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塔の魔導師 free

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「君には魔導師の才能がある。」 奴隷階級の少年リンは、旅の魔導師ユインからそう告げられる。 その日からリンの魔導師を目指す旅が始まった。リンはユインに連れられて魔導師の街グィンガ…
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2017年4月の記事一覧

第70話「逃走劇」

第70話「逃走劇」

前回、第69話「リン、ヒゲを外す」

各話リスト

 リンはロレアの事務所を退室するや否や顔を真っ青にして駆け出した。

(ヤバイ。どうしよう)

 彼は紳士らしからぬ余裕のない足取りで、服装が乱れるのも構わずにバタバタと廊下を走り抜ける。

(エライ事やってしまった)

 まさかこんなことになるとは思っていなかった。リンとしては決して悪意はなかった。

 しかし事ここに及んではそんな言い訳通用し

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第69話「リン、ヒゲを外す」

第69話「リン、ヒゲを外す」

前回、第68話「イリーウィア、正義の鉄槌を下す」

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 リンはロレアに呼び出されて彼女の事務所に向かっていた。

「リンへ

 改めて二人きりで話したいことがあるの。

 事務所まで来てください。

 美味しいお茶とお菓子を用意して待っています。

 ロレア」

(なんだろう。こんな風に呼び出すなんて)

 手紙の曖昧で遠回しな表現からリンは変な期待を抱いてしまう。

(なにはともあれ

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第68話「イリーウィア、正義の鉄槌を下す」

第68話「イリーウィア、正義の鉄槌を下す」

前回、第67話「魔獣ケルベロス」

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 イリーウィアはアルフルドにある別荘の庭でくつろいでいた。

 庭には湖が張られ、その周りには森が生い茂っている。

 湖の水は妖精たちにせっせと運び込ませたもので、森の木々は外から持ってきた土に苗を植え魔法の力で育てられたものだ。

 湖にも森にも彼女が研究対象にしている魔獣が放し飼いにされている。

 大量の魔導師を動員できる財力がなければ作れ

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第67話「魔獣ケルベロス」

第67話「魔獣ケルベロス」

前回、第66話「テオ、スパイを放つ」

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 ロレアは上機嫌でリンとの会食に出かける準備をしていた。

 鏡の前に立っては何度も自分の姿を確認して微笑んでみせる。

(出かけるのに服を選ぶのなんて何年ぶりかしら)

 あれからリンとロレアは何度も一緒に出かけていた。

 彼女にとっては遊びに来た親戚の子供と出かけるような気分だった。

 それでわざわざ服を着飾っていくというのも奇妙な話だ

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第66話「テオ、スパイを放つ」

第66話「テオ、スパイを放つ」

前回、第65話「リン、ロレアに接近する」

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 テオは難しい顔をしながら学院を歩いていた。

(参ったな。どうしよう)

 彼は、先ほど取引先の商会の人間からロレアの対応について忠告を受けてきたところだった。

「気をつけてください。彼女は自分の要求を飲まない相手に対し、力に任せて襲撃してくるでしょう」

「暴力を振るうってことか? でも学院の魔導師に対して魔法で攻撃するのは禁止されて

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第65話「リン、ロレアに接近する」

第65話「リン、ロレアに接近する」

前回、第64話「市場原理」

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「リン。今日は学院の後、お茶会よ。ちゃんと準備できてるんでしょうね」

「ちょっと待って。もう直ぐ作業終わるから」

 リンは学院の廊下をユヴェンと一緒に歩きながら、学院の書でメールを送っていた。その様子を見てユヴェンは顔をしかめる。

「あんた一体なにやってんのそれ。授業中もその作業をコソコソやってるわよね」

「学院の書を使って作業員に指示を送ってい

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