憧れから三ツ星の王道へ・赤パプリカのムース
本日紹介する料理は赤パプリカのムース・トマト水のジュレのレシピの紹介です
今回紹介するレシピのオリジナルは、一昔前に日本のフランス料理界で有名となり広く認知された前菜料理の一つでした。
僕世代のフランス料理に携わっている人であるならば、この料理が生まれた背景と2人の料理人の名前を知らない人はいないはずです。
1980年代、まだまだ日本人にとってフランスが色々な意味で遠かった当時、料理人に限らず、日本でフランス料理に時間を費やし、情熱を燃やした人であるならば、彼らの物語に触れ、憧れ、魅了された日本人は多くいたはずです。
彼らとともに紹介された赤パプリカのムースは、パリの空気に触れることができると、日本のフランス料理界では一世を風靡したとも言われています。
その彼らとはベルナール・パコー氏と斉須正雄氏。
ベルナール・パコー氏は、パリの三つ星レストラン【ランブロワジー】のオーナー・シェフ。ブルターニュ出身の彼は、1981年・5月、パリの左岸にてレストラン・ランブロワジーをオープンすると、オープン2年という最速で、ミシュラン2つ星獲得の快挙を成し遂げる。
そしてランブロワジーの開店時に、パコー氏の右腕として活躍された日本人こそ、現在は東京・三田の【コート・ドール】のオーナ・シェフ・斉須政雄氏なのである。
彼らは1970年代に、当時パリの16区あった三ツ星レストラン【ヴィヴァロワ】という10年以上3つ星を維持したレストランで出会います。
斉須氏が1978年にヴィヴァロワで働き始めた頃に、雇われシェフとして働いてた人物がベルナール・パコー氏。
パコー氏と出会ってから約2年後、斉須氏は彼に誘われる形で、・パコー氏の奥さんと一人のギャルソンと共に小さなレストラン【ランブロワジー】を開店させることとなります。
ちなみにヴィヴァロワのオーナー、クロード・ペイロー氏は、斉須氏がフランスで出会った、生まれた初めて彼が抱いたという【人間の理想像】として尊敬する人物であったと、彼の著書【調理場という戦場】で紹介しています。
そんな彼らが出会ったレストラン・ヴィヴァロワで、今回紹介する赤パプリカのムースのオリジナル、【赤ピーマンのムース】をパコー氏が考案。
パティシエとしての経歴のあるパコー氏は、野菜を使ってお菓子を作るアイデアを具体的に実現させたいという思いから、赤ピーマンをケーキのようにムースにして甘くない前菜として誕生させました。
斉須氏は日本に帰国後、1986年にコート・ドールの料理長に就任(1992年からコート・ドールのオーナー・シェフ)して以降、本場の味を求めて多くのフレンチ料理人が、斉須氏が作る*赤パプリカのムースなどの彼のフランス料理を味わうために、コート・ドールに足を運んだはず。
そんな彼らの代表作とも言うべき赤パプリカのムースを、簡単に自宅でも作れるように紹介します。
オリジナルのレシピはわかりませんが、斉須氏の作るコート・ドールの赤パプリカのムースは、確かゼラチン不使用で、提供直前にパプリカピューレに固めに立てたホイップクリームをあわせて提供していたはず。
今回僕が紹介するレシピでは、ムースと一緒に味わうトマトのクーリを作りますが、トマトクーリの調理工程で出てくるトマトの透明な液体〈トマト水〉も活用して、トマト水からジュレを作り、夏らしい一皿に仕上げます。
1:パプリカをオーブンで蒸し焼きにする
まず初めにパプリカをアルミホイルで包んでオーブンで蒸し焼きにします。
オーブンで蒸し焼きにする理由は2つあります
一つは調理工程をシンプルにしながらも、パプリカにしっかり火を入れて甘みと旨みを十分に引き出すことができます
そしてもう一つはパプリカの皮を簡単にむくことができる加熱方法だからです
オーブンを170度に設定して30分間火を入れます。
2:ミニトマトの下処理
パプリカに火を入れている間にトマトの下処理をします。
ミニトマトは軽く表面を水洗いしておきます
キッチンペーパーを使って表面の水気を取り除きます。
糖度が高く、そのまま食べてもおいしいミニトマトですが、今回の赤ピーマンのムースの料理では、引き立て役として徹してもらえます。
ミニトマトはカットせずにそのまま丸ごとミキサーの中に。
塩の量はトマトの総量に対して1%入れます。
香り付けにタイムの葉っぱも少しいれましたが、タイム以外にもミントやオレガノなどを代わりに入れても相性が良いのでお勧めです。
すべての材料入れてミキサーをまわします。
しっかりミキサーで回したミニトマトは、キッチンペーパーをかましたザルの上に移します。
こすることでトマトの余分な、透明な水分のトマト水と濃厚で濃度のある真っ赤なトマトのピューレ分けることができます。
このまま2時間ほど冷蔵庫でトマトの水分を切ります。(本来は、1日ほど冷蔵庫内でトマトの水分をしっかり切りますが、時間短縮のため最低限の時間で水分を切りました)
3:パプリカをピューレにする
オーブンから取り出したパプリカは15分ほど室温におき、アルミホイルの中でパプリカを蒸らしておきます。
