よく使うその言葉が文章力を劣化させる!~考える技術・書く技術~
はじめに
OPQ分析で読み手がほしい情報を見抜く
メッセージの構造を明らかにする
とりあえずこれだけ!主メッセージを文章にするときの4つの禁止!
①名刺表現・体言止めは禁止!
②「あいまい言葉」は禁止!
③2つの文章をつなげるのは禁止!
④「しりてが」接続詞は禁止
はじめに
「主語がない。」私の26年間の人生の中でおよそ300回は言われたであろう言葉です。(記憶がある小学2年生から月1回の頻度で計算)
母にも学校の先生にも、友人にもたくさん言われてきましたが、そんな私が思うことは「言わなくてもわかるでしょ。」でした。
日本語の文章の約8割は主語が無いと言われています。日本語の構造上、日本人は主語の意識が極めて低い生き物です。
高校時代、外国人講師が私のところに日本語を教えてくれ、と日本語学習のテキストを持ってきたことがありました。
もちろん、日本語はネイティブですので、当然、なんでも聞いてと息巻いていたのですが、結果は惨敗。
「国に帰る」と「国へ帰る」の「に」と「へ」の違いや「あなたがりんごを食べる」「あなたはりんごを食べる」の「が」と「は」の使用定義などを全く説明することができなかったのです。
その外国人講師は、「日本語はとっても難しい。」と言っていました。たしかに、私もそのとき難しいな~と思いました。ただなぜ難しいのかと考えたときに、日本語はこの言葉が主語のときには、この接続詞しか使ってはいけない、というような規定や定義が曖昧だからではないかと思いました。日本人がみんな「なんとなく」使っているからではないのかなと、ぼんやり思ったのを覚えています。
少し用法が違っていても言葉として伝わってしまう言語構造自体、欧米人と比べると、日本人のディスアドバンテージです。
毎日使う言葉に対して、文の構造を意識できている人とそうでない人では、作る文章に圧倒的な差が出ることは当然でしょう。
本記事では、文の構造把握から、日々気をつけることで正確に伝わる文章にするための具体的な方法も記載しております。明日から実行できますのでぜひ試してみてください。
OPQ分析で読み手がほしい情報を見抜く
問題を正しく定義できれば、問題の半分以上は解決できたようなものだと言います。
文章を書くにあたっても同様で、読み手の状況や疑問を正しく理解できれば、ライティングの半分は成功しているも同然なのです。
あなたが上司に何らかの文書を提出するとき、仕事に追われ、時間が十分に取れないという理由で、このくらいでわかるだろう、と内容の吟味を怠った提出をしていませんか。
これはライティングで最もタブーとされる、「読み手の立場にたっていない行動」です。まずこの意識から改善していきましょう。
上司はあなたよりも、1日に多くの文章を書き、多くの文章を読んでいます。
あなたの文章になにか「ん?」と突っかかる点があっただけで、「読みづらい」と思われ、読む気自体を削ぐこととなる可能性があります。
そこで必要となるのが、読み手の疑問を理解し、確認する「読み手分析=OPQ分析」です。OPQ分析について簡単に説明しましょう。
O:objective
「O」とは読み手が目指している望ましい状況です。読み手がその文章を読むことで得たいと考えている、達成すべき目標や改善後の姿を指します。
P:Problem
「P」とは、現状と「O」(望ましい状態) とのギャップ=解決すべき問題のことです。「課題」や「問題」などの「困った状態」を指しているものではありません。現状に大きな問題はないが、もっと上を目指したいという場合もそのギャップは「P」となります。ここで忘れてはいけないのは、あくまでこの「P」は読み手にとっての問題だということです。
Q:Quetion
「Q」とは、問題「P」に直面した読み手が、その解決に向けて自然に抱くだろう疑問のことです。ここでも読み手の視点をキープします。
A:Amswer
読み手の疑問「Q」に対する答えがそのまま文書の主メッセージとなります。大切なのは「Q」に忠実に答える、ということです。OPQの流れを無視するような答えを提示しないよう注意しましょう。
レール(トピック):望ましい状況=Oと問題=Pは必ず同じモノサシで比べます。このレールが違っていると、QとAが食い違っていしまい、読み手が求めている主題への解答を提示することができません。
何度も記載の通りですが、全ての項目において「読み手の立場で」という意識を強く持って下さい。
それでは、例題を見ていきましょう。
まず、レール(トピック)がずれてしまっている場合をご紹介します。
