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20:働く人のための心理療法②カウンセリング実践で得ることができる「味方になる力」

かつては受講生を「敵」だと思っていた

私は普段研修講師として企業の方向けに登壇していることが多いのですが、先日、登壇をしていて急に思ったことがありました。
それは「あれ?いつごろから自分は受講生を味方だと思うようになったんだろう」です。
私は17年くらい前から研修に登壇する仕事をするようになりました。
色々なシチュエーションで研修の依頼を受け、登壇するのですが、全ての研修で受講生に受け入れらていたわけではありません。
14年くらい前に登壇した、ある企業の話です。
その企業からは年間何十回という規模でコーチング研修の依頼を受けました。人事の方はとても熱心で、「うちの会社にはコーチングが必要なんです。どうにかコーチング文化を根付かせたいんです」と仰っており、私も意気に感じ、よしコーチング文化のために頑張るぞ、と研修会場に向かいました。
よし、頑張るぞ!と思いながら会場に入ると、そこにはこちらに関心を持っていなそうな雰囲気を醸し出した40代から50代の管理職の方々が30人くらいいます。挨拶なんて誰もしてくれる雰囲気ではありません。
その当時30代半ばの私はグッと気圧されるような気になりながら研修を開始しました。
研修が開始し、30分ぐらい過ぎた時でした。私が「コーチングとは?」を話している時でした。受講生の一人が急に発言しました。
「先生、コーチングという手法を否定する気はないんだけど、うちにはいらないと思うんだよね」と言いました。
「え、それはどういうことですか?」
「うちの会社は一人一人がプロ集団なんですね。プロということは自分で自分を鍛えることができる人を指しているし、それで通用しないなら去っていくこともプロなんですよ。僕らマネージャーは適切なアサインをして、通用しないのであればそれをわからせ、自らやめていくことも選ばせることが良いマネージャーなんですよ」彼が発言を終えた時、会場から拍手が湧きました。
私は一瞬「うっ!」となりながら、プロ集団だからコーチングがいらないわけではなく、プロ集団であるからこそ必要なんだ、ということや、そもそも大学卒の新卒社員を雇っている時点で完全なプロ集団と言い切るには無理かがあることなど、私の意見を伝え、話しあいました。またこの講義だけでわかってもらうことはできない、1日かけてわかってもらおうと様々な体感ワークを通して、納得してもらおうと頑張りました。
その結果、帰りに前述の発言をした受講生が帰りに話しかけてくださり、「先生の言う意味がわかりました。コーチングも使えそうですね」といってくださりました。
これ自体は研修がうまくいった事例の一つだったりするのですが、問題は私側にありました。
私は最初の発言からの話し合いを経た後の休憩の時に付箋を一枚取り出し、そこに「全力で」とサインペンで書き、それをPCのエンターキーの下に貼りました。エンターキーを押すたびに「全力で!」との気持ちを込めました。また心の中で「絶対負けない!」と呟き、一日中、水を飲む時に「絶対負けない!」と心の中で呟き続けました。
そして先程の研修終了時の受講生が話しかけてくれたあと、「勝った!」と思ったのです。
当時はそのことに全く疑問を持っていませんでした。

「だよなぁ」と思えること

あまり詳細は書けませんが、先日ある企業の管理職の方、10名ちょっとの受講生の方にコーチング研修を実施していました。
そこは私の考えていることとは全く違う考え、発言が多くありました。
「部下にはきつくいう時も必要だ」
「制御しないと緩んでしまう。管理やある意味恐怖政治が必要なんだ」
「そこで這い上がってきて初めて認めることができるし、這い上がってきた人物が次世代を担うことができるんだ」などなど。
私の管理職としての役割や行動に対する考えと全く違うものであり、同意できませんでした。
「そういう見方や考え方って、皆さんの働く歴史の中でどうやって作られてきたのですか?」私はその意見には同意していませんが、私の口からはこのような質問が出てきました。
その後、彼らの管理職になるまでの歴史、管理職になってから起きた問題をどう対処してきたのかといったストーリーを聞いていきました。
「なるほど、そういう歴史を走ってきたんですね。その壮絶な経験があるから管理職としてのあるべき姿が出来上がっていったんですね・・・。なるほど、確かにそういう経験をしてくると、どうにか管理して問題が起きないようにしようって思うのは当然ですよね・・・」などと私も感想を伝えながら話し合い続けました。
時間は大体2時間くらいです。元々の研修の進め方を調整して、彼らの話を聞き、私の考え方を伝え、話し合い続けました。
その後、心理的安全性のことや、コーチングなどの知識を伝えながら彼らの感想などを丁寧に扱っていきながら進めていきました。
その研修は合計3日間の研修だったのですが、途中から彼ら自身から「うちの会社の『管理しなきゃ』の文化を自分たちが変えていこう」という発言が出始め、最後には彼ら発信でコーチングや心理的安全性をどう広めるか、という議論に発展しました。

