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「ずんだ」の糸口。思考を深めるためのストック

皆さん、GWも読書していますか? 人から勧められた本はあまり読む気がしませんが、自分が「面白い」と感じた本は人に勧めたくなりますよね。さて、お勧め本の紹介です(!)

『教師のための読書の技術ー思考量を増やす読み方ー』

 この本を読むことで、思考を深めることができます。というのも、思考を深めるためには他人の考えをストックスする必要があるし、本書に書かれている香西氏の思考はストックするに足るものだからです。

 思考を深めるには、他人の考えをストックするのが近道です。いくら自分の頭で考えたからといって、自分の頭の枠を超えられるものではないからです。例えば、『ずんだ』を見たことも聞いたこともない人に『ずんだ』を想像するように促しても想像はできません。自分の頭に『ずんだ』に関する情報が無いために、何を想像していいかわからないのです。情報を収集・蓄積してこそ、想像が可能になります。見た目はどんなか、どんな食感か、どんな味か、どこで食べられるのか。外部から情報を入れてこそ、思考できるようになります。ずっと「自分の頭で考えろ」と言われるだけでは、想像の糸口すら見いだせないでしょう。思考量を増やすには、他人の思考成果のストックが必要なのです。ちなみに『ずんだ』とは、私の故郷の郷土料理になります。

 私は本書に書かれている、香西氏の思考成果をストックすることをお勧めします。言い回しが巧みで、ストックするに足る内容だからです。例えば、「足を揚げる方が悪い」という節の一部を引用してみましょう。

「揚げ足を取る」という言い方は、日常では、もちろん悪い意味で使われる。しかし、それこそ言葉尻を捉えるようで恐縮だが、その「相手のことばじり」はなぜ捉えられたのか。それは要するに、相手の言葉が杜撰、不正確、非論理的であったからではないのか。「尻」だから見逃せと言っても、そうは問屋が卸さぬ。そもそも、それが「ことばじり」だと誰が決めるのか。捉えられた相手が、「それは本体ではなく尻である」と言っているだけではないか。つまりは、自分の誤りをで
きるだけ軽微に見せかけようとする言い逃れにすぎない。
 また、相手の「言い損ない」は、なぜそれが「言い損ない」だとわかるのか。「言い損ない」とは、考えていることは正しいのだが、言葉の表現が不正確で拙かったという含みがある。だが、それは「言い損ない」ではなく、粗雑な思考を言葉で表現したものだったかもしれないではないか。結局のところ、揚げ足を取られた人が、「他人の揚げ足ばかり取るな」と喚くのは、「俺の誤りをあげつらうな」と言っているに過ぎない。単なる弱者の甘えである。

教師のための読書の技術ー思考量を増やす読み方ー(明治図書)

 自分の気持ちを言葉で表現するには、言葉が使いが巧みでなくてはなりません。気持ちとは複雑でどこまでも取り留めのないのに対し、言葉は形あるもので制限があるからです。気持ちを言葉で表現することは無限を有限で形づくるようなもの。単純で拙い言葉では、気持ちを表現しきれません。だから、言葉の複雑な組み合わせ方法を知っている必要があるのです。香西氏は巧みに言葉を組み合わせ、心情を、説得力をもった言葉の組み合わせとしてうまく表現しています。

 他人との議論の際、相手の揚げ足を取ったり、自分が揚げ足を取られたことのある人はいると思いますが、そのときにモヤモヤが残った記憶はないでしょうか。自分が「揚げ足を取るな」と言われたときには憤りが残ります。自分としては正当な意見を述べたつもりなのに、揚げ足を取るなと言われては「どうしてそんなことを言うんだ」と心外に思います。自分が相手に「揚げ足を取るな」と相手に言ったときは、自分に晴れない気持ちがあります。ウソをついて無理に相手をやり込めたような感覚です。これらのモヤモヤ感を、香西氏は言葉によって説明します。「言い損ないではなく、粗雑な思考を表現したものだったかもしれないため、『揚げ足を取るな』とは弱者の甘えに過ぎない」と。

私たちは「揚げ足を取る」という表現を、「考えは正しいけれど、言葉が少し足らなかっただけ」というニュアンスで話します。けれど、揚げ足を取られた言葉が、本当に「考えは正しいけれど、言葉が少し足らなかっただけ」である根拠はありません。揚げ足を取られた側が一方的に訴えているだけです。取られたのは本当に、ただの揚げ足だったのか、それとも「揚げ足を取るな」というのは苦し紛れの悲鳴だったのか、実際のところはわからない。だから、そんな根拠のないことを必死に叫ぶのは、弱者の甘えに過ぎない、というのです。

 このように香西氏の思考成果である本書は、複雑な心情を説得力をもって説明しており、言葉遣いが巧みです。言われなければ気づかないモヤモヤを、うまく言葉で表しています。思考を深めるためのストックに足ると言えます。なので、思考を深めるための読書として、本書をお勧めするのです。


参考


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