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付き添い入院奮闘記

SNS上で時折目にしていた付き添い入院。
まさか自分の身に降りかかってくるとは思わず、想像以上に大変だったので、記録として残しておく事にした。
なんの有益な情報はない。ただ付き添い入院をしている時とても心細かったので、同じように付き添い入院で心細い人がここを見つけて少しでも笑ってくださればと思う。


1日目 付き添い入院は突然に

朝上の子を送ってからかかりつけの小児科に駆け込んだ。
明け方下の子が突然吐いて、熱が40℃まで上昇したのである。
風邪を引いたら高熱が出やすい子ではあるが、前日の夜まで鼻水が出ているがそれ以外は特に気になるところもなかった。

いつもは「すぐ治る薬とかはないからね。風邪は。」と言ってくださる先生が、

「炎症の数値が高いから、総合病院に電話して紹介状書くからすぐに行ってね。」

まさかここから当分家で寝れない生活になるとは思ってもいなかった。

夫も合流し、総合病院へ走り込む。事前に総合病院の方から「子どものお昼ご飯になるものを買ってきてから、診察に来た方がいいかも。」とお達しがあったため、西松屋に寄り子ども用の飲むゼリーや経口補水液、パン、そして待ち時間を過ごすためのトミカを買い込み、外来に滑り込んだ。

院内に入ってから、突然嘔吐。
意識はあるものの、ぼーっとしており明らかにかかりつけ医にいた時よりも活気が落ちてきていた。

初回診察時に、「WBC(白血球)の数値が高いけど、入院するほどではなさそう。」とのこと。
ただ、この地域では土日の小児の救急受入れ先がないのを不安に思い、「週末急変した場合はどうすればいいですか?」と聞くと週末だけ入院にしましょうか。という話になった。

突然入院になった事で、家に入院の荷物を取りに行かなくてはならない。
「院内で貸し出せるものはほとんどないんですよ。」の言葉を聞き、慌てて準備をする。

入院する際に持っていったものリスト

子どものもの
着替え(パジャマ)
→普段着よりもベッドでゴロゴロしやすいものを選ぶ
歯磨きセット
→コップ、歯ブラシ、歯磨き粉など。うがいができないこともあるので歯磨き用ナップも。
飲み物
→子ども用麦茶など普段飲んでいるもの
おやつ
→喉通りのよいゼリーなどを少し
おもちゃ
→お気に入りを少々、触り心地の良い小さめのぬいぐるみを1つ
オムツ
→昼用と夜用
おしり拭き
→多めに持っていく。汎用性が高い。
絵本
→お気に入りと図鑑のように時間をかせげるもの
お食事セット
→スプーン、フォーク、エプロン、ドリンクフォルダー、マグ、コップ

大人
着替え
→パジャマと普段着、普段着は乾燥機にかけても気にならない素材のものを選ぶ。寝る際のレッグウォーマーやガウンなど自分がリラックスできるアイテムも。
化粧品
→いつも使ってるもの、小分けにせずそのまま
持参薬
→多めに持ってくる。
携帯の充電器
歯磨きセット
→コップ、歯ブラシ、歯磨き粉。
お風呂セット
→シャンプー、リンス、ボディソープ、洗顔。
タオル
→入浴だけではなく、手を洗う時、枕カバー代わりと色々な使い方ができる。
蒸気で和らぐアイマスク
→リラックスだけではなく物理的に光を遮断できるように
体スッキリシート
→子どもが寝た時にしかシャワーが難しいので、寝かしつけの前などに体を少し拭く際に使える。
生理用品
室内履き
→動きやすいもの
洗濯物を入れるための大きめの袋
→荷物の置き場が少ないため、汚れ物をポイポイ入れられる場所を作っておく
エコバッグ
→コンビニに行く際に使える
プラスチックカップ
→自分の飲み物を飲む時に
箸、スプーン
→貸し出しはないので、食事を取る際に必要
食器洗いスポンジ、洗剤
→カトラリーやコップなどを洗う際に必要。
アルコールシート

