
初めてのラーメン屋で"特製ラーメン"は頼まない方がいい
大学生の一番の味方、ラーメン屋。値上げの波に飲まれてはいるものの1,000円かからずにあの満足感を手にできる空間はそうそうない。
皆さんは、初めて入ったラーメン屋の食券機のどのボタンに指を伸ばすだろうか?
だいたい食券機の左上の方にはデカめのボタンがあり『ぜんぶのせ!特製ラーメン!』みたいな文字が主張激しく記されている。まんまとラーメン屋の策略にはまり「せっかく来たんだし特製を食べておくか」とこのボタンを押した、いや押してしまったことが何度もある。そして毎度毎度例外なく、『ぜんぶのせ!特製ラーメン』は期待を全く超えてこない。
最初はトッピングの量に心躍り意気揚々と箸を進めるのだが、後半になるにつれ選択を後悔することとなる。スープに溶けかけダルッダルの海苔、食べても食べてもなくならないチャーシュー、麺と一緒に口に紛れ込んでくるネギ、なぜか少し冷たい煮卵。カウンターの隣を見ると普通のラーメンを満足げに頬張るサラリーマンが見える。なぜ200~300円多く支払ってこんな思いをしなければいけないのだ。
ラーメン屋の店主が最初にラーメンを開発するとき、きっと最初に生み出すのはオーソドックスな方のラーメンだ。特製ラーメンから作り、トッピングを"引き算"して普通のラーメンに仕上げる人はまず存在しないだろう。
店主が全身全霊をかけ己の技術を結集させて麺・具・スープの完璧なバランスを計算しようやく作り上げた"普通のラーメン"と、それに適当にトッピングを追加した"特製ラーメン"。どちらが優れているかは一目瞭然である。
「相手の立場になって考える」といういたって簡単な話だった。ちょっと製作者の立場にたって考えれば、迷わず普通のラーメンをボタンを押すことが正解なのは明らかだ。いかにこれまで自分が目先のチャーシューに囚われていたか、深く反省した。
最近は左上のデカボタンには目もくれず、"正解"のボタンを押すようにしている。ただ、たまに大きな落とし穴が待っている。
"特製"と"普通のラーメン"でスープを分けている店がある。そうなると話が変わってくる。僕が避けたいのは無為なトッピングであって、より美味しいスープがあるのであればそっちを選ぶに越したことはない。しかし後ろに人が並ぶプレッシャーの中、"特製"と"普通"の正確な違いを見分けるのにはかなりの目利きでないと不可能だ。
どうやら食券機前の選択は一筋縄ではいかぬようだ。僕と店主の思惑が交錯するあの数十秒。1,000円札を投入しながら目を泳がせる僕を見て、ほくそ笑む店主。特製か、普通か、名もなき重大な決断は今日もなお続いている。