O:「在庫を削減する」
P:「売上が低迷しているのが問題である」
Q:「売上を増大さえ在庫を削減するにはどうすればよいか」
このOPQでは、読み手の疑問を明確にできていないために、レールに在庫と売上が混在してしまっています。これでは、在庫削減について検討しなければならないのか、売上増大策について答えれば良いのか、読み手は返答に窮してしまいますよね。
以下2つが修正例です。
修正案① レールを「在庫」とする場合
O:「在庫を削減する」
P:「在庫が急増した」
Q:「在庫を削減するにはどうしたら良いか?」
A:「在庫削減のためには・・・・・・するのがベストです」
修正案② レールを「売上」とした場合
O:「売上を増大させる」
P:「売上を低迷している」
Q:「売上を増大させるにはどうすればよいか?」
A:「売上を増大させるために・・・・・・を提案します」
このように読み手の問題が具体的になれば、答えも具体的になります。Aの説明でもあったようにQに対して忠実に答えるのがAです。
読み手の問題が不明確なまま、問題を定義しないようにしましょう。
設定したレールは、いま書こうとしているレポートのタイトルを導きます。逆に、レポートのタイトルがつけにくいな、と感じるものはレールがずれたり、混在している可能性が高いものですのでチェックしてみてください。
メッセージの構造を明らかにする
読み手は文書の中にQに対する答えAを見つけたとき、なぜその答えにいたったのか、理由を知りたい、と思うでしょう。
Aのことをもっとも伝えたい文書という意味合いで「主メッセージ」と呼ぶことすると、主メッセージには「なぜならば」という多くの根拠がぶら下がっている状態になります。
しかし、わたしたちの脳が一度に理解できる考えの数に限界があり、短期記憶できる数は「7±2」すなわち、5~9とされているそうです。ライティングの世界では下限を取り、5としています。
つまり、Aに対して5を超える数の根拠が提示されているとき、読み手は文書の正しい理解が難しくなります。
そこで、根拠を構造化した上で読み手に伝えることができれば、記憶から溢れ出てしまうことなく文書を読み進めることが可能です。
人は、何かを認識するとき、わたしたちの脳は物事を様々なカテゴリーやグループに仕分けしています。つまり、「情報を受け取った読み手は、理解するために、脳が自動的にグループ化やパターン化を試みる」ということです。
人と出会ったときに、この人はこういう分類の人だな、と思うことはありませんか?
これと同じで、無意識に自身が理解しやすいようグルーピングしているのですね。
この構造を脳の中で読み手に実行させる前に、最初から文書で示してあげることで読みやすい文章を作り上げることができます。
つまり、主メッセージに対して、つらつらと根拠をぶら下げるのではなく、主メッセージの下にもう1段階1つの章メッセージをつくります。
よく使う、理由は大きく3つあります、というやつですね。
この下にさらに段落メッセージとなる根拠をぶらさげていくことで読み手のグルーピングを助けながら読み進めてもうらことができるのです。
段落メッセージ=段落ごとにはメッセージが違います。ひとつの段落で一つのメッセージを伝えられる構造となるよう意識しましょう。
考えを組み立てるプロセスには、2種類しかりません。
「主メッセージを探す」作業と、「グループを作る」作業です。
主メッセージを探す作業はまず、複数のメッセージを1つのグループにくくり、そのメッセージを象徴する1つのメッセージを見つけます。
もう1つは、1つのメッセージに従って、根拠や説明となるメッセージのグループを作るやり方です。
簡単にいうと、「~なので、主メッセージです。」というパターンと「主メッセージです。なぜならば~」となるパターンだと思って下さい。
考えを組み立てる際、どちらの方法でも構いませんがどちらかだけでOKというものではありません。グループが曖昧だと明快な主メッセージを作れませんし、曖昧なメッセージに従ってグルービングをしようとしても説得力のあるグループはできません。グループ化と主メッセージは相互にチェックをかけながら考えを組み立てていくようにしましょう。
とりあえずこれだけ!
主メッセージを文章にするときの4つの禁止
考えを組み立てる際、日本語特有の表現に気をつけなければなりません。
日本語の表現は考えを曖昧な方向に引っ張り、明快なライティング作成の足かせとなりがちです。
そこで、これだけは気をつけてほしい!という4つの「禁止」をご紹介します。
①名刺表現・体言止めは使用禁止!
