来を案じ、「基地を作るべきではない」と言った60代以上の高齢者たちはこの世にはいないかもしれません。この選挙の結果に苦しめられるのは、基地建設を進める決断をしてしまった現役世代。これは「自業自得」の決断になるのです。
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