『ペトルーニャに祝福を』2018@岩波ホール
現在公開中の北マケドニア映画です。映画全体の熱量がすさまじくて、見ていてぐいぐい引きこまれます。佳作です。
監督は、テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ監督。旧ユーゴ(現北マケドニア)出身で、ニューヨーク大学で映画の修士号を取得し、映画製作を続けています。主演は北マケドニアの喜劇女優、ゾリツァ・ヌシェヴァ。
2019年に、ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、エキュメニカル審査員賞とギルド映画賞を受賞した作品です。
そもそも、北マケドニアって・・・?
もとは、旧ユーゴから1991年に独立した「マケドニア」でした。2019年に国名が「北マケドニア」に改称されました。ギリシャの北側の内陸国で、首都はスコピエです。
「スコピエ」と言えば、1963年に発生した大地震の復興計画、いわゆる「スコピエ計画」を担ったのが丹下健三先生でした。
映画の方といえば。。
深刻な経済難にあえぐ北マケドニアの田舎街。失業率30%を越えるこの国で、31歳のペトルーニャは大学卒業以来、一度も就職できずにいる。1月のある日、ペトルーニャがまたもや面接に失敗した帰り道で、地元の教会のお祭りにでくわした。司祭が川に向かって放った十字架めがけて、ペトルーニャは凍える水に入水し、いの一番に拾いあげたが、この儀式が通常女人禁制であることから、小さな街で騒動が巻き起こる。
マケドニアで、2014年に実際に起こった実話をヒントに作成されたストーリーだそうです。
マケドニア聖教の儀式の映像にひかれて見に行ったのですが、タルコフスキー的な幻想的ノスタルジアなど許さない、伝統と因習に隠されたアクチュアルな状況を物語化する熱量が半端ないです。
なんといっても、北マケドニアと日本が、こわいほど似ています。日本も晦日や正月あたりに川にとびこむ宗教行事はありそうだし、毒母と娘の葛藤もあります。男性に威嚇されだまりこむ女性、というメカニズムもまた、どこも同じなのですね。
とはいえ、いわゆる「ブスいじり」と、それを笑ってごまかす当事者の女性と、全体的な居心地の悪さ、で終わりそうなところを、一歩先に進ませて、希望のもてる結末にしているところが、ミテフスカ監督の力量だと思います。絶対絶命のペトルーニャが、冷静さと知性を発揮して、男性たちに脅され襲われても決して泣かず、屈せず、世の不条理に抗して「勇気をもって」自分の意思を貫きます。
現実的にも、監督へのインタビューによれば、2014年におこった出来事をきっかけに、いまではこの東方正教会の1月の十字架をなげ儀式は、女人禁制ではなく、男女に開かれた行事となったとのことです。
男女とわず、なにかおかしい、と思うのなら、知恵をしぼって、行動に移すことが大事なのかもしれませんね。
ちなみに、「マケドニア」で有名なのは、マケドニア王国のアレクサンドロス三世(アレクサンダー大王)です。
あとは、「マチェドニア」。イタリアのホームパーティでよく出るフルーツポンチです。領土が広く様々な民族が住むことになぞらえた、古代マケドニアの風景を想わせる、美味しい呼称ですね。