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『GOHOME〜警視庁身元不明人相談室〜』感想文


1.はじめに

『GOHOME〜警視庁身元不明人相談室〜』。7月期日テレ土ドラ9にて、毎週土曜21:00から放送された、ミステリーヒューマンドラマである。「警視庁に実在する身元不明人相談室という部署をモデルに描かれた、ありそうでなかったミステリー×ヒューマンドラマ」をテーマに綴られたこのドラマは、人と人の感情を繊細かつ丁寧に描いた、コメディ調ながらにしてほろっと涙を流させてくれる素敵なドラマだった。
身元がわからない『名もない誰か』になってしまったご遺体を家に帰すため、明朗快活で無鉄砲な三田桜と、冷静沈着姉御肌の月本真のバディが真相に挑む。歳の差同期の女性バディは、言いたいことを言い合える素直な関係性で、お互いにお互いを信頼している名コンビだった。

2.キャラクター(公式サイトより引用)

三田桜(演:小芝風花)……明るくコミュ力高めの25歳。亡くなった身元不明者を家族や恋人の元に帰すため、上司が止めるのも聞かず突っ走る。趣味は美味しいものを食べること。天真爛漫に見えて、実は意外な過去を持つ。

月本真(演:大島優子)……三田桜と同期入庁で10歳年上。クールで冷静沈着。性格も趣味もまるで正反対の桜とバディを組んで奔走する。週刊誌の記者だった真が、この部署を志願した背景には、ある哀しい過去があった。

手嶋淳之介(演:阿部亮平)……将来を嘱望されている優秀な刑事。身元不明人相談室の室長・利根川の元部下で、捜査一課と身元不明人相談室の橋渡し役を務める。密かに月本真に想いを寄せている。

堀口尚文(演:戸次重幸)……あるミスがきっかけで公安部から身元不明人相談室に異動してきた中堅捜査官。ハッキリ言って今の仕事には全くやる気がないが、桜や真の姿に影響されていく。

武藤晴夫(演:半海一晃)……ベテラン似顔絵捜査官。このまま何事もなく定年を迎えることが1番の望み。最近初孫が生まれて、ますます仕事どころではない様子。

利根川譲治(演:吉田鋼太郎)……かつては優秀な捜査一課の刑事で、次期一課長とも言われていた逸材。ある出来事がきっかけで異動、身元不明人相談の室長となった。一見、昼行灯のように見えるが、実はキレモノという噂も。

早瀬郁美(演:高島礼子)……歯に衣着せぬ物言いで相手をやり込め喜びを得るドSな科捜研の所長。いざ頼られると母性をくすぐられて、 守ってあげたくなる優しい一面も。利根川室長とは同期のクセ者同士、昔からの腐れ縁である。

芹沢菜津(演:柳美稀)……桜と真と同期入庁の科捜研・若手エリート研究員。負けず嫌いな性格もあり、仕事への考え方が違う桜とは、しばしばぶつかるが、同年代の女子同士、時には共感することも。

3.コンビ

『GOHOME〜警視庁身元不明人相談室〜』、このドラマ、とにかく「人と人の感情」の描き方が良かった。軽いタッチで観やすいけれど、その中には幾重にも絡まりあった深く緻密な感情が入り交じっている。
それは主人公サイドの主要人物たちはもちろん、各話ゲストにおいてもそうだった。今回は特にお気に入りのコンビを列挙して、語っていこうと思う。


・さくまこ(三田桜・月本真)

いやこのコンビは語るしかないよね〜! 天真爛漫で猪突猛進タイプな桜、冷静沈着に見えて案外情に厚い真。ふたりは感情が迷子になるとキックボクシングで文字通り拳を交わす。言葉にできないことも拳をぶつけ合えば、雑念が取っ払われて、まっすぐ標的に向かうことができる。
そんなどこか脳筋なふたりは、似ていないようで似た者同士のコンビだ。それでいて、寄り添うことを忘れない。