アルミホイルを取った後もパプリカは熱いので、火傷には充分気をつけてください。
パプリカの片面のみに包丁入れて中を開き、ヘタと種を取り除きます。
中にはパプリカからにじみ出てきた、パプリカの水分が詰まっています。
この水分にもパプリカの香りや甘みが詰まっているので、こぼさないようにしっかり回収します。
パプリカの水分を回収して他にもある程度取り除いたら裏返してパプリカの皮を剥きます。
皮は自然とめくれ上がっているので、簡単に取り除くことができます。
パプリカの皮はついたままでも、ピューレにした後に最終的には裏ごすので、つぎの調理工程に進むことができるのですが、裏ごす前にあらかじめ皮むいておけば、たくさん作るときに裏漉す工程をスムーズに行うことができるます。
オリーブオイルを入れた鍋に先ほど皮むいたパプリカと、パプリカの水分を入れます。
パプリカ自体にはすでに火が入り、旨味も甘みも引き出されています。
そのため次の工程で行う調理工程は、パプリカの水分をさらに煮詰めて旨味と甘みを凝縮する工程のみです。
中火で15分ほど水分を煮詰めます。
水分を煮詰めたパプリカをミキサーに入れます
パプリカが熱いうちに塩を加えて、あらかじめふやかした板ゼラチンも入れたらなめらかになるまでピューレ状にします。
しっかり皮を向いても筋とかが残っているのでなめらかに仕上げるために裏漉します。今回は赤パプリカを使っていますが黄色のパプリカでも同じレシピでムースを作ることができます。
滑らかになったパプリカのピューレは氷水に当ててしっかり冷やします。
4:トマトピューレを裏濾す
赤パプリカのピューレを冷やしている間に、トマトピューレを裏漉します。
トマト水は1番最後に仕上げるので、ひとまず冷蔵庫にしまっておきます
ミニトマトのピューレはたねや皮を取り除くために裏漉してなめらかにします。
このようにピューレ状になった果物や野菜から、余分の水分を取り除いた濃度のあるピューレをフランス料理ではクーリ(Coulis)と呼びます。
5:生クリームを泡立てる
生クリームはフランスでは乳脂肪分35%の生クリームを購入することができないので、紹介するレシピでは脂肪分乳脂肪分30%の生クリームを使用しています。
皆さんは乳脂肪分35%の生クリームを使用して8分だってぐらいまで泡立ててください。
僕が準備したホイップクリーム、8分立てまで固めに立てられないため、7分立てです。
6:パプリカムースを仕上げる
出来上がったホイップクリームを赤パプリカのピューレと合わせます。
しっかり冷えて少し固まった赤ピーマンのムースに泡立てたクリームを2回から3回に分けてしっかり混ぜ合わせます
赤パプリカのムースは前菜料理として提供する料理なので2、口から3口で食べられるように盛り付けるのがベストです。
容器に入れる際は約60gから70gが適量だと思います。
透明な器に盛り付ければ、涼しさも演出できますし、良い状態を保ったまま5日間は冷蔵庫で保存することができます。
底を軽く叩いてムースの表面を平らにしたら30分ほど冷蔵庫にいれて冷やし固めます。
7:トマト水を仕上げる
トマト水の仕上げに取り掛かります。
トマト水は100gにつき1gの板ゼラチンを加えてトマトのジュレをつくります
一度沸かしたトマト水にふやかしたゼラチンを加えてしっかり混ぜますが、ここで泡立てすぎると、空気が液体内に入りきれいなジュレができないので気をつけてください。
常温、もしくは冷水で冷ましたトマト水は冷やし固まった赤パプリカのムースの表面に薄くかけます。
トマト水は熱すぎるとムースが溶けてしまいますし、冷たすぎると固まってしまうので温度で言うと、20度前後で作業するのがベストです。
平たいお皿には、薄くトマト水を広げて、もう一つの違う盛り付け方で、仕上げます。
冷蔵庫に30分から40分入れてトマト水を冷やし固めます。
8:盛り付け
インパクトがあるトマト水のジュレは、たくさんかけすぎると赤パプリカのムースの特徴が隠れてしまうので、厚みで言うと5㍉位がベストです。
タイム風味のトマトクーリを少量加えます。
湯むきして4等分にしたミニトマトを飾り最後はお好みのハーブを添えたら完成です。
お皿の盛り付けも同様に、冷やし固めたジュレの上にほんの少しトマトクーリを。
最後は赤パプリカのムースを、熱湯で軽く温めたスプーンを使ってきれいにくりぬきハーブも飾れば完成です。
冷たい赤パプリカのムースは、軽い口当たりに口どけもなめらか。クリームのコクと共にパプリカの甘味・と風味が一瞬で口いっぱいに広がっています。
一緒に味わうトマトクーリとトマト水のジュレはムースの旨味を引き立ててくれると同時に、心地よい酸味がクセになります。
簡単で自宅でも味わえる三ツ星の味。是非こちらのレシピを参考に王道の赤パプリカのムースを再現してみてください。
それではまた、次回料理でお会いしましょう!!
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