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夏の日、儚い命の温かい記憶。『ハレノヒカンタータ』
7月に入り、上半期の観劇の記録をTwitter上で整理していた
元々、東雲あずささんを「追い掛ける」「付いていく」という意識しかなかった中、他にも素敵な役者さんがいることを知るきっかけになった作品が『ラチカン』
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東雲あずささん、橘明花さん、真田林佳さん、真白ゆうみさん
特に強く印象に残っていたのが、真田林佳さんだった
『ラチカン』のエリコ、『煙詰』の看寿、『彩女』の理事長と、キャラクターの違いはあれ、りんちゃんの演技は凄まじい熱を持っており、惹きつけられるのだ
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天使様聖誕記念
彼女は僕にとって「この人の芝居を観たい」と思える人の中に、間違いなく入っている
出会ってから4つ目の作品となる『ハレノヒカンタータ』
マリーはどんなキャラクターなのか、楽しみにしていた
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迎えた7月16日(日)13時、色チーム
最初のうちは、マリーは「幼い」「我儘」「素直になれない」という印象だった
しかし物語の半分が過ぎた頃、展開上重要な役割を果たす
明日香に対して「いつまで現実逃避してるつもり?」「あなたは一度死んでるのよ」と、痛烈な言葉を放つ
マリーが感情を露にすると共に伏線が回収され、観ている僕も感情を揺さぶられる
冒頭、明日香が歌を口ずさみながら眠りに就く
また、フライヤーの裏面にある物語の導入文に、"明日香"と引用符付きで書かれていることの意味も、ここではっきりする
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これはりんちゃんに言われて気が付いた
明日香は既に、"人から離れた存在"だった
この展開で思い出したものが、堂本光一主演『Endless SHOCK』であった
二幕で現れたコウイチはどういう状態なのか、という疑問に対する解釈は様々だが、コウイチの中のある強い想い(これもステージへの情熱だったり未練だったり何とでも言える)が彼を現世に繋ぎ止めていることは確かなのだ
ただ、『Endless SHOCK』との決定的な違いがある
コウイチに触れたリカとマツザキ(2020)は、コウイチの体に血が通っていないことに気付く
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『Endless SHOCK』の場合、コウイチがこの世の者ではないことを、説明がなされる前に視覚的に明示しているのだ
しかし『ハレノヒカンタータ』の明日香は、触れた人々が違和感を抱くことはない
人間の"体温"が、明日香には残っている
次に初音によって、マリーを含む神様達の、人間だった頃の話が明かされるシーン
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書かれた時点で既に伏線になっていたのだろう
マリーの叫びは、『煙詰』の玉将がいじめを受けた記憶の中で、玉将本人ではなく看寿が玉将の立場で心境を吐露しているシーンを思い起こさせた
この場面で明日香が初音に対して吐いた「みんなの方が苦しんでいるって?元気出せって?」という台詞も、また自分の過去を思い出しては胸を抉られるような気がした
30年前の8月
僕自身、生涯で最も死に近づき、僕が知らないうちに、大切な人が遠くへ行ってしまった日
その日以来人が嫌いになり、「自分のテリトリーに他人が入るのを嫌う」というマリーの設定を地で行く人間になったこと
その人の命日、誕生日を迎える度に、何とも言いようのない寂しさに襲われては、「会いたい」という想いを募らせていること
様々な傷みを思い出しては、苦しくなる
最後、全てを受け入れた明日香と、人々と神様達の合唱は、『Endless SHOCK』における「夜の海」に当たる
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僕は「集団で一つの目標に向かって何かを成し遂げる」という経験が著しく不足している
それなのに、観ているうちに涙腺が緩んでしまうのは何故なのだろうか
やはり、何処かで人と繋がりたい願望があるからなのだろうか
(参照:過去記事「怨念との決別。『将棋図巧・煙詰-そして誰もいなくなった-』『ケダモノ202』観劇と記憶」)
ラスト、それぞれの後日談が描かれ、この世への未練を解消し眠りに就く初音
初音に寄り添い、共に眠りに就く明日香
二人に花を手向ける人々、神様達、そして消えていく二人
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互いに慕い合う姿は温かかった
「人は二度死ぬ」と言った人がいる
一度目は、肉体的な死
二度目は、人の記憶から忘れ去られたとき
その二度目を迎えさせないように、生きている私たちが思い出してあげること
それが一番の供養であると思う
明日香も、初音も、触れられる存在としては消えても、人々の記憶からは消えていないはずだ
儚くも温かい「命」の物語
皆さんに、ありがとう