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モンテッソーリに負けないイタリアが誇るピッチゴーニ教育

この記事を読んでくださっている方は「モンテッソーリは聞いたことがあるけど、ピッチゴーニは聞いたことがない」「ピッチゴーニ教育って何だろう」という方だと思います。

ピッチゴーニ教育は1911年にイタリア人のジュゼッピーナ・ピッチゴーニ女史が提唱した児童のための教育法です。

イタリアのミラノでは、大変人気のある教育法です。

ミラノ市内のピッチゴーニ教育の小学校では、毎年志願者が募集人数を上回る状況が続いています。

イタリアの幼児教育といえば、モンテッソーリ教育が有名ですが、ここではイタリア在住で3人の子供を育てる筆者がピッチゴーニ教育について詳しくお伝えします。

ピッチゴーニ教育とは?

ピッチゴーニ教育は、社会と繋がりのある自然環境の中で、児童が興味を持ったことや疑問に思ったことを出発点として、その答えを探すために、児童自らが実験・観察・体験し、教師の助言を得ながら、真実に到達することを基本姿勢としています。

女性創始者ジュゼッピーナ・ピッチゴーニにより提唱された教育法

ジュゼッピーナ・ピッチゴーニは、1870年3月23日、4人姉妹の長女として、ブルジョワ階級の両親の元に生まれました。

父親のカルロは、語学教師であり、フランス語の翻訳者でもあり、小説家でもありました。

父親の影響を受けたジュゼッピーナ・ピッチゴーニは、教員資格を取得し、1889年に教職に就きます。

最初に赴任したミラノの小学校で、当時の教育方針を目の当たりにしたピッチゴーニは、違和感を覚えます。

なぜなら、児童はただ机の前に座って先生の話を聞き、記憶力を試される問いに答えるだけだったからです。

知的好奇心の塊であり、たくさんのエネルギーを持った児童が、このような環境に置かれていることに、ピッチゴーニは危機感を持ちました。

その後、様々な役職を歴任し、1904年には最高位の一級教員資格を取得し、イタリアの教育改革を志し、1909年に海外視察へ出かけます。

女史は、当時有名だった「田園教育舎」を視察するためにスイスとフランスのアルザス地方へ向かいます。

感銘を受けた女史は、イギリス、フランス、ドイツ、スイス、アメリカの教育プログラムと教育制度の資料を入手し、研究しました。

それから、自身の理想とする教育学を構築する中で、様々な分野の著名人の支援・援助を受けることになったのです。

1911年、当時の教育大臣と大臣がピッチゴーニの教育法を実験的に認め、ミラノ市も試験的な教育改革として開校を認可し、初代リンノバータ小学校が開校しました。

ピッチゴーニ教育の歴史

1911年、開校当初のリンノバータ小学校の児童数は64人でした。

クラスは2クラスで、ピッチゴーニ女史とその友人のマリア・レ―ヴィが二人で管理しました。

校舎は、農業体験のできる菜園、養蜂場、鶏小屋、運動場、庭園を備え、児童がいつでも自然と触れ合える環境を整えました。

また、社会に開かれた学校として、多くの専門家を招き、児童との交流を図りました。

さらに、校外学習を実施するなど、児童は五感を働かせ、多くのことを吸収していきました。

その後、ピッチゴーニ女史の先駆的な教育カリキュラムと成功が認められ、ピッチゴーニ教育の理念に沿った新しい学校建設が必要と判断されることになります。

そして、1927年10月30日に、現在も使用されている校舎が完成します。

ピッチゴーニ教育方針と理念

敷地内の果樹園、菜園、農場

ピッチゴーニ教育は、本物を観察することに意義があると唱えます。

言語教育の代わりに、実習を重視するため、自然環境での学習に重点を置きます。

その代表が「農業」です。

農業を通して、児童の健全な精神と肉体が育まれると考えます。

農業は児童の五感に作用し、児童の体力や情緒に優れた影響を与えるとしています。

また、農業は社会との繋がりがあります。

学校は社会から切り離された世界ではなく、世界の一部です。

視点は、学校から社会、世界へと広がります。

そのため、児童は農業を通して、自然や社会や世界の真実を追究していくのです。

例えば、ピッチゴーニ教育では、農業と科学と数学と美術を融合して、学習します。

児童は、ひまわりの種を植え、育て、花を観察して、ある自然界の法則に気付きます。

そして、そこからフィボナッチ数列や黄金長方形の学習をし、マンダラのアート作りに取り組み、独自の作品を完成させます。

教育の三綱領

“Scopo il vero. Tempio la natura. Metodo l’esperienza”:

「真実を追究する。自然は聖地。実体験に基づく。」

これは、ピッチゴーニ女史が掲げた教育の三綱領です。

教育の基本は、「聖なる自然の中で、自分の体験をもとに、知りたい真実を追究していくことにある。」としています。

現在の校舎の正門入口に石碑があります。

理念

ピッチゴーニ女史は、児童がみずから考え、実践し、学んだことは、一生涯の忘れられない財産になると考えています。

女史の言葉があります。

「多くの言葉よりも、多くの体験が必要です。児童はたくさんの物に触れ、たくさんの経験をし、たくさんの人に出会わなければいけません。教師は、少ない言葉で、児童を良い方向へ導き、児童に明確な説明をし、必要であれば児童を正さなければいけません。児童が、系統的に、順番に、方法論にならって事実を見つめる時、その事実はより強固で明白なものとなります。リンノバータの方法論で、一番大事にしなければならないことは、学校生活の中で、児童が豊富な経験をし、健全な肉体と精神を育むことです。」

