メンバーインタビューVol.7 洋食おがた 緒方博行
【洋食おがた】を京都にオープンしたのは2015年10月です。その当初から、自分の店で使う食材は「自然に寄り添ったもの、身体にも地球にもいいものだけにしたい」という強い思いがありました。そこでまず野菜は京都・伏見の農家の方にお願いし、完全無農薬でつくっていただくことができました。
故郷の生産者を応援したかったので、豚肉は熊本・やまあい村の9000坪の山中を走り回って育つ「走る豚」。牛肉は同じく熊本・阿蘇の大自然のなか、自生するススキや芝だけを食べて生きる通年放牧の「阿蘇赤うし」を使わせていただいています。
一方で、魚だけは何を仕入れたらいいのかわかりませんでした。
どの魚が「自然に寄り添っている」のか、「身体と地球にいい」のかがわからない。
洋食屋なので、使う食材はもともと肉中心ということもあり、魚にはそんなに注意を払っていなかったのも実際のところです。そうして1年半ほど経った頃でしょうか。静岡に住む常連のお客さまが、「美味しい天ぷら屋さんがあるから」と静岡の【成生】に連れて行ってくれたんです。まず近くの【サスエ前田魚店】に伺い、前田さんの魚の仕立てを見学し、成生ではその魚を使って志村さんが揚げた天ぷらをいただきました。あまりに美味しくて、その日の感動は今も忘れられません。
この美味しさを自分でも表現したい、と考えたものの、簡単に取引させていただける方ではないことも知っています。だからとりあえず前田さんの仕立てについて、また志村さんの魚の扱い方について、学ばせていただこうと焼津に通い始めました。ほぼ毎月、忙しいときは2ヶ月に1回。そうして一年ほど経ったころ、知り合いがSNSに上げた僕のアジフライの写真を見とめた前田さんから、電話をいただきました。「アジフライを作るなら、うちのアジを使ってみてくださいよ」と。その日を境に、【洋食おがた】のメニューが大きく変わりました。
すばらしいアジにカマス、サワラやサバ、マイワシ、、、前田さんは大衆魚と呼ばれる魚たちをびっくりするほど美味しい状態に仕立て、漁師さんから受け取ったバトンと料理人につないでくれます。またそれだけでなく、海の未来や漁業者さんの生活、地域コミュニティのあり方を常に考えた魚の流通に取り組まれています。漁師さんを大切にし、安く買い叩くことはしない。どんな日でも漁師さんたちが安心して漁に出られるのは、必ず適正価格で買ってくれるという前田さんとの信頼関係があるからです。
そして、獲りすぎないことも重要。たとえばある漁場で揚がるアマダイのサイズが小さくなってきたら、前田さんは漁師さんたちにその瀬にはしばらく近寄らないようお願いするそうです。産卵前の未成魚を海に残し、次世代につなぐためです。「未成魚を守ることが水産資源管理のゼロ番地だということは、僕は前田さんから学んだんです。」
そんな学びを重ねていた頃に、【チェンチ】の坂本さんからChefs for the Blueへのお誘いをいただきました。水産業に対する興味がとても高まっていたこともあり、ぜひにとお願いして、今に至ります。
現在の僕の店のメニュー構成は、肉が50%、野菜が25%、そして魚が25%。すべての食材を生産者の顔がわかる、つまりトレーサブルで、自然にも寄り添ったものにできたことが心から嬉しいです。自然を守り、ととのえ、同時に生産者を支えていかなければこの先、食の行く末が本当に危ない。
食文化を未来につなぐために、僕たち料理人ができることを今後も続けていきます。