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「フランス素描画」展@ローマ


1960年代初頭に、イタリア、ローマにて開催された展覧会の図録です。

白黒のふるい図録ですが、「太陽はひとりぼっち」のヴィットーリア(モニカ・ヴィッティ)が一人暮らす寝室に、この「フランス素描画」展のポスターが壁にぺたっと貼られていて、以前、気になってさがして、手に入れました。

表紙は、フラゴナールの「幼女」(ブザンソン美術館所蔵)、1774年頃の作品です。ブザンソン美術館の絵葉書コレクションに入っています↓

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ポスターに採用されているのは、ポール・シニャック(1863−1935)の1889年頃の素描画です。こちらは、当時、シニャック夫人の個人蔵になっていたようです。

*アントニオーニのスティル写真は別本です。

若い女性がアトリエのベランダの前にたち、窓辺から屋外をのぞく姿が、背後から描かれています。原画は24cm×16cmなので、ポスター用にだいぶひきのばされていますね。ヴィットーリアとシニャックの女性が、スクリーン平面上で等価に並べられています。

この後、女性が窓の外をのぞくと、たずねてきた男たち(リッカールド、ピエロ、酔っ払い)の姿をみつける場面がでてきます。アントニオーニがシニャックの絵画をベースに画面を構成した証左となるでしょう。

それにしても。

ポール・シニャック!

ポワンティリスム(点描画)を代表する、新印象派の画家です。
フランス19世期末の科学主義の発展を背景に、赤、青、緑の色点を並置することで、濁りのない鮮やかな光の色彩を描こうとしました。オプティカルな知識を利用した、いまのRGB法に通じますね。

ちなみに、シニャックは、アンリ・マティス(1869−1954)の出世作「豪奢、静寂、逸楽」1904を最初に買い上げた人物でもあります。

ひとあたりのよかったシニャックは、マティスらと南仏サントロペの海岸で共同製作をしており、「豪奢、静寂、逸楽」はそのときに描かれたものです。マティスの数少ない点描画のひとつであり、輝くばかりの画面は、古代の豊穣な神話的世界を彷彿とさせます。

マティスの天衣無縫の画面は、シニャックではとうていたどりつけない世界観であったのかもしれません。その価値をはやばやと認め、点描画の名作として永遠のものとしました。

一方のマティスは、1905年頃には早々と点描画をやめて、フォヴィズム的な画面にうつってしまいます。

色紙をペタペタ貼りあわせて、色面ヨシ!とするおおざっぱな?マティスが、緻密なポワンティリズムを、延々とつづけるのなんて、どだい無理だった?…と勝手に想像します。「豪奢、静寂、逸楽」も、シニャックやスーラの丁寧で神経質な画面にくらべれば、だいぶ粗くて雑?な感じがしないでもないですからね。

海辺のサントロペで、点描画の友人たちから嗚呼だこうだいわれながら、キャンバスに筆先を、ポツポツ、チョンチョン…とおいて、点を何百、何千とかいても、いつまでたってもイメージは表れてこないなあ。こういう神経質な感じの、ぼくにはむかないなあ。外にでればは天気もいいし、浜辺で潮風にふかれながら、綺麗な女の子と、の〜んびりパスティスでも飲んでたほうがましだよ〜〜〜、、と、一作できたらおなかいっぱいとばかりに、シニャックからうけとった代金で、しこたまワインと美食をあおって、いきおい重視の情念のフォーヴの世界へとびこんでいったのかも。と勝手に想像します。

「太陽はひとりぼっち」は、そんな画家たちの画面構築への困難な道のりをうけつぐように見えます。

冒頭のリッカールドの部屋の絵画コレクションや画面内フレーム的なショットなどは、アントニオーニの平面イメージへの意識の現れである気がします。そこでは、オブジェどうしをいかに組み合わせて平面を構成するかが問題となります。

そうした手法に、アントニオーニのわりあい直截的な絵画への意識が垣間見えますが、それ以上に、絵画を援用した新たな平面構築に発展するには、むしろ、抽象画的な、還元的イメージが必要であったのかもしれません。

マティスによって乗り越えられた点描画は、イメージが点に還元されている点では抽象的ですが、画家に由来する再現的なイメージが確固としてあるという意味では、いわゆる抽象画にはいたらず、むしろ抽象への過渡期ともいえるのかもしれません。

アントニオーニが選んだのは、再現的イメージの破壊という意味で、(シニャックがヒントになったかどうかは分かりませんが)アントニオーニは構成的な手法から、還元的な手法へ移行していくことになります。アントニオーニのリダクティブな関心は、この後、次作となる「赤い砂漠」にひきつがれ、「欲望」でナラティブとして結実する、ような気がします。

そういえば、大学2年の美学美術史の原典講読(フランス語)で、新印象主義についての本を読み、シニャックと「豪奢、静寂、逸楽」の話が出てきた記憶がありますが、あの本のタイトルが知りたい。。

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