置き時計
→病室には時計がないため、時間が分かるように。
飲み物
おやつ
→純粋に楽しみを作っておく。
本など静かに取り組める娯楽
→電子書籍が便利だった
延長コード
→充電器などを手元に置いておきたい際に便利


上記のものを詰め込んで、山のような荷物で病院へ戻った。

子どもと夫のいる場所へ戻るも、夫の浮かない顔が気になる。
「プロカルシトニンが20っていう数値で、家に帰れる数値ではない。」
「PCRでコロナの陽性も出た。」
そんな不穏な話を聞いて、色々と検査が追加されることになり、バタバタとしながら時間が流れていく。

「こんなに酷くなるまで気付かないなんて申し訳ない。」と思わず口にした際に
「一番最速で入院出来てるから、良かったんですよ。」と病院の先生に言われ、涙を必死で堪えた。

病室に案内され、部屋にはもちろんベッドは一つ。高さ1メートルほどの柵でぐるっと囲まれており、安全を最優先した作り。快適はどこかに置き去られている。

枕元では点滴がチカチカ、パチンコ屋で寝ているのかと思うほどの明るさの中、寝ようと思っても不安で寝れず、何度も目が覚めながら次の日の朝になった。

2日目 長い夜が明けた

節々の痛みで目が覚めてみると、我が子がスンとベッドで座っていた。
驚異的に抗生剤が効いたのか、寝る前は39℃あった熱も平熱に戻っていた。

朝の回診の際に「あ、その部屋コロナ陽性ですー。」という人の声と共に誰も入ってこなくなった。感染の可能性があるため、できる限り病室から出てはいけないということをここで実感させられた。

とりあえず座ってくれている事にホっとしたのも束の間、点滴の存在に気付き始めた。
ブンブンブンブン大縄跳びの要領で振り回し始めている。こ!これはまずいのではないかと我が子と点滴の仲介屋として常に気を張らないといけなくなる。

そんな中、少しだけ院内のコンビニに行く時間ができた。コンビニに1人で買い物のシチュエーションは付き添い入院中にも関わらず不謹慎だが少しテンションが上がった。
お菓子のバリエーションが豊富で、特に小袋のチョコが盛り沢山。まんまと店舗戦略にハマり、こそっと食べられるチョコを沢山買い漁って病室に戻った。
限られた環境の中でいかに自分の機嫌をとれるかがこれからの付き添い入院の鍵だと言い聞かせて、チョコを頬張った。

3日目 大丈夫?大丈夫!

徐々に活気が戻ってきた事で、高い柵の中金網デスマッチのような端から端への全力移動が始まる。点滴はもはや琴の弦のようになり、細い血管から抜けてしまっていた。
子どもの点滴の差し替えは、布団で簀巻きにされて動きを最小限にされた状態で行われる。
泣き叫ぶ我が子に何も出来ることもなく、食事量もいつもより少ない。入院が果たしていつまで続くのか、きちんと病気は治ってきているのか。

そんな事を考えていると、緊張の糸が切れ子どもの前で泣いていた。

「ママダイジョウブ?」

それ今君が言うか?と思ったが、まだまだ拙い二語分で一生懸命励まされたので、泣いちゃだめだ。と気持ちを立て直す事にした。

4日目 クランキービスケット

朝は足につけていた酸素のモニターを引きちぎり起床した我が子。日々元気になってきているようで何より。

点滴のついた手も慣れてきているようだが、慣れすぎて点滴の線の下にトーマスを潜らせて走らせるという斬新な遊び方を思い付いている。意外とこれがヒットしたらしく、10分ほどトンネルごっこをしていた。

看護師さんとの交渉の末に、我が子と離れて少しだけコンビニに行く時間がとれた。闇市で買い出しをするような気分で出かけ、元気の源を買い漁った。
ここのコンビニで買った明太子おにぎりの美味しさはきっと忘れない。
好きなものを好きな時に食べられる喜びは、何にも代え難いと実感する。