皆さん、いかがでしょうか

カウンセリングにある「味方になる力」

ここで大事だと思うのは私の心の中の態度です。私は彼らのとの話し合いの中で、何度も「だよなぁ」と心の中で呟いていたのです。この「だよなぁ」というのは、「僕は彼らの考えには同意していないけれど、彼らが○○という経験をしながら歯を食いしばって頑張ってきたことを考えると、彼らが部下育成を管理を厳重に行わなければと思うようになったことは・・・そりゃそうだよなぁ」の「だよなぁ」でした。

自分でもいつの間にこのように変わっていたのか分かりません。
ただ何がこのように自分の態度を変えてくれたのかは分かります。
それはカウンセリングを学んだことです。

ここでカウンセリングを学ぶ方なら誰でも知っている有名なロジャーズの「必要にして十分な六つの条件」を記載します。

①二人の人間が心理的に接触していること。
②第一の人(この人をクライエントと名づける)は不一致(incongruent)の状態にあり、傷つきやすく、不安な状態にある。
③第二の人(この人をセラピストとよぶ)は、この関係の中で一致(congruent)しており、統合されている。
④セラピストは、クライエントに対して、無条件の肯定的配慮(無条件の積極的関心 unconditional positive regard)を経験している。
⑤セラピストは、クライエントの内的枠組みに共感的理解(empathic understanding)を経験しており、そしてその経験をクライエントに伝達するように努力していること。
⑥セラピストの共感的理解と無条件の肯定的配慮をクライエントに伝達することが、最低限達成されること。

※ここではこの「必要にして十分な六つの条件」とはどういうことかは説明しません。もしご興味があれば心理療法を説明している本であれば必ずといって良いほど記載がありますのでご覧いただけると嬉しいです。

さらにこのうち、③④⑤がセラピストの態度であり、面接中に保持し続けるのです。私は心理療法としてブリーフセラピーを専門に学び、扱っていますが、この6つの条件やセラピストの態度をしなくて良い、ということではなく、全ての心理療法の下地になっているものと思っています。

で・・・・これがとっても難しいのです。
頭ではわかっていても、例えば学校でいじめをしていた生徒との面接で「だってあの子、こっちを見るときに馬鹿にしたような目をするんだよ!だからちょっと先輩と一緒に呼び出したらいじめとか言い出してさー」とか言われると「おいおい」となったりするわけです。
カウンセラーとして、倫理観、価値観、考え方、感情のポイントなど自分とは全く違う方の面接を行っていきます。
その面接中に様々自分の中にもいろいろな思い、感情が湧いてきます。その時、とても難しいのですが、自分の価値観などを意識しつつ、その価値観に振り回されず、相手の話に集中し、クライエントの世界から見えているものを感じ、理解していくのです。
このことはクライエントのやっていることに同意し、推奨するわけではありません。いじめという行為をクライエントを尊重するからといっていじめをしていいというわけではありません。しかしながら、相手がいじめという行為をするに至る考え、感情などは「そうかぁ、そう考えていったんだ・・・」と受け止めていきます。

自分のことを振り返ると、こういう理論などを理解することと、実践の中で「同意することではないが、相手を認め、尊重し、理解していくこと」を繰り返してきました。
その実践の繰り返しが、相手を自分とは全く違う驚異的な存在である、ではなく、自分とは意見が違うけれども一緒に考えいく仲間である、味方であるという態度につながっています。

傾聴とは態度であり、技法ではないということ

企業向け研修でよく「傾聴」を扱います。
ついついそこでは技法が中心になり、「うなづき」「相槌」「おうむ返し」などという内容を扱いがちですが、本当に大切なのは「相手をどう見るか」「どういう態度でいるか」ということです。
私は企業向けで研修をやっている身として、ロジャーズの提唱している考えをわかりやすく、実践できるものとしてお伝えしていけると、企業内の関係性に大きな影響があるのではないかと思いながら研修登壇しています。
・・・とはいえ、すっごく難しいのですが・・・

ここまでお読みいただきありがとうございます。
何かお役に立つ内容になりましたでしょうか。
現在私は企業向けの研修やコンサルタント、ブリーフセラピー協会にてセラピストの育成、またキャリアコンサルタントの方向けの講座、「組織セラピスト養成講座」を実施しております。
ご興味のある方はご連絡ください。
今後ともよろしくお願いします。


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