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そうか、このひとも勤め人だった🏥

            ( 約1,500字 )

一昨日、総合病院の再診日だった。

最初にお会いしてから、3回目の受診日だった。
「順調に体重が落ちているようですが、血液の値は良くないようですが」

そう言われて、血圧の薬と血糖値の薬を分けて置いていたら、先生に処方してもらった(血糖値を下げる)薬が見当たらなくなって、2週間ほど服用していなかったことを正直に伝えた。

「それならいいですね。もし、その間が空いていた話を聞かなかったら、薬を変えないといけないと思いました」

と件のイケメン先生は、私が話した内容をパソコンのカルテに打ち込んでいった。

髪を切って、よりイケメン度合いが増していた。

「実は、来月から私はここの勤務が無くなるんですよ。次は女性の先生がきますけど、ちゃんと伝えておくから大丈夫ですよ」

「先生、元々、◯◇病院の先生ですもんね。じゃあ、これからは1ヶ所で済むんですか」

私は心底ガッカリしていたが、変わらないトーンで質問した。

「いや、今まで3ヶ所だったから、2ヶ所になるんです」

相槌を打ってから、
「今までよりは多少、楽になりますね」
と私は続けた。 
「今の仕事が、重労働で間に水分を飲めないし、トイレも行けなくて、シンドイんです。それが血液に関係するんですかね、水分、摂れないことが」

先生はニコニコしながら、自分のペットボトルの飲みものを触って、
「自分も、全然飲めないですよ。これ、朝から置いてあるけど、この時間でもまだ」
と笑った。
もう11時をとうに過ぎていた。

先生は、他の病院を掛け持ちして3ヶ所で医師をやっていらっしゃる。
私なんかより、たくさんの勉強と時間のやりくりを工夫して、仕事に当たっている。自分が一ヶ所で働いて愚痴を言っているのが、恥ずかしく思えた。

「自分も、二十歳(はたち)のころ、大きくて重い荷物を運ぶ仕事をしていて、水分も摂れず、ご飯の時間もままならない業務に就いていました。でも、それが血液に関係することは無いので、その心配はないですよ」

先生は、昔のアルバイトの話をしてくださって、それが珍しいことなのだ、と看護師の様子を見てとれた。近くにいらした看護師は、フッと顔をあげて、私をまじまじと見つめて笑顔を見せたのだった。

先生は、今、処方されている血液を改善する薬を町医者の馴染みの病院からもらうことを提案してくださった。

先生が町医者宛てにその旨を紹介状に書くとしたら、紹介状に5千円ほど費用がかかる。

「私だったら、自分の口から説明出来るので、まとめて薬を出してもらうように開業医に話しますよ」
と、目を細めて仰った。

私は内心、引き続きこの誠実な先生に診察してほしい、と思っていた。

でも、折角、この病院の任務が減って、2ヶ所の病院の掛け持ちになるのを、私が他の病院に患者としてお邪魔するのは仕事を増やすことだと、思い直した。
他の病院勤務なのに、そちらで患者が増えたのでは、かえって先生の忙しさを増やしてしまう。

私は、診察してもらって病気が改善したお礼と、先生が元気で他の病院に活躍されることを願っていることを伝えて、診察室を後にした。

数ヶ月前、あんなに怖い表情をして心配してくれた先生が、笑顔で昔話をして送り出してくださったことが、すごく嬉しかった。

総合病院のお医者さんは、大学などのしがらみがあって人事異動や兼務などがあると聞く。
開業医は、1人で診なければいけない責任があり、どちらが良いともいえない。

ひとの命を預かる大切な仕事でも、サラリーマンみたいな勤め人なんだなぁ、と改めて思う。

今回の先生がたくさんの患者を診て、いつか開業医になったら、そのときはまたお世話になろうと、密かに思うお休みの日でした。



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