そのため、ピッチゴーニ教育の教師の役割は、児童を啓発し、寄り添い、児童に求められた時に助言を与えるチューター的存在であるとされています。

理念を実現するための学校設計図

校舎の一部と中庭

ピッチゴーニ女史は、1914年頃から、自身の理念に適した学校の設計図を考えていました。

建物は、できるだけシンプルかつ、児童の美的感覚を教育できるような建築でなければなりません。

また、内装は、書斎の雰囲気があって、校内活動を容易にしてくれるものでなければなりませんでした。

エンジニアにこの願いを託し、校舎が完成したのが1927年10月30日です。

敷地面積は、22,000㎡あります。

児童がいつでも校庭に出られるように、全ての教室は、1階に配置されています。

そして、各教室に、中と外をつなぐ大きなドアが設置されています。

光がたくさん差し込むように、教室も廊下も食堂も大きな窓ガラスで囲まれています。

校舎を中心に、畑や飼育小屋、実験室、屋内プール、体育館、運動場が整備されています。

校内には、児童の美的感覚を養うために、絵画や芸術作品が飾られています。

音楽室、美術室、映写室、英語教室、保健室、トイレ、更衣室、シャワールーム、ランドリールーム、食堂、調理室もあります。

モンテッソーリ教育とピッチゴーニ教育の違いは?

モンテッソーリ教育はイタリア人のマリア・モンテッソーリ女史が1907年に提唱した教育法です。

モンテッソーリ女史が、子どもを観察しながら、科学的根拠に基づいて考案しました。

その基本的な考え方は、子どもは生まれながらに自立し発達しようとする力があり、その力が発揮されるためには、発達に見合った物的環境や人的環境が必要であるというものです。

したがって、教育者の役割は教え込むのではなく、子どもの最適な発達のために最適な環境を整えることにあるとしています。

ピッチゴーニ教育も、児童が主体的に学ぶためには、児童を取り巻く環境作りが大切だとしている点で似ています。

異なるのは、モンテッソーリ教育が子どもを発達段階に分けて、発達モデルを提示していることです。

ピッチゴーニ教育には、発達モデルはなく、児童が主体的に学べる環境を整えることが重要視されています。

ピッチゴーニの教育機関はどこ?

イタリアのミラノ市北部のギゾルファと呼ばれるゾーンにあります。

イタリアのミラノ市にある2つの国立小学校

ピッチゴーニ教育を実施している学校はリンノバータ小学校とダンテ・アリギエーリ小学校の2校です。

特別カリキュラムを採用する学校として、政府から認可されています。

公式行事での制服着用や、普段の校内活動で、クラス別に異なるイメージカラーのエプロン・またはTシャツを着用することになっています。

他の学校では採用しない校歌があるのも特色です。

教科は、国語、算数、英語、理科、社会、音楽、美術、体育、水泳、宗教または総合学習(選択性)があります。

各教科ごとに専門の教師が配属されています。

農業や動物の飼育は理科の時間に組み込まれています。

リンノバータ小学校

小学1年生から5年生(イタリアの小学校は5年制です)まで、合計25クラスの約600人が伝統ある校舎で学んでいます。

姉妹校のダンテ・アリギエーリ小学校と同様に、新一年生が入学すると、最上級生の5年生と1年生がペアを組みます。その関係は、5年生が卒業するまで一年間続きます。一年間、多くの活動を共に過ごし、先輩と後輩の絆を育みます。

ダンテ・アリギエーリ小学校

リンノバータ小学校の向かいにあるダンテ・アリギエーリ小学校は、2000年代になってから、ピッチゴーニ教育を採用し、姉妹校になりました。

小学1年生から5年生まで、合計10クラスの約240人が学んでいます。

まとめ

ピッチゴーニ教育は、イタリアでも特別な教育カリキュラムです。

そのため、ピッチゴーニ教育の教員は、ピッチゴーニ女史が考案した特別講座を修了しています。  

100年近い歴史ある教育法のもと、在校生、卒業生、教員、家族に至るまで、ピッチゴーニ女史の校舎で教育を受けたことに、みんな誇りをもっています。

その素晴らしさは、イタリアのみならず、ヨーロッパの国々からも注目され、度々視察団が訪れます。

リンノバータ小学校を見学されたい方は、ぜひ英語で学校にお問い合わせいただくか、筆者まで日本語でお問い合わせください。

学校に登録されているボランティアの方々が、英語で校内を案内してくださり、ピッチゴーニ教育について詳しく説明してくださいます。

キアレッロ結加里

参照:オペラ・ピッチゴーニ協会「Associazione Opera Pizzigoni」
http://www.operapizzigoni.it/

参照:リンノバータ小学校とダンテ・アリギエーリ小学校のホームページ
https://scuolarinnovata.edu.it/index.php

見学のお問い合わせ先(英語):
info@operapizzigoni.it

組織名:
Associazione Opera Pizzigoni(オペラ・ピッチゴーニ協会)
電話番号:
+39.370.3098734
住所:
presso I.C. Rinnovata Pizzigoni
Via C. da Castello 10
20155 Milano - Italia

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