メッセージを体言止めにすると、「見出し」になってしまいがちです。これでは何も伝わらないですし、中身のない文章になってしまいます。
例えば、
過去5年、ベトナム市場は年率19%で拡大している
過去5年、インドネシア市場は年率18%で拡大している
過去5年、タイ市場は年率18%で拡大している。
これら3つから考えられる主メッセージはどうなるでしょうか。
まず、悪い例がこちら。
東南アジア市場の推移
一見、間違いはないように感じられますが、これは3つのメッセージの見出しにとどまっており、何を伝えたいかが明確ではありません。
修正案がこちらです。
東南アジア主要国の市場は、過去5年、年率20%近くの大きな拡大を見せている
これは、「村上春樹の著書」を本、「スピルバーグ監督の作品」を映画といっているようなものです。
主メッセージとは、グループ内のメッセージ群に共通する「特定の意味」を拾い出すものです。にも関わらず、全てをまかなえる包括的・抽象的の使い勝手の良さに負け、つい、選んでしまいがちですよね。
このような言葉を使っていると、意味や課題を正確に捉えることが段々できなくなってしまうため、使いそうになったらできるだけ詳しく、正確に意味を定義するよう自分を律していきましょう。
②「あいまい言葉」は禁止!
あいまい言葉とは、「見直し」「再構築」「問題」「適切な」……と言ったものです。
わたしも、仕事の中でつい、「問題ありませんか?」「確認してください。」という言葉を使ってしまいます。これらも鉄則①で説明したように、包括的・抽象的な意味を持っているため意味を定義する必要がない使い勝手のよい言葉ですね。
それでは例題です。
悪い例:
営業組織の見直しをする
修正案:
東京・大阪など大都市圏での営業人員を増加させる
おわかりのように、悪い例では「見直し」が何を示しているのか、全く見えてきません。
こういった文書は認識の齟齬を生む原因となりそうです。
③2つの文章をつなげるのは禁止!
主メッセージはただひとつのメッセージで表現します。というのも、主メッセージですから1つでなければおかしいですよね。もしメッセージが2つになってしまうようなら、それはメッセージが絞りきれていないということになります。
例えば、ここに2つの章メッセージがあります。
①紙おむつは、イオンやイトーヨーカドーなどの大手スーパーでは、ずいぶん前から客寄せ商品として位置づけられてきた。
②紙おむつは、最近、マツキヨやセイジョーなど大手ドラッグストアとして安売りされるようになった。
このときの主メッセージはどうなるでしょうか?
悪い例と、修正案をみていきましょう。
まず、こちらが主メッセージが絞り込まれていない、悪い例です。
紙おむつはスーパーでは客寄せ商品として位置づけられている。ドラッグストアでも同じ状況になってきた。
そして、こちらが修正案。
紙おむつは市場ではですに客寄せ商品として位置づけられている。
悪い例の方はメッセージが2つになっていることがわかりますね。
もし主メッセージが1つにできない、と思ったときは内容を正確に捉えられているか、再度、考えてみましょう。
④「しりてが」接続詞は使用禁止
メッセージを表現する場合には、「1つの主語と述語」で構成される単文表現にするのがベストです。
ただし、どうしても2つの文章を組み合わせた複文で表現したい場合、接続詞に「and」を使わないようにしましょう。
「and」は2つの文が必ず並列になってしまうため、論理的な関係性を明らかにしてくれません。単にメッセージが2つ並んでいる状態を作れてしまうため、③の鉄則と同様に、1つの文章であるけれども2つの文章となってしまいます。
英語では「and」は禁止!といえば事足りるのですが、日本語では、「接続助詞」と言われるものが多くあり、その多くは「and」と同様の意味で使われています。
それが、「しりてが」の接続詞です。
しりてがとは、下記のようなものがあります。例といっしょに見ていきましょう。
「……し、……。」
「……であり、……。」
「……して、……。」
「……だが、……。」
「……せず、……。」
「……なく、……。」
▼悪い例
①A社は倒産し、B社は黒字になった。
②私の貯金目標は300万円だが、あと3ヶ月で達成できそうだ。
▼修正例
①A社は倒産したにもかかわらず、B社は黒字になった。(逆接)
A社は倒産したおかげ、B社は黒字になった。(因果関係)
②あと3ヶ月で、300万円の貯金目標を達成できそうだ。(複文→単文)
例を見るとわかるかと思いますが、しりてが接続詞を使っている修正前の文は、文の意味を正確に伝えることができていません。これらを意味を考えず使用していると、文と文の構造を正しく捉えることができなくなってしまいます。
しりてが接続詞は日本語の一部として溶け込んでいるため、一切使わないことは不可能かもしれませんが、考えを組み立てたり表現したりする際には使わないことを心がけましょう。