たとえば第4話。茨城でのバイク単独事故の行旅死亡人を機に、真は辛い過去に向き合うことになる。行旅死亡人の葉山聡が持っていたお守りが、真の恋人にして未だ行方不明の小田切慎一(演:福田悠太)が持っていたものと同じだったからだ。
「言いたくないならいいから」と言う桜に、真は重い口を開く。そして慎一とお揃いで持っていたお守りを取り出したのだった。「慎一さんのこと、もう忘れようって昨日叫んだの。そしたら、よりによって今日。あのお守り、慎一さんと一緒に福島で買ったの。」
ここまで話して、真は桜に言う。「聞きたい? 彼のこと。」「話したいんでしょ? 聞いてあげる。」個人的にこのからかうようなバディ感溢れる会話が大好きだ。桜は真が『今桜に話したい』ことがわかったからこそ、からかうように空気を作ったのだろう。

真は出版社勤務時代、同業の慎一と交際し、婚約まで結んでいた。彼は責任感が強く真面目だった。だが自分の書いた記事で人を傷付けてしまったことをきっかけに、「もう誰の力にもなれない。誰も幸せにできない」と心が壊れてしまい、仕事を辞め、故郷の福島へ帰ってしまう。「自信がないんだ。俺はもう、誰の力にも慣れない。誰も幸せにできない。」
真は慎一を勇気づけようとしていたが、そのタイミングで福島を東日本大震災が襲う。「あの時から、私は止まったまま。彼が生きてるのか死んでるのかもわからない。」もう会えないってわかってるけど、でもどこかでもしかしたらって、どうしても前に進めなくて。
「いいんじゃないかな、無理に進まなくたって。」桜は言葉をかけるが、その言葉が逆に真を傷付けた。「もう期待したくない、傷付きたくない」と言う真に無粋なことを言ってしまったからと謝り、「話してくれたお礼に、私のことも打ち明けちゃおうかな」と笑う。桜も桜で、言えない過去があり、真に過去を言わせてしまったのならと腹を括るのだ。だがそのタイミングで、真は寝てしまう。これが寝たふりだったのか本当に寝たのかはわからないけれど、このふたりの思い合い方が素敵だと思った。
桜も言えない過去があるからこそ、真の触れられたくない傷に触れたことに責任を取ろうとした。真は真で、桜の傷がまだ言えるほどには癒えていないことがわかっているから、言わなくていいようにした。現に桜は真の寝顔を見て、安心したように息を吐いていた。
そして「傷付きたくない」と、事の進退を拒む真に対し、桜は聡の身辺を探ることで慎一の手がかりを探し出す。結果、ことは大きくなってしまい、聡の件は事件として捜査一課が受け持つことになる。身元不明人相談室が出る幕はなくなり、尚も猪突猛進に事件を追おうとする桜は真にもたしなめられる。
だが、身元不明人相談室のみんなは、桜がそこまで肩入れする理由を、わかっていた。「桜とは違いますから。あの子は亡くなった方への思いが強すぎます。」いつものことだと平静を装う真に対し、室長である利根川は言った。「もっと大事なもののために、無茶なこと言ってんじゃないか? 」
そこでジムだ。桜はなにもできない不甲斐なさを、スパーリングで汗を流すことで払拭しようと、トレーナーに何度も拳を打ち付けた。「頑張れ……負けんな……負けんな、まこっちゃん! 」桜がそこまで聡の件にこだわるのは、他ならぬ真のためでもあったのだ。いや、むしろ、真のことがあったから。真はその姿を、リングの外から眺めていた。
そしてその思いに、突き動かされるのだ。「筋を通さないと、理由がないと葉山聡さんの調査継続の許可を出せない」と言う利根川に対し、桜はは下手な言い訳を重ねる。だがもちろんそれでは身元不明人相談室としては動けない。
そこへ翌日、真は室長である利根川に行方不明届を提出する。「行旅死亡人リストとの照合をお願いします。氏名は小田切慎一。私の婚約者です。葉山聡さんと何らかの関係があったのかもしれません。なのでこの相談室に、正式に調査を依頼します。どうか、皆さんの力を貸してください! 」真が、傷に向き合った瞬間だった。そして桜は一緒に相談室の皆に、頭を下げた。