帰ってくると大泣きで疲れた我が子は爆睡してしまったらしく、入院して初めて少しゆったりと休むことができた。
売店で買った好物のクランキービスケット。
「クランキービスケットはねママの味方だぞ。」
というフレーズを口ずさみながら口の中に放り込んだ。

5日目 延長宣言

週末が明け、入院時の血液検査の結果が出揃った。
「菌出ちゃいましたー。血液中に。」とのことで、最低限10日の抗生剤投与が必要となり、入院期間の延長が決定した。
菌血症とのことで、状態が悪化すれば敗血症にも細菌性髄膜炎にも移行する可能性があるとのことで、元気だけどまだまだ予断を許さない状況。

「今日はよくご飯食べれましたね。」と小児科の先生方が褒めてくださった食事のお盆は私の付き添い食であったため、少し恥ずかしかった。
腹が減っては戦はできぬ。そう言うことです先生方。

こんな最中であるが、普段は幼稚園の通園時間とバッティングするため見れないEテレを鑑賞。
今年の春引退した
『うーたん』
が出てきてたため、
「あ!うーたんさんが出てる。」と言うと
「ウータンサンイタ!」とさん付けで覚えてしまった。明日には忘れてくれてるといいなぁと、明日のうーたんリアクションを楽しみにテレビを消した。

6日目 一時帰宅

うーたんさんだけではなくて、わんわんさんにもなった朝、おかさあんといっしょを見ながら歌を歌う我が子を頼もしく思った。

少しの時間付き添いを交代してもらい、久々に自宅に帰る。
この帰宅の目的は、入院が延長したためおもちゃを持って行くことと、絵本を何冊かえらぶこと。
「くみたて」「あーっとかたずけ」など田中達也さんの本が楽しいらしく、病室で20回以上は読んだ。

久々に帰った家が寒くて広い。
子どもが居ない家は火が消えたように寒くて静かだった。またここでみんなで遊べる日が来るはずと思いながら家を出る。
入院生活でどうしても欲しかった、食器スポンジの受け皿とアルコールシート用の開閉できる蓋を百均で見つけて購入。付き添い入院をしてみないと必要なものが分からないなぁと思いながらも、ささやかな物を選んで買える事がこんなに嬉しいのかと新たな発見だった。

7日目 付き添い交代

湘南乃風スタイルで頭にタオルを巻くスタイルがブームになって、「ぼうしかぶる。」と言われるたびにタオルを頭に巻いてあげる。
シャワー浴は許可をもらっていたが、コロナ陽性隔離のため親がシャワーに入れないといけなかったため、入浴については家まで我慢してもらうことに。体は拭いているが、頭は洗えなかったため、少しペタペタになっていた。

少しずつ運動量を増やしてあげてくださいとのことで、レジャーシートを持ち込み、個室の床に敷いて簡易なプレイルームを作成。
好きな線路をたくさん繋げながら体を動かして遊べるようになった。

この日付き添い入院をし始めてから初めて夜交代してもらうことになった。

久々に上の子に会った。頻繁に電話をかけていたが、電話口に出てくれる事が無かったので、忘れられてないから心配していた。
心配は杞憂で、久々に会った上の子はとてもいい笑顔でずっと私から離れず、この1週間の出来事を沢山話してくれた。

夜ご飯用に回転寿司に行ったそうで、そのお裾分けでお寿司のテイクアウトをいただく。
出産後に退院してすぐお寿司を食べたことを思い出した。病院の中では生物は食べれないので、お寿司がとても美味しかった。
湯船に浸かって、上の子にたっぷり絵本を読みながら就寝。点滴のチカチカが無く、そびえ立つ四方の柵も無いベッドは落ち着いて寝れた。

8日目 もう一踏ん張り

朝起きるといつもの部屋だが、下の子と夫が居ないことで、入院中で一時帰宅であることを思い出させられる。
午前中に付き添い交代のため、朝は上の子と2人で近所のパン屋へ足を運ぶ。少しの距離ならしっかり歩けるようになってしばし散歩を楽しんだ。

