「詩人の目」パゾリーニの詩集
L’oeil de poète, Piero Paolo Pasolini, Les editions Textuel, 1997
テクスチュエル出版社からでている「詩人の目」(L’oeil de poète)シリーズ。第一弾となるイタリアの映画監督、ピエロ・パオロ・パゾリーニ(1922−1975)の詩集です。
パゾリーニは映画監督として知られていますが、もともとは詩人でした。第二次世界大戦前からフリウリ語(イタリア北東部の地方方言)の詩集を出版しており、映画界との接点を持ったのは1950年代以降で、当初は脚本家として、フェリーニの『カヴィリアの夜』の共同脚本など手がけていました。1950年代当時、イタリアの映画産業は活況を呈しており、たとえばアントニオーニもそうでしたが、文章を書けるインテリにとって、脚本書きの仕事は食い扶持を稼ぐ格好の手段でした。
パゾリーニが監督デビューしたのは1961年に『アッカトーネ』で、その後、1975年に亡くなるまで、旺盛な活動を続けます。ちなみに、映画監督のベルナルド・ベルトルッチ(1941−2018)は『アッカトーネ』で助監督を務め、翌年には『殺し』1962で監督デビューを果たしましたが、原案を作成したのはパゾリーニでした。ベルトルッチの厳父であり詩人のアッティリオお父さんのほうと、パゾリーニは古い知人であったようですね。ベルトルッチが子供の頃に、自宅をたずねてきたピエロ青年をみて、その眼光にたいそう驚いた、といった逸話をどこかで読んだ気がします。
それはともかく。この「詩人の目」シリーズ、デザインがなかなか気が利いています。
表紙の穴の向こうになにやらあやしい影が。。
表紙をあけると、パゾリーニ先生の素敵な笑顔が現れます。彫りが深すぎてわかりませんでしたが、見えていたのは眼光だったのですね。
遊びこころいっぱいのブックデザインです。
この「詩人の目」シリーズは詩人のクリストフ・マルシャン=キシュChristophe Marchand-Kiss(1964-2018)により創刊されました。パゾリーニ版はオリジナルのイタリア語をフランス語に訳出していますが、若い時代のフリウリ語方言によるLa meilleur jeunesseも、標準的なフランス語表現で訳されています。もしかしたら原文よりも読みやすいかもしれない。
フランスで、パゾリーニの詩が一般的に読まれているのかまではわかりませんが、創作活動の一部として、詩を作り、詩を読む、楽しむ文化は定着しているのかもsれいません。
南仏を拠点に活躍するスーパー・アーキテクト、ルディ・リッチオッティ先生も、かつて、パリのパヴィヨン・アースナルで、詩人の会を企画し、来館者にワインをふるまいながら、爆音の中で詩人たちにパンクな詩を読ませていました。フランス人って、詩が好きなんだなあ、とつくづく思った次第ですが。
フランス人がパゾリーニを、ルディを、愛すのも、そんな詩人としての資質あってからこそなのではないか。パゾリーニとルディ先生をむりやりくっつけるのであれば、素材や質感、自然に対する感覚の繊細さがそこには共通します。パゾリーニ映画において、石や布、早朝や夕暮れの光と影、大気、アフリカや中東の大地、木々、風や空気の音、など、世界の質感や素材感、気候が非常に微細に映像化されており、ぞっとするほど美しい世界が現出します。
詩集の編者であるマルシャン=キシュ先生は、パゾリーニの詩について、彼の人生、そして環境(ミリウ)によって育まれたが、それ自体が目的でなく、パゾリーニはあくまで”私(je)”の詩人である、と指摘なさっています(p.16)。
天才パゾリーニ先生、自我と世界の間のぎりぎりの拮抗が決壊して命を落としたのではないかと思いますが、命と世界の間のせめぎ合いが、詩人の目を通して、映像のかたちで表現されています。詩の創作を通じて、世界を繊細に感じて表現する目を養う、というのもいいのかもしれないですね。