
「折りたたみ傘」はなぜ「縮み傘」じゃないのか
ゲリラ豪雨に対抗できる唯一の武器「折り畳み傘」。かねてからそのネーミングに疑問ひいては不満を抱いている。
1.傘は全部「折り畳む」じゃないか
折り畳み傘であろうとなかろうと、一度開いた傘は閉じなければならない。この「閉じる」という行為は「折り畳む」と言い換えることができる。広辞苑によると「折り畳む」の定義は「追って重ね合わせ小さくする」こと。傘を閉じる時、あの"マントの部分"(正式名称を知らない)は間違いなく折りたたまれている。
と、なれば、だ。傘は例外なく折り畳むものだといえる。したがって「折り畳み傘」はただ「傘」と言っているのと同義なのだ。
つまり、「噛みガム」「書き鉛筆」「すくいスプーン」と言っているようなもの。「折り畳み傘」の不自然さに気づいていただけただろうか。
2.動詞のつく名詞
とはいえ、他にも動詞のつく名詞は色々ある。例えば「ちぎりパン」「飲みぐすり」など。ちぎりやすいように切れ目のついたパンと、飲むための錠剤および粉薬。これらと折り畳み傘の大きな違いは例外の有無。
ご存知の通り世の中の大半のパンはちぎらないし、ドラッグストアにはオロナインを筆頭に塗り薬も貼り薬もある。一方、傘は必ず折り畳む。
「折り畳み傘」があの短い傘を他の傘と区別するのに相応しくないネーミングであることは明らかだ。
3.なぜ「折りたたみ傘」なのか
ではどうしてこんな不合理な名前に落ち着いてしまったのか。とりあえず歴史を調べてみたところ、折り畳み傘の誕生は約100年前まで遡る。1928年にHans Hauptなるドイツ人が発明し、その4年後に特許を取得したらしい。
となればドイツ特許庁が世界で初めて折り畳み傘を認めた公的機関ということになる。ダメ元で公式サイトに飛んでみると、奇跡的に英語のコラムがあった。ドイツ語で書かれてたら検討もつかないが、英語ならかろうじて読める。
タイトルは"Pocket folding umbrella"。そのなかに
”We owe this idea to Hans Haupt, who applied for a patent for a "shortenable umbrella" on April 26, 1930.”
という記載がある。ご丁寧にHans Hauptが特許を取得した1930年4月26日という日付まで教えてくれているが、注目すべきは"shortenable umbrella"の部分。
ダブルクオーテーションで囲まれているということは、Hansが申請した原文(きっとドイツ語?)と同じ、もしくは限りなく近い表現であるということだろう。そして"shortenable umbrella"を訳すのであれば「短縮可能な傘」。
"shorten"は「短くする」という意味なので、「折り畳む」とは少し意味が異なる。そして「短縮可能な傘」という名前は、現状の「折り畳み傘」の特徴を見事に捉えたネーミングだ。普通の傘はどうやっても短くならず、区別もできている。
日本語の名称について正確な歴史は出てこなかったが、きっとその後日本に伝来した際に、輸入メーカーが"folding"を直訳して「折り畳み傘」と広がったのだと推察できる。元凶はそいつだ。
もはやそんなことは関係ない。開発者が"shortenable umbrella"と言っていることがわかったのだ。今こそ「折り畳み傘」の名称に終止符を打ち、国民全体で「縮み傘」と言っていく時ではないだろうか?