真が本腰を入れて慎一を探し出すということは、慎一の生死を明らかにするということだ。それは「どこかで元気に生きているかもしれない」という小さな希望も打ち砕くことになるかもしれない。それでも真は立ち上がったのだ。自分のためにがむしゃらになる桜を見て、真実に立ち向かい、自分の傷に向き合う覚悟を持ったのだ。
ここで良いのは、相談室のみんなが、真が動き出すより早く真のために動き出していたことだよね。堀口さんも晴さんも相談室メンバー全員が動き出し、聡の所持品から事故直前に利用していたホテルを特定。その防犯カメラから、聡の事故の真相は読み解かれていく。最終的には捜査一課のメンバーも動き出し、手嶋も一役買った。
聡の両親が抱えていた、聡への不信感も消え、真相も解明。でも結局慎一のことはわからずじまい。それでも幾分か晴れやかな表情になった真は、桜に震災直後の話をする。震災の後、慎一を捜して途方に暮れながらも被災地を毎日歩き回っていたとき、自分と同じように大切な人を捜している家族に出会ったこと。その家族が捜していたご遺体を真が見つけたこと。それがきっかけで今に至ること。
「大切な人の死を目の当たりにして、とてもつらかったと思う。それでもそのご家族は、私に『ありがとう』って……『見つかってよかった、お帰り』って……。みんな優しい顔になってた。だから私、この仕事をしてるの。今の私があるのは、慎一さんのおかげ。」それからぽつりと、真は言った。
「死んだ人が見えるって言うあんたみたいに、私も会いたいな、彼に。」真はもう、諦めている。もう二度と慎一には会えない。お別れも言えなかったことに、人生を諦めていた恋人をそのまま死に別れてしまったことに、後悔していた。
そんな真に、手嶋から思いがけない知らせが届く。聡のパソコンのファイルの中から震災直後の動画が見つかったというのだ。「ひとりの男性が、被災者を助ける様子が映っています。」
真は震えながらも桜の手を握り、お守りを大事そうに見つめ、「見せてください。」現実に立ち向かった。桜がいたからこそできた決断だった。そしてその映像には、津波が押し寄せようとする中、逃げ遅れた老人を避難させようとする男性が映っていた。男性は老人を高台に誘導すると、また別の人を助けるために住宅街へと戻っていってその人を背負い、とうとう津波が押し寄せて……真は映像を拡大した。そこに映っているのは確かに慎一で、真の頬を涙が伝った。
当時、聡と一緒にその場にいた大地は言ったらしい。「小田切慎一さんは、当時まだ小学生で、動けずに泣いていた聡にお守りを渡して励ましていたそうです。」『俺の一番大切なお守りだ。後でちゃんと返してもらうからな。それまで頑張れ!』福島で真と一緒に買ったお守りを、慎一はそう言って聡に預けた。
「慎一さん、生きようとしてたんだね。」桜の言葉をきっかけに、真の13年間逃げていた傷が、感情の蓋も開き、声を上げて泣いた。そんな真の肩を優しく抱くのが、桜だった。

ここで流れるのが、ヨルシカが担当する主題歌『忘れてください』。「僕に心を 君に花束を 揺れる髪だけ 靡くままにして」。
この曲、亡くなった人と生きていく人の言葉が錯綜している曲だと思う。現にこの後、真は海に向かって花束を手向ける。
そして手を合わせ、静かに目を閉じる。その横顔を、慎一が優しく見つめており、真もその優しさに気付いたのだった。「おかえり。」
『忘れてください』。これは亡くなった人から生きていく人への言葉で、でも「忘れられないよ、忘れたくないよ」というアンサーもあると思う。実際ドラマ公式SNSには、主演小芝風花さんのアンサーリーディングもあがっており、そのタイトルは『忘れないでください』になっている。

