アニメ平家物語を解説する 6話
前回の記事はこちら。
今回はいつも以上に私の「感想」部分が多い気がします。
福原遷都にあたって引っ越しの準備。遷都のことは『平家物語』巻5「都遷」にあります。貴族たちからはかなり不評だった遷都です。『平家物語』では「遷都の先例というのはないわけではない」として、これまでの歴史の遷都事情についてつらつらと書き連ねられております。「ある」じゃなくて「ないわけではない」ってのが渋々肯定してる感ある。
清経がポジティブで可愛いですね。資盛は引っ越し荷物が多そうなのわかる。
意外と冷静に現状を分析できる資盛の普段とのギャップが良いですね。ここ維盛がいないのは小松家の代表として忙しいのかなとか……。多分事務的なあれそれでしょう。想像ですが。
海で楽しげに遊ぶ清経。
ここで敦盛が初登場ですね! 公式美少年、可愛い顔……。烏帽子をかぶってないので元服前という設定なのかも。小枝の笛について清経が軽く説明してくれますが、『平家物語』でこの笛の話が出るのは巻9の「敦盛最期」です……はい……。
敦盛と清経が笛を通じてお友達になりますね。この二人は実際には6歳差があるのと、敦盛くんが公式記録にあまり出ないのでどういう関係だったかは分かりません。でも、小松家に出入りする敦盛という構図が好きです。ありがとうございます。
海でお月見。福原でお月見をするというのは、『平家物語』にも出てきます。先ほどの「都遷」の次の章段、巻5「月見」です。ただ『平家物語』の方は、話題の中心は徳大寺実定と待宵の小侍従という、貴族サイドの人が描かれています。
敦盛が重盛のお話をしてくれますね。ここでも平治の乱の時の重盛の名言「三つの平」の話題が。あの演説は超かっこいいもんね、わかる。
重衡も加わって、三人で笛のセッションが行われます。これは豪華。無邪気に重衡の戦での活躍(寺燃やした件)を褒め称える敦盛。この、立派な武士に憧れる描写からの一ノ谷フラグがすごい。特に敦盛は最期が有名すぎるので、どうしても最期ありきで見てしまうところがあるんですけど、可愛らしくもいきいきした少年として丁寧に描かれているなと思います。
敦盛は維盛以上に二次元でキャラクター化されている印象があるんですが、結構儚げ美少年に描かれるイメージがあるので、新鮮でした。いや、ここでも儚げ美少年のビジュアルではあるんですけどね。このアニメの敦盛は可愛いんですよね。これは経盛(父)に可愛がられてるわ! って気持ちになる。
ちなみに敦盛のお兄ちゃんの経正は琵琶の名手で、ちょっと先の倶利伽羅峠の戦いに同行したとき、隊列を離れて音楽の神様を祀っている神社に寄り道したエピソードがあります。そもそも父の経盛も和歌が好きな文化系一家なんですよ。音楽大好きだね。
ところ変わって法皇様。この辺はオリジナルかな。狭いって怒ってますね。徳子が宥め係になっていて気苦労がしのばれます。宥めるときに今様を引用するのが、法皇様の好みを熟知して勉強している感じです。チョロ院……。
上皇様の体調が良くないというお話から、病床の帝と徳子の時間。献身的に法皇(舅)と夫に仕える徳子に対して、徳子から逃げるように他の女性のところへ行っていた帝も思うところができた様子。ちょっと遅い気もするけれども、ようやく徳子の心が通じてきた感じなのは良いですね。アニメでは徳子と重盛の仲が良さそうでしたが、穏やかに天皇家に接するところは兄妹で似たところがあるのかも……と思えます。重盛の場合は忠義が軸になってますが、徳子の場合は今は天皇家の方が「家族」だからかなと個人的には思えました。
波の音が聞こえると泣き出す安徳帝……こちらも壇の浦のフラグが着々と……。
清盛の悪夢は、『平家物語』では巻5の「物怪之沙汰」に書いてあります。清盛がしゃれこうべの物怪を睨んで退散させたという話で、不吉な出来事ながらタダではやられない清盛の胆力が表れているお話ですね。
そんな不吉な描写からの、小松家での清経と琵琶ちゃんの睨めっこが微笑ましい。「奇怪なことがたくさん起こってるようですよ。松が一晩で枯れたり東国一と評判の馬の尾にネズミが巣を作ったり」「そのネズミ、子まで産んだとか!」と、怪談話を楽しそうに話す清経と敦盛が、肝試しに盛り上がる無邪気な少年って感じです。ネズミの話は先ほどと同じ「物怪之沙汰」の中にあります。松の木の話は「覚一本」には見つけられなかったのですが、代わりに、「大木がないのに、大木が倒れる音がした」という怪異は書かれています。
