カトレア【詩】
彼女は、噴水の横で
『ハグしませんか』と書いたボードを立てた。
ひとりの男子高校生が
「いいですか」
おそるおそる声をかけた。
彼女は微笑んで、両手をひろげた。
彼は、体温を感じた。
動物園で、キリンを見たことがあった。
それを見たOL が
「わたしも、いいですか」
彼女は微笑んで、両手をひろげた。
肩の窪みを感じた。
腕まくらは、安心して眠れた。
スーツ姿の男性が
「ぼくも、いいですか」
彼女は微笑んで、両手をひろげた。
背中をさする。
諦めた、夢があった。
大人の女性が
「わたしも、いいですか」
彼女は微笑んで、両手をひろげた。
髪を撫でた。
あの子と下校した、夕焼け空があった。
おじいさんが
「わたしも、いいですか」
と声をかけた。
彼女は微笑んで、両手をひろげた。
ふたりで行きたかった電車旅。景色を見ている彼女の手は、温かい。
きっと、温かいのだろう。
五歳の女の子が
「お姉さん、ありがとう」
と伝えにきた。
彼女は、うなずいて
次の街へ旅立った。
その女は、カトレアと呼ばれていた。
カトレアの和名は
『日之出蘭』
植物学者・牧野富太郎が命名したそうです。カトレアの花の美しさを、日の出に見立てたということです。
ただ、抱きしめる。
誰もが今からできることだと考えています。
(花の絵は、自作です)
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