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読書記録/「空色勾玉」荻原規子 作

「空色勾玉」は、神話の時代の日本を舞台に描かれたファンタジー小説です。
豊葦原と呼ばれる古代の日本で、対立する光と闇のふたつの神々とそのはざまで運命を翻弄される一人の少女の物語です。

私がこの本と出会ったのはまだ小学生の頃でした。
塾の帰りに立ち寄った本屋で平積みになっていたこの本の、あわいブルーの表紙と「空色勾玉」というタイトルが妙に気になったのを覚えています。

お小遣いで買うにはちょっと高くて、なんとなく手にするタイミングがないまま大人になってしまいましたが、あらためて読んでよかった!

この物語には、子供のころの憧れがいっぱいに詰まっていました。

ある日、自分が特別な巫女であると知らされるシチュエーション。美しく勇気がある主人公。人生最悪の日に偶然出会う憧れの人(実際は人ではなく神様)。やがて旅をともにする仲間たち。驚異の力を宿す大蛇の剣とそれを守る水の乙女…。

言葉を書き連ねるだけでどきどきするほど、ときめきとワクワクの連続です。

ストーリーには不老不死の神様や、輪廻転生を繰り返す神様たちが登場するのですが、いずれも心のどこかが欠落しているようであったり、苛烈で残酷であったり、人知を超えた能力をもつ存在として描かれる一方で不完全で人間臭い存在でもあります。それがこの物語の魅力的なところで、彼らの存在が古代日本という圧倒的過去の物語を、感情移入できる身近なものに感じさせてくれます。

主人公をふくめて人間たちは神や自然の前にあまりに非力です。「闇の士族の巫女姫だ」と告げられた主人公でさえめちゃくちゃ非力で、神様たちが不老不死や時空移動を軽々して見せるのに、戦の中で祈ることしかできずに何度も死にそうになります。

そのいっぽうで、村娘たちが洗濯の合間に興じるおしゃべりや、着物をあつらえる主人公の母や、漁師一家が主人公たちに与えた「干し魚の切り身の入った熱い汁」といった小さな日々の営みのが美しく繊細に描かれていて、非力ですぐ死んでしまう人間のいじらしさが際立って感じられました。

目に見えないものを信じ、自然に圧倒されながら生きた古代の人々の姿に胸をうたれます。

さわやかな冒険譚を読みたい方に、ぜひおすすめしたい一冊でした。

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