また維盛を「怖がりだから」とからかう資盛ですが、維盛は「物怪の方がマシだ」とまだ元気がない様子。前回の戦が相当トラウマになっていますね。資盛は心配、というよりは不満げというか、不可解そうな顔って感じかなあ。「兄上、武士の子のくせにまーだ気にしてる」みたいな感情でしょうか。うがって見過ぎかな……。
妖騒動のことを冷静に分析する資盛ですが、建礼門院右京大夫のことを話題に出されると「会えないから別に嫁取るか……」とヘタレる。『建礼門院右京大夫集』だと彼女の方が資盛に振り回されてそうな感じがしますが、お互いにお互いの言動に振り回されてたらラブコメみたいで可愛いなと思いました。
清盛に呼び出しをされる琵琶についてきた保護者二人(維盛・資盛)。「お二人は琵琶殿が心配でついてきたのでしょう?」「清盛入道に何をされるか判ったものではないと」という時子のセリフは気遣いのように見えて、「清盛さま、この孫二人はあんたのこと信用してませんよ」と解説しているように聞こえてちょっと怖い。
下手な口笛を吹く資盛が可愛いですね。
清盛は琵琶の音を純粋に聞きたかったらしい。本当かどうかわからないけど、物怪を見てしまうところは、実は清盛もちょっと繊細なとこがあるのかもしれない。物語に対してこういうことをいうのもナンセンスではありますが、物怪って結局のところ「心理的にそう見える」という事象が多いわけですからね。清盛も、自分が今まで踏みつけにしてきた人々の恨みを心のどこかで気にしているのかもしれませんね。
「重盛もこの音を聞いておったのだなあ」という呟きから重盛のことを振り返ります。元々重盛のことはもちろん頼りにしていたのでしょうが、いなくなって余計に重盛の存在の大きさを実感してきたのかもしれませんね。しょんぼりしているのはちょっと可哀想。重盛の子供たちに平家の行いの「正しさ」を説くのは、孫の代には「理解してほしい」という気持ちからかなあ。
そしてようやく頼朝登場! CV杉田智和さんの低音ボイスが合ってますね。
生臭坊主な文覚が義朝の髑髏を持ってきます。これは『平家物語』巻7「福原院宣」の章段にあります。
これが義朝のしゃれこうべだよと語る文覚に「本当にこれが?」と疑う頼朝が好きです。『平家物語』でも「一定とはおぼえねども=本当に父の遺骨だと信じたわけではないが」と文覚が全然信用されてなくてちょっと笑える。
頼朝はこの後も後白河法皇の院宣を「ホンモノ?」と言うなど、疑い深いキャラとして描かれていますが、このキャラ設定いいですね。そしてちょっと押しに弱い。これから平家滅亡に向けて少しずつ雰囲気も暗くなっていくだろうアニメの中で、気楽に笑えるポジションで、こういう作り方も上手いな〜と思います。
頼朝が挙兵したことを聞いて激おこの清盛。これは先ほどの「福原院宣」
から少し遡った「早馬」という章段にあります。『平家物語』ではこの「早馬」から、今までクーデターを起こしたり時の権力者を暗殺しようとした人々の歴史が語られていく構図になっております。本筋に関係ないし長いので省略。
頼朝を叩く戦の総大将は維盛を!! と宣言する清盛。みんな反対しますが、清盛は、
「亡き重盛は維盛の年のときには見事な働きをしておったぞ! 維盛にもできる! 平家の力を見せつけるのだ!」
と息巻いていますね。
これ、重盛生きてる時は「重盛はうるさいのー」と言ってまあまあ邪険にしていたのに、死後に急に「重盛はよかった!」と手のひら返すやつですね。宗盛以下の息子たちとしては、ちょっと面白くない流れではありましょう。
それはそれとして、宗盛が維盛総大将にするのに反対するのは知盛とは別の意味(勝とうが負けようが総大将に小松家を据えるのはどうなん?という)にとれてしまうな。
さーて2話からフラグがあった富士川ですよ。
ここの話は、巻5「富士川」にガッツリ書いてあります。忠清と実盛は維盛の自信を削っていく圧がありますね。実盛の話に怯える維盛可愛いし、フォローしようとしたけど空気読まない実盛によってフォロー失敗する忠清は面白いですね。ここの会話って結構深刻なんですけど、程よく軽く描かれててよかった。ここの三人の会話は、ほとんどぜーんぶ『平家物語』にあるセリフです。
