ミュージカル「この世界の片隅に」~歌唱指導の視点から~(4)
やばい、このペースで書いていてはいつまで経っても千秋楽に辿り着かんので(^^;)2023年1月に行われたワークショップについては駆け足で!…と、言いたいところなんですが。
とにかくミュージカル俳優たちは凄い!音楽力、演技力はさることながら、瞬時に変化に対応してゆく臨機応変力!!私がワークショップで目の当たりにした「ミュージカル俳優の素晴らしく高い能力」それをどうにかみなさんに伝えたいので、こちらをお読みください(笑)さて、これはフィクションでしょうか?実話でしょうか?
とあるミュージカル俳優の一日(前編)
①1週間ほど前に2時間半の舞台の仮台本とデモ音源と電話帳並みに分厚い譜面の束を渡される。(ちなみに両面印刷)音源デモのない譜面のみの曲もあり。
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②1週間後、稽古開始!初日の今日は音取り稽古だ。自分のパートを確認し、3日間で20曲以上の混声6〜10声コーラスを仕上げてゆくことになる。がんばらねば。
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③翌日、せっかくとってきた音が変更になる。パートが変わる。書き込んだメモがむだになる。それぞれの役者が持っている声質や得意な音色などでサウンドが変わるので、ベストなバランスを探るために実験の繰り返しが行われるのだ。(これはその後毎日毎時続く)
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④3日間でなんとか歌稽古が終わる。今日からは台詞を入れた稽古だ!。片手に台本、片手に譜面の束を広げながら瞬時にセリフを発し歌を歌ってゆく。周囲を見渡すと、他の役者たちもみな高速ワイパーのごとく顔を左右へ動かしている。右手の台本、左手の譜面の束。。。視線を一瞬でも外すとどこを歌っているのかわからなくなるので気が抜けない。
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⑤セリフに合わせて曲のサイズ変わる。セリフに合わせて1小節だけ8分の5拍子とか、Aに飛んでたのがCに行って次3Bに行くとか、アクロバットな構成に曲が変わる。そんな曲の大工事をその場でしながらダイナミクスや表現をつけてゆく。脳の短期メモリーを総動員する。心なしか頭から湯気が出ている気がする。
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⑥事件は現場で起こっているので、上記のことをその場で瞬時に対応してゆく。4小節2段目のパートを歌ったら2行セリフを待って、また次の4小節は譜面の5段目とか、目の反射神経も要求される。見た目は椅子に座って何かを読んで声に出してるだけなので大して動いていないように見えるが、脳的にはアスリート、もしくは野生動物と同様である。。。
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⑦せっかく覚えたセリフがっつりカットされる。台本にも大工事が始まり、曲のきっかけやイントロのサイズなど死ぬほど変わる。今回はワークショップであり、ここで音楽や物語は構築されてゆくのだ。いわば作品の工事現場である。ということで現場監督もとい演出家の言ってることを一瞬でも聞き漏らすと、「迷子」という名の大惨事が起きる。
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⑧譜面がないけど103小節目から3度上でハモってみて!とか、バリトンなのに高いソの音が連発する!とか、男性陣への無茶振りが始まる。「いやー、大変そうだなあ...」なんて他人事のように眺めていた20秒後、そっくりそのまま同じようなコトが自分たちのパートにも振られて焦る。
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⑨次の日が来るたびに新しくなった譜面が渡されるのでさんざんメモしたり書き込んだ譜面がムダになってゆく(最終日までに結果、電話帳3冊分ぐらいの譜面を見ていることになる)変更事項を確認しているうちに稽古は進んでしまうので、とにかく現場処理現場処理現場処理。
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⓾最終日の昼から物語の後半部分をあたって、③〜⑨くりかえし。
夕方5時ぐらいからスーツを着た偉い人たちが稽古場にわらわらと押し寄せ、その人たちの前で全編を通す!(はず) ←イマココ
(続くっ!)