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ミュージカル「この世界の片隅に」~歌唱指導の視点から~(5)

いつも読んでくれてありがとう!俳優たちの驚愕のスキルも本当に賞賛されるべきものなんですが、彼らの取り組み方は我々の人生にも学びとして活かせるんじゃないか?と思っとります。私たちもこの時のミュージカル俳優のように、何があっても臨機応変に柔軟に面白がって生きたいと思いませんか?
というリスペクトを込めて!

とあるミュージカル俳優の一日(前編)の続きです。


とあるミュージカル俳優の一日(後編)

(➉の続き)

⑪ いよいよむかえた稽古最終日。今日はきっと⓾のような流れになるはず…が、稽古場に到着するや否や、トイレに行く暇もなく作曲家に呼ばれる。少しだけイヤな予感がするがとにかくピアノのそばへダッシュ!


⑫「はい、これ!」と、
今まで見たことのない曲の譜面を渡される。
稽古最終日に「新曲」だとwww


⑬どうやら3人でやるコーラス。
つまり私のパートは私ひとり。
つまり逃げられない・ごまかせないww

ただでさえ♯が4つもついてるキーにテンパる。しかもそれを初見でいきなりハモって歌ってみてと言われ青くなる。正直譜面はそんなに得意ではないのだ。今までも稽古ピアノさんに音をとってもらい、それを録音したものを耳で聴いて覚えてきたというのに。まずい、、、


⑭調号の#にビビっていたら、それに負けず劣らず押し寄せてくる臨時記号の♭、♮、# の洪水にゲシュタルト崩壊する。音符のオタマジャクシも生き物のようにユラユラと歪んで見えてきた。ちなみに両隣のソプラノもアルトの子も見てみると、彼女たちも、もれなく土色の顔をしている。


10分ほど稽古ピアノさんと歌唱指導のセンセイに手伝ってもらい、なんとか怪しいながらも13小節分のJazzのような難解なハーモニーに歌詞をのっける。きっとキマったらめちゃくちゃカッコ良い和音になると思うのだが、まだお互い、誰かが音を間違えてたとしても誰もわからない。


⑯その作業をやってる途中で作曲家に「やっぱりキー変えます!半音下げて!」と言われ、脳内がマイルスデイビスになる。


⑰新しいキーで必死に覚え直す。すでに自分のiphoneの鍵盤アプリではどの音だか
すっかりわからなくなっているため、稽古ピアノさんに弾いてもらう音だけが頼り。しかしその稽古ピアノさんも書き直した譜面のどこからどこまでが最新バージョンかわからなくなり、しばしば前衛現代音楽のようになる。


⑱あと5分ぐらいで稽古が始まってしまう!焦りつつ3人で稽古ピアノさんと練習していると「あ、ちなみにこの部分は伴奏なしのアカペラでやります。私が指揮で合図するので、セリフのあとワン!で入ってね、、、」と、作曲家が言ってるようだがもはや後半の言葉は気が遠くなってるので耳には入ってこない。


⑲あと3分。とりあえず破裂しそうな膀胱を開放すべくトイレに行き、深呼吸して席につく。必死で覚えたはずの自分のパートもきれいさっぱりトイレで水と一緒に流してきてしまったような気がして冷や汗が出る。はっ!いかん。冷や汗と共に2音ぐらいさらに抜けてしまったような気が、、、


⑳時は満ちた!わらわらとスーツ姿の大人たちが席に着く。私も落ち着かない気持ちで自分の席に着く。両隣のソプラノとアルトの子と目があったので、3人とも無言でうなずく。よし。腹は決まった。練習では一度も成功してないけど、もうやるしかない!

「それでは、始めます。」
演出家の声がして、通し稽古がスタートしたのであった。。。



本当に俳優の皆さんの対応力の素晴らしさ、懐の深さには頭が下がります!ワークショップの現場はこのようにものすごくスピーディーにコトが進んでゆきましたが、決して深刻や険悪な感じにはならず、常に笑いとユーモアの絶えない場所でした。こんな新作のミュージカルが生まれてゆく過程に立ち会えたことは私にとってもとても光栄で幸せなことです。そしてなんといっても脚本・演出の上田一豪さんと音楽アンジェラの「人とモノを作り上げてゆく力」の強さ!自分の中にあるものを押し付けたり相手をコントロールするのではなく、相手を尊重し信頼しながら作り上げてゆくそのプロセスは、音楽や演劇だけでなくどんな人間関係にも通じるな〜...と、毎日学ばせてもらったものです。

譜面を修正中のアンジェラと私。


そしてワークショップは無事終わり、水面下の作業は続いて…時間は2023年の秋へと進みます。「アンジェラ・アキ sings『この世界の片隅に』」のレコーディングです。


(続く!)


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