ちなみに『平家物語』に書かれている「富士川の戦い」は、創作されている部分が特に多いです。どういう創作かというと、平家の弱さを際立たせるために、実際以上に維盛をヘタレに書いています。また、東国の武士について語る斎藤実盛は、実際の富士川の戦いには登場しません。東国武士の説明係として、それと実盛の息子たちがのちに維盛の息子六代(アニメでは高清)の従者になるので、その接点として物語的に役割を与えられていると考えられます。
夜になってから響く琵琶の音が、もう、不吉。鳥の音に驚いて逃げ惑う兵達と呆然とする維盛。流されるだけ流されて、気がついたら終わっているというような感じで、アニメの表現もすごいなあと思います。弾き語り中に白い鳥の羽が舞っているのは美しい。
逃げたあとの陣を見て「本当に?」という頼朝は笑いどころですよね。好きです。これから源氏との戦が本格的に始まりますが、実は平家一門として頼朝と直接対決したのは維盛だけなんですよ。
維盛と忠清に激おこの清盛。残念だけどおじいちゃんの采配ミスだよ。
忠清と維盛のフォローをする知盛と重衡のおじさん二人。
維盛が流されそうになってた「鬼界ヶ島」というのは俊寛や成経たちが流されてたとこですね。維盛一人で流されてたら、もう病気になって死んじゃいそうだから、ここは流されなくてよかったなと思います……。
清経が「我が兄ながら恥ずかしい」というのがちょっと、お兄ちゃんに寄り添ってあげてほしい……ってなったけど、まあ仕方ないのかな……。
一人松を相手に稽古する維盛。八つ当たりみたいに斬りまくってますね。琵琶は維盛に舞を舞ってほしいと言います。維盛の好きなことをして元気になってほしいという気遣いですね。でも、維盛はもう自分は武士として変わらなくてはいけないから、とそのまま松をメチャクチャに斬り続けます。不甲斐ないのは自分でわかっていて、その悔しさでしょう。
今日の維盛のコーナーです。今回は富士川が長め。
・物怪の話
中盤になってようやく登場です!! 弟の睨めっこを無表情で見守っている……。「も、物怪の方がどれほどいいか……」と言ってましたが、これ、戦に行く前だったら怪談話にビビってたんでしょうか。それはそれで可愛いなと思っちゃいますね(推し全肯定bot)。
・清盛のところへ
琵琶について一緒におじいちゃんのところに来た維盛。時子の言葉に対して、「資盛が一緒にと申しまして」と言い訳するのは「自分はお祖父様のことを疑っているわけではないです」的な保身に見えるなあ。でも弟の頼みはちゃんと聞くし、実際琵琶ちゃんが心配だったんだろうなと思います。
琵琶の音を聞いても心ここに在らずの表情ですね。それが、清盛が重盛について言及する呟きを聞いてハッとして、真面目におじいちゃんの話を聞くわけです。清盛が重盛について「あいつだけはわしに臆さずに物を申していたなあ」と振り返ってましたが、その後清盛が平家の行いについて語るときに、維盛も一応「ですが、今我ら平家は……」と、ちょっとだけ口を挟みましたね。えらい。清盛の言葉を聞いて、重盛なら、と思ったのかもしれませんね……健気……。
維盛は立場的には今すぐにでも平家を束ねる存在になってもおかしくないですからね。清盛にもちょっとは期待されていただろうし、自分でもそれを意識していたはずなんですよねー。
・富士川
維盛といえば富士川、水鳥といえば維盛ってレベルで有名な富士川の戦いでございますね。おじいちゃんどころか弟にまでdisられて可哀想なので、以下、維盛のいいとこを褒めます。
薄化粧をして唇に紅を引いているのがお美しいです。1000000点。
自分なりに作戦を考えて主張するのが、総大将として自分でちゃんと戦の指揮を取ろうとしている気概が見えてgoodです。えらい。(「清盛様に任せられてるんで」と言われて何も言えなくなっちゃったけど。)ちなみにこの忠清、維盛の乳父です。でも忠清の息子たちと乳母子のはずなんですけど、どの文献見てもあんまり仲良くしてるような描写ないんですよね……。史実でも富士川で言い争ってるし、あんまり乳母一家との関係良くなかったのかなと思ってしまいます。
二十万騎と聞いて衝撃を受け、目を見開いてしばらく愕然としているけれども、切り替えて実盛に源氏の話を聞くところがえらいですね。予想外の事態にも固まらずに、ちゃんと切り替えられました。えらい。その後の具体的な描写は別世界す着ましたね。真っ青になってしまったけど、怯えているアップが可愛かったので大丈夫です。最後の><みたいな目が更に可愛い。怯え方がもはや姫。
