【勝手に読書感想部】夜行観覧車:湊かなえ
[あらすじ]
高台にある高級住宅地「ひばりヶ丘」
お金持ちやエリートの家族ばかりが住むこの街で、少し無理して暮らすサラリーマン世帯「遠藤家」とスーパーエリート一家「高橋家」。
向かい同士に暮らす、対照的な2つの家庭内で起きた事件とトラブルを描いた作品。
[ネタバレと感想]
*以下ネタバレ含みますので、まだ読まれていな方はご注意ください。
夜の観覧車から俯瞰で見ると煌びやかで美しい街の光景も、近寄ってみるとそうでもなかったりする。
装丁のメルヘンチックで可愛らしいイラストデザインとは裏腹に、ストーリーは重くてムナクソ、それでいて妙にリアルでしたね。
何がいけないのか・・・。複数の問題が絡み合って、うまく作用しなくて、大きなトラブルに発展する。
湊かなえ先生のお家芸でもある、登場人物全員クズ展開に胃もたれがすごかったです。
彩花の親に対する態度と癇癪、真弓の家への執着、淳子の前妻に対する対抗心、さと子の「ひばりヶ丘論」。
登場人物の行動や思考の一つひとつが読み進めていく中で、読者の心を硬く重くさせてしまう。
あ、良幸の彼女が一番気持ち悪かったですね。
それぞれの抱える問題が表面化して、結果的に大きな事件に発展してしまったけど、これは本当にどこの家でも起こりうる事件だったと思います。
ギリギリの精神状態で善悪の境界を超えてしまいそうになった時に、止めてくれる人がいるかどうか。
犯罪になるかどうかは結果論であって、犯罪を犯さない人間が偉いわけではないという部分に、ハッとしました。
自分だってこの先どうなるかわからない。
いつ被害者になるかもしれないし、加害者になるかもしれない。
いつ被害者家族になるかもしれないし、加害者家族になるかもしれない。
それでも、世間は「犯人」っていう響きを許さない。容赦ない。
殺人事件になってしまった高橋家は、家に石を投げられ壁中に落書きされ、ネットで散々叩かれる。
遠藤家は、たまたま彩花が死ななかったから、さと子が止めに入ってくれたから、事件にならなかったから、遠藤家は今まで通りの生活が担保される。
実際、真弓のやったこともかなりえげつないのに・・・皮肉だな・・・。
ラストで、殺された父親を悪者に仕立てた描写は少し切なかったですね。
この先の困難や誹謗中傷から生き延びるために、あと数年どうにかひばりヶ丘で暮らすために、3人きょうだいが決断したのだろう。
そして、「ひばりヶ丘」ブランドを守るために、小島さと子もそれに同調した、というイメージでしょうか・・・。