2020.04.02 淡々東京ぐらし#3 リモートひるめしにパスタは向かぬ、しかし。
なぜかというと、1時間の休憩時間で作って食べて洗い物をするには、ちょっと慌だしいからだ。
入社した。
入社したその日から、新入社員研修がリモートワークで始まった。東京都でCOVID-19が感染拡大しており、都知事からの要請も鑑みてのことだ。
ビデオ会議の画面に映っている人たちも、会社も、商売も、社会も、まさかみんなみんな架空の存在なんじゃないかと不安になってしまう。自分が受けているのは架空の任務の研修で、外に出たら東京がすっかり消え去っていたりしないだろうか? 絶対にそうじゃないなんてわたしは言い切れない。
低いベッドとちゃぶ台で生活していた部屋に、パソコン用の簡単な机と椅子を導入することにした。机は、近々届く。椅子は予約になってしまったので、もうすこしかかる。
一日中、パソコンの画面とビデオ通話の音声に集中していた。研修が終わって、パソコンを閉じ、伸びをすると、思った以上に身体がぐったりしていることに気づいた。
そうとなれば料理である。
夕ごはんにリフレッシュがてらパスタを作るのが、日課になりつつある。リモートの昼休みに作って食べて洗い物までするのは慌しいけど、夕ごはんに拵えるならずいぶん手軽で済む。しかも彩りもいい。
きょうは玉ねぎの薄切りから始めよう。玉ねぎがさくさくと切れていく、心地よい手応えが、包丁を握る手に伝わる。脳の、ビジネスの話でフル回転させた領域がうとうとし始め、眠っていた別の領域がゆっくり目覚めてくれる感じがする。
きょう作ったのはナポリタン。
(ドラマ「きのう何食べた?」の影響を隠す気がない)
ナポリタンは明治日本のはじまりの港、横浜生まれの日本食。とっても作りやすくて美味しい。
毎日料理をして食べることで、自分の触覚や嗅覚、味覚がまだ機能していることをかろうじて確認している気がする。それはとても豊かに見えて、とてもおぼろげな確認方法だ。
周りに人間の存在がほしい。自分で直接触らなくても、周りになんとなく他者がいれば、自分の存在を認識することができるのに。いつか働くはずのオフィスを思い描きながら、自宅でひとりパソコンの画面と向き合い、必死で話を聞いたり、質問したりしている。
一日の研修を終えて、完全に一人になったキッチンで、麺を茹で、野菜を切り、オリーブオイルを温める。大丈夫、まだ生きてる。