「今夜は休んでくださいね」と言われてちゃんと睡眠を取ろうとしているのはえらいですね。でも多分これ寝れてないよね。
平家の軍勢が逃げ惑っている中、一人立ちすくんでいますが、我先に逃げなかったのはえらいですね。
めちゃめちゃえらいって言った。いや、本当に頑張ったよと思うんですよ私は。実際『平家物語』の状況でも戦に負けたのは維盛のせいじゃないですからね。そもそも寄せ集めの兵しか集められなかったのは、守りの戦いだからで、士気が上がらなかったのも根本的にそこにあります。特に平家の支持率がダダ下がりの時期なので「平家のためにやったるぜ」という武士や民衆があんまりいないんですよね。その点で頼朝の方は「平家ぶっ倒して新しい世を作るぞ!」という、世の中を変えたいエネルギーでやる気満々な人たちが集まってるわけで……もちろん頼朝のカリスマ性もあるんですけど。
私個人的には、維盛という美男子が先頭に立って「兵士募集中」って声をかけても、地方武士なんかは「スカしてて小綺麗な平家のお坊ちゃんについて行くのは嫌だね!」ってなったんじゃないかなーなんて思うところでもあります。美男子スキルで勝負できるのは女子と貴族相手で、猛々しい男相手にはむしろマイナスになるかもしれない。
そういうわけで維盛は総大将としての責任はあるけど、何があかんかったかといえば頼朝をなめてて、平家に味方する人が少ないという世の情勢を読みきれておらず、維盛を総大将に据えたくせに戦における判断を忠清に一任した清盛の判断が悪い。忠清の判断が正しかったかどうかは置いといて、維盛にも決定権を与えないと、戦の責任を正しく感じられないんですよ。自分の判断じゃないんだもん。その宙ぶらりんの気持ちのやり場がないから、最後の場面につながるわけですな。
そう言う点で、そこの維盛の心情描写を考慮してくれているアニメは本当にありがたい。ありがとうございます。
・清盛のお説教、からの一人稽古
清盛の前で跪き、鬼界が島に流されそうになって怯えてますね。冷や汗が止まらないやつ。重衡の温情で助かった感じですが、これは本当に悔しかったでしょう。なんというか、ベストを尽くせなかったというか……。先ほども書きましたけど、重盛のような活躍を期待するなら、維盛が先頭に立って鼓舞できるような権力を与えておかないといかんわけですよ。そうする権利もないのに「お前は情けない」と言われてもですねって話ですよね。
松林で必死に剣を振るうのは、維盛らしからぬ一面ですよね。琵琶ちゃんに対して、「怖かった」と吐露できたのは、琵琶なら怒らないし責めないとわかっていたからかもしれません。多分奥さんにも言えないやつですよ、これは。実際の維盛に琵琶ちゃんのような存在がいたら救いだっただろうと思います……。実際は誰にも言えずに、本音や悔しさを胸の内だけにとどめてじわじわと病んでいったのではなかろうか。
「舞など」と言って刀を握り直すのは負け戦の大将としての自分と訣別したいという気持ちの表れかもしれません。でも、それは今まで積み上げてきた維盛という人物のいいところも全部否定することになっちゃうんだよなーと思ったりします。維盛が本領発揮できるのは貴族としてなんですよねえ。「貴族社会でもイケる武士」、じゃなくて「戦える貴族」、みたいなポジションなんですよね。特に維盛たち小松家の人は。せっかく貴族として必要な才能に恵まれて(※和歌以外)悠々と生きていけそうだったのにな、と惜しくなってしまう。そもそもそれも、清盛がそのように教育した結果なので、やっぱりめぐりめぐると清盛が悪いってなると私は思ってしまいますね。
最後、剣を振りながら叫ぶ声が悲しくて泣きました。もうあれは絶叫であり慟哭ですよ。
なんと、富士川の回に富士川解説記事が間に合いませんでした……。
半分くらいは書けたので、前編後編に分けて近日中に公開しようかと思います。公開後は、この記事にもリンクを貼っておきます。
というわけで、タイトルに入ってなかったので油断していましたが、富士川の戦いで終わった回でした。全体的に平家ははっきり下り坂に分岐した感じでしたね。
最推しの一大イベントなので、今日の維盛コーナーにもいつもより力が入りました。初見の時もこれ書いてた時にも泣いたので、今後更に辛くなるだろう展開の解説も胆力を込めて頑張りたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。