「僕に心をくれた君へ、やっと花束を渡せるよ。」歌詞の冒頭だけでも、真から慎一の想いはこの歌にあてはめられる。

その後、真への対応にそわそわする相談室のみんなをよそに、桜だけは普通に普段通り口喧嘩していた。そこで真は桜に言う。「(いなくなった)彼がいたような気がしただけ。」
そして桜に、慎一のお守りを渡すのだ。「同じのふたつ持っててもしょうがないから、あんたにあげる。」
お、お揃いのお守り〜! しかも婚約者との別れを乗り越えた上で、婚約者のものをあげるこのバディ感たるや! これをめちゃデカ感情と言わずしてなんと言うのか。
桜も桜で、まんざらでもない表情を浮かべ、お守りを大事そうに受け取る。第4話にして、彼女たちはまた友情を深めたのだった。


『忘れてください』の歌詞は、桜にもあてはまるところがある。
「一つ一つ数えてみて あなた自身の人生のあなたが愛したいものを ……なにもないのかい? 」

桜の過去は、第5話で語られる。
第5話の行旅死亡人は、都内の商店街で倒れて亡くなった中年女性。彼女の身元を調べていくうちに、彼女の名前は高倉桐子、医大を卒業した紀子という娘がいることがわかる。だが桜と真が高倉家を訪れたとき、紀子は自殺未遂を図っていた。
紀子は一命を取り留めたものの、医大卒は桐子がSNSなどでついていた嘘で、紀子はこの7年間、医学部を受験し続け、落ち続けていた。それにもかかわらず、桐子は近所の人にも「娘は医大に通っている」と嘘をつき、夫とも5年前に離婚。桜は、母親のエゴが紀子を追い詰めたに違いないと決めつけ、亡くなった桐子を「最低な母親」と非難する。桜にしては珍しいその言動に、真は桜の過去を気にするようになる。
そんなふたりがいつものように桜の部屋でおしゃべりをしていると、桜の母、葉月が突如来訪してくる。「今友だちが来ているの。帰って。」母に対して冷たく突き放す桜を見て、真は気を利かせ、帰ろうとする。が、そんな真の手を掴み、桜は縋るのだった。「いいから……いて。」
このときはまだ桜の過去はわからないけれど、わからないからこそ桜が頼り、縋るのが実母ではなくバディの真だというのがわかって良いんだよ……! 普段は根拠もないのに自信たっぷりの笑顔を見せる桜が、真に縋るような目で力なく手を掴む。真もそのただならぬ様子から、桜を気にかける。でも無闇に過去のことを訊きはしない。これが良い……!
結局、葉月はそのまま帰ったが、桜の携帯には葉月から『また一緒に暮らしたい』という旨の連絡が来ていた。
紀子の1件に関しては、桜はいつも以上に感情を露出させていた。自殺しようとした紀子を強い口調で咎め、それでいて7年間も医大を受験させ続けた桐子を非難し、一方で冷たい反応を見せる別れた父親に対しては「1番苦しい思いをしたのは娘さんです。助けてあげようと思わなかったんですか?」と食ってかかる。
紀子に感情移入しすぎているのではないか。そう感じた真は、桜ではなく利根川に訊くのだ。「室長は何かご存じなんですか?桜とお母さんに何があったのか。」
これが真の思い方なんだよ……! 「話したいんでしょ、聞いてあげる」とからかうようにして話しやすい空気をつくる桜、桜当人が話せる状態じゃないけどバディとして知っておいた方がいいと判断したから利根川に訊く真。思い方はまったく逆だけど、お互いにお互いの過去を思っている、このとんでもめちゃデカ感情が本当に美しい。