病院へ戻る前、上の子がおんぶをせがむ。我慢をさせているのかもしれないと心を痛めるが、このタイミングで一度帰宅して顔を見れてよかったと思った。

この日幸いなことに下の子が昼寝をしてくれた。
昼寝中は電子書籍で読書の時間を楽しんだ。
この入院期間中に
加納愛子『行儀は悪いが天気は良い』
町田その子『コンビニ兄弟:テンダネス門司港こがね村店②③』
を日々の楽しみで読んでいた。本を読んでいる時は本の世界に集中して、付き添い入院の辛さや煩わしさを忘れる事ができた。現実逃避に他ならないが、自分の機嫌を取るのが一番難しいのだから読む本ぐらいは好きなものをとことん読もうと楽しんでいた。

昼寝の効果もあったか、ベッド柵の中で寝る前に飛び回るようにして我が子が寝た。家にいる時の体の動きになってきたことに安心感を覚えるも、痛いものは痛いなぁと思い就寝した。

9日目 運命の採血日

「どうか帰らせてくれ。」
そんな気持ちで採血の結果を待った。
無事にあのとてつもなく高かったプロカルシトニンが0.2まで落ち着いており、血中の細菌も陰性となり晴れて退院の日取りが決まった。

昔病院で勤務していた頃、退院の日程が決まった際の患者さんの嬉しそうなリアクションを思い出した。みんなこんな感じで嬉しかったんだろうなぁとかなり時間が経ってしまっているが共有できた気分になる。

採血を頑張って済ませた我が子に小さなバームクーヘンのおやつを渡した。
「ドーナッツたべる。」と輪っか=ドーナッツと思い込んで一生懸命食べていたのが愛らしい。

この入院期間中に言葉を沢山話すようになった。
ただ、何度聞いても「ドクターイエロー」が
「八天堂」に聞こえて、クリームパンが無性に食べたくなる発作に駆られた。

退院の日取りが決まった親の安堵感が伝わったからか、この日は本当に早くに寝てくれた。このまま退院日まで何事もありませんように。

10日目 黒い物体

お昼ご飯を一緒に食べていた時に、事件は起こった。
「くしゅん!」
我が子のくしゃみと共に何か出た。今食べていた物とは明らかに違う。
拾ってみると、なんと白粉花の種。
記憶を辿ると、入院する少し前白粉花の種を摘むのがブームになっており、一心不乱に毟り取っては集めて楽しんでいた。
入院して一度も外には出ていないため、これは入院時から鼻の穴を占拠していたのだろう。
先生はもちろん親も気付かなかった。ただ鼻の穴に白粉花の種を入れた張本人は
「はな、はな」と時折違和感を訴えていたので分かっていたのかもしれない。

看護師さんに念のため報告すると
「花が咲かなくてよかったね」と言ってくれて、なんだか笑ってしまった。

11日目 おうちに帰ろう

晴れて退院日になった。

「退院日には魔物が住んでいる」ずっと仕事をしている時に思っていた。
明日が退院ですとなった患者さんが転んだり、熱が出だりして退院が延びてしまう。よくあることで経験していた。

鼻の中に入っていたと思われる白粉花の種は、入院時のレントゲンをよく見てみるとばっちりと鼻に鎮座していた。小児科の先生方も驚愕&爆笑であった。

我が家に白粉花の種は当分持ち込み禁止となった。

帰るまでが入院。それまでは気が抜けないぞ。と思いながら過ごした。
休日の退院は請求が後日になることも多いそうで、「秒で帰りたいです。」と伝えると「秒で帰れますよ。」と笑顔で言ってもらい、その言葉通り退院手続きはあっけなく終了した。

元気になった我が子を抱えて、退院してみた空はとても高く澄んで見えた。

最後に

付き添い入院は控えめに言ってもとても大変だった。
もう二度と経験したくないと思うが、毎日家に帰れること、ご飯を作れること、なにより家族全員で過ごせること、当たり前だと思っていた日々が全て有難い日々に変わった。
母親としてのスキルアップがだいぶ促された修行の日々を、ここに残して、今付き添い入院で大変な親御さんたちが少しでも心休まる時間を過ごせることを祈りたい。

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