チェコからのユダヤ児童疎開に奔走したニコラス・ウィントン氏の映画「ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命」(2023年)
ナチ・ドイツの侵攻が迫るチェコスロヴァキアから、ユダヤ人児童669人をイギリスに疎開させた英国人ニコラス・ウィントン氏とその仲間たちの活動を描いた実話をもとにした映画「ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命」を観てきました。
ウィントン氏の活動を取り上げたものとしては、2011年にチェコとスロヴァキア合作でドキュメンタリー映画が作られています。こちらも初めから終わりまでダダ泣きになる感動作でした。
今回の「ONE LIFE 」は、劇映画です。主演は、あの! 名優アンソニー・ホプキンス! これはもう観ないわけにはいきません。
まだまだ授業でヒーヒーな時期でしたが、なんとか時間を作って、祇園祭の京都のど真ん中で、朝っぱらから鑑賞してきました。
ミニシアター系で上映されるかと思いきや、中くらい?の映画館にかかったので、そこそこ人が入るのかしら? と思いきや、やはり貸し切りみたいな状態。平日の朝イチ、そうは来れませんよね。(^_^;) おかげで、心おきなく感動しながら観ることができました。
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本作は、ニコラス・ウィントン氏とその母、そして仲間たちに焦点を当てたものになっていました。
若き株の仲買人のニコラス・ウィントン氏(ニッキー)は、ユダヤ系の祖先をもつイギリス人です。
ナチ・ドイツがチェコスロヴァキアのズデーテン地方を占拠したために迫害を怖れて難民が溢れる状況を憂い、せめて子どもたちだけでも助け出そうと奔走します。
自らを「ヨーロッパ人であり、社会主義者であり、不可知論者」だとするニッキーは、ユダヤ系だからというよりも、死の危険が迫る人、困っている人たちを救いたいという気持ちから、無理だと思われた難事業を可能にしていきます。
彼の熱意を強力にサポートしたのが、結婚でイギリスに渡り、必死でイギリス社会に溶け込もうと生きてきた、気丈な母です。このお母さんのプッシュと実務的な協力がなければ、669人もの子どもたちを外国に脱出させることはできなかっただろうと思われます。お母さん、カッコイイ!!!
そして、ニッキーが所属した難民救済団体の仲間たちの活躍と悲劇にも焦点が当たっているのが良かったです。
こういう救出劇を映画にすると、どうしても誰かを英雄として描くことになりますが、実際には、周りの人たちが動き、働きかけ、たくさんの人々がそれを支えたからこそ、不可能が可能になったわけですもんね。
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映画では、老齢となったニッキーの終活?的な場面も半分くらい差し挟まれていきます。
ニッキーは、児童の救出のあとも、人生をかけて「よきサマリア人」として生きていきます。社会福祉活動を続け、寄付を募り、そうした慈善活動の書類で書斎は満杯。慈善団体で使わなくなったタイプライターを持って帰ってきて、妻に怒られます。
妻からは、これ以上、荷物を増やすな、身重の娘が里帰りするまでにすっきりさせてくれと言われ、ニッキーは仕方なく?断捨離に取りかかります。我が家の書斎・書庫に比べたら、全然問題ないのに… ニッキーの人生が詰まっているだろうになあ… とちょっと胸が痛むシーンです。
といっても、狭い家にギュウギュウというのではありません。ニッキーは、株の仲買人として経済的に成功したらしく、ゆったりした平屋のお家に住み、断捨離する書類も庭の一画に積み上げて焼いて処分するくらい広い敷地。別の一画にはプールがあって、日常的に泳いでいるという余裕のある暮らしをしているのです。
社会主義者でありながら、株の仲買人、というのも、ちょっと面白く感じました。
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そして映画のクライマックスは、もちろん、感動の涙です。わかっていても泣けます。
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ところで、この手の映画の邦題はちょっと余分な言葉が多いシリーズ。本作も、原題は、ONE LIFE ですが、邦題には、“奇跡が繋いだ6000の命” というサブタイトルがくっついています。
たしかに、映画のなかでも、救われた児童の子孫が6千人くらいになっていると説明が出るので、勝手に創造したわけではないのですが、「6000」「命」というのは、杉原千畝のユダヤ難民への通過ビザ発行に関して頻繁に使われる装飾語なんですよね。絶対それを意識してるんだろうなあ。
ONE LIFE だけではなんのことがわからないというのもわかるけど… でもやっぱり無い方がいいなあと思うのでありました。
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私の周囲では、この春学期に公開された映画のなかでは、「関心領域」が関心を集めていたように感じましたが、私自身は、本作のような、よきサマリア人らを取り上げた作品の方が好きです。
こういうの上映されるよ、きっといい作品だよ、と学生さんたちにも宣伝したのですが、あまり響かなかった模様。もっと早く観に行って、いい映画だよ、ぜひ観て!と、熱く語れば良かった~!
でも、これから上映する劇場もまだまだあるみたいです。まだの方、ぜひぜひ観てください!
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