利根川の話では、幼い頃に実父を亡くした桜は、小学生の頃実母が再婚したことにより、大きく人生が変わっていったという。新しい父と母の間には妹も生まれ、桜も妹を可愛がっていたが、次第に父の愛情が妹にのみ向けられるようになる。それだけじゃなく、実母の葉月までもが父の顔色を窺い、桜から離れるようになったのだ。孤独感に苛まれた桜は、何も知らずに幸せそうに眠る妹の口をふさいでその命を……。我に返った桜は自分が恐ろしくなり、家を飛び出てそのまま命を絶とうと歩道橋から飛び降りようとする。間一髪のところで通りかかった人に救われたが、その人が急病で倒れ、帰らぬ人となってしまう。そして桜の心には深い傷が残ったまま。そのときの事情聴取をしたのが利根川だという。
そしてそれ以来、桜は死を選ぶ人の痛みが理解できてしまうようになり、同時に母と向き合えなくなってしまった。
結局、物語は『桐子も紀子を想っていた』という場所へ着地する。元ネタに滋賀医科大学生母親殺害事件を思わせることもあり、毒親育ちとしてはしんどくて、諸事情でリアタイで観られなかったけれどSNSのフォロワーさんの助力もあってなんとか観られた。それはきっと、冷たいことを言うようだけれど『桐子が亡くなっていたから』。
いくら桐子が紀子と向き合おうとしたと言っても、7年間教育虐待し続けた事実は変わらないし、紀子が母への復讐に取り憑かれたのは依存だけではなく恨みもあった。でも紀子がこれからも生きていくには、最後にちらりと見せられた愛にすがりついて生きるのが1番幸せで、でもだからと言って「全部愛だったんだよ」とは言えない。
毒親虐待あるあるは、『ひとつの事象だけ見れば愛だったけど、全体的に見れば虐待だった』ってこと。そして虐待児はひとつひとつの事象から『全部が愛だった』と思い込んで虐待を否定してしまう。虐待から離れられたならその考えは肯定できるけれど、離れられない人は桜と真の展開の方が救われたと思う。
そう、救われたのだ、少なくとも、私は。
「あなたは見捨てられてなんかいない。それだけは信じてあげて。」そう紀子に言った桜は、葉月ともう一度向き合う決心をする。その一方で、真は手嶋くんから食事に誘われながらも、「ごめん」と断っていた。
桜は葉月を家に呼び、向かい合って食事をする。最初は他愛もないおしゃべりを楽しんでおり、桜の表情も明るかったが、葉月のとあるひと言でその表情が曇る。「一葉(桜の妹)が高校に入ったら家を出て桜と一緒に住みたいって言っているんだけどね、そうなったら、お父さんが寂しがるでしょ。」結局この人は父の顔色を見て、父の機嫌を取りたいから桜に寄り添うふりをしただけなのだ。『お父さんが寂しがる』から『一葉を家から出したくない』、だから『桜が家に戻ってくるよう打診する』。そこに『桜も生きづらかっただろうから環境を改善しよう』なんて考えは1ミリもなく、それどころか『桜が家を出て行ったことに深い意味なんてない』とすら思っているんだろう。
それなのに、再婚したのも桜に会いに来たのも、全部桜のためだというような態度を取る葉月に対し、遂に桜にも我慢の限界が来て『妹に手をかけたこと、そんな自分が怖くて自殺しようとしたこと』を告白する。
「いい加減にしなさい! 」だが葉月が、そんな桜に寄り添うことはなかった。「お母さん困らせて、なにが面白いの!? 」それどころか逆上してみせた葉月に、桜の心はぽきりと折れた。「もうこれ以上、嫌いになりたくないから……お願い、帰って。」

毒親育ちとしては、この辺の描き方がリアルというか解像度が高いなと思った。決死の告白に対し、毒親は寄り添うなんてことはしない。自分の意思に反することで楽しんでるのだと勝手に思い込み、逆上する。子どもが自分とは違う人間ではなく、自分の付属物だと思っているからこそ、自分が思いもよらなかった行動をしているのが耐えられないのだ。むしろ子どもがそういう行動をしたのは、「自分に構ってほしいからこその嘘」だと決めつけている。葉月も葉月で、桜が思い通りにならないことが歯がゆいのだろうが、個人的には完全に桜に肩入れしてしまった。

「やっぱりダメだった。」でも、桜には頼る相手がいた。部屋にひとりになった桜は、真に短くメッセージを送る。するとすぐに部屋のインターホンが鳴った。真だった。
「よくがんばった。」真は泣き崩れる桜を抱き締め、静かに言った。なにも聞かなかった。ただ寄り添って、気持ちを推し量ることもせず、ただ抱き締め、褒め、桜を肯定した。真が手嶋くんの誘いを断ったのは、いざというとき桜にすぐ駆け寄るためだったのだった。

親は、人それぞれ違う。人と人だから、親と子でもパズルのように合う合わないがある。でも子どもは生まれたときから無条件に親のことが大好きで、親に縋っていて、親に肯定してほしいのだ。突き詰めればただそれだけで、だからこそ桜は、最期の一瞬だけでも紀子を肯定してくれた桐子という親子が羨ましかった。
「あなたは見捨てられてなんかいない。それだけは信じてあげて。」だからこそ、紀子にそんな言葉を渡した。そして自分も見捨てられていないんじゃないか、母葉月が父よりも自分を思ってくれていて、少しはこちらの感情を推し量ろうと寄り添ってくれて、肯定してくれるんじゃないか。そう感じ、行動した。でも打ち砕かれた。
でも桜には真がいた。短い言葉でも縋らせてくれると思える真がいた。真も桜の短いメッセージですぐさま駆け寄り、褒めて肯定するだけでなにも聞かなかった。それは桜が母にしてほしかったことかもしれないけれど、真がいなかったら桜はまた孤独の闇に押し込まれて、もしかしたらまた自死の道を選ぼうとしてしまったかもしれない。
真が桜を信頼して縋るように、大切なお守りを渡したように、桜もまた真がいたことでなんとか生きる道を選べたのだ。
これが愛じゃなければなんと呼ぶのは、私は知らない。


・富田夫婦(第1話)

ここからは各話のゲストのコンビになる。
「あなたは誰?必ず家に帰してあげるからね。」桜は、誰も行きたがらない“名もなき遺体”の身元を特定し、家族のもとに帰すことが仕事の『警視庁身元不明人相談室』に自ら志願して配属された変わり者だ。性格もまるで正反対で年齢も10歳異なるバディ、月本真とは、顔を合わせれば言い合いばかりだが、『一人でも多くの身元不明者を家族のもとに帰してあげたい』という気持ちは一緒。だがそんなふたりとは裏腹に、他の相談室のメンバー、室長の利根川や堀口、武藤は仕事に対してどこか無気力だった。
そんなある日、珍しく捜査一課の若きエース手嶋くんと、同じく科捜研のエースである菜津が相談室へ依頼に来る。なんと、捜査一課の事件捜査で発見された、都内の中学校にあった人体骨格模型が本物の人骨だったのだ。鑑定の結果、その白骨は約1年前に亡くなった人のもので、殺人の可能性もあるという。
このときの手嶋くんがスン顔のわんこでかわいいんだよな〜! 「こんな掃き溜めに……」って口に出しちゃうし、捜査一課のエースだからこそ「なんで俺がこんなところに来てまで捜査依頼しなきゃいけないんだよ」感が滲み出ている。お前……この顔覚えておけよ……? たった数ヶ月でお腹見せるタイプのしっぽフリフリわんちゃんになるからな……?
が、たしかに手嶋淳之介はエースである。中学校の理科教師(西川)に、遺体を標本にするため薬品で白骨化させたことを認めさせたのだから。標本マニアの西川は、動物の死骸を探すために入った山中で、見ず知らずの男性が崖から飛び降りるところを目撃。人間の標本を作る絶好のチャンスと見て、その遺体を持ち帰ったが「殺してはいない」と主張していた。
桜と真は科捜研の協力も得ながら、何とか白骨遺体の身元を突き詰めることに成功。彼はプロバスケットボール選手の富田純也。桜たちは純也の妻に遺骨の引き取りをお願いしに行くが、引き取りを拒否される。
純也の妻、聡美は頑なに言う。「違います、夫じゃありません」。なかなか首を縦に振らない聡美を、利根川は「よくあることだ」と息を吐いた。家族の死を認めたがらず、それ故に遺骨の引き取りを拒否されるのは珍しいことじゃあない、と。
「最初から俺たちは望まれてないんだよ。大切な人の死を告げて、わずかな希望を断ち切る……疫病神だ。
ここはそういう連中が集まる掃きだめなんだよ。」そう言って桜と真に「これ以上何もするな。遺骨を引き取って納骨の準備をしろ」と釘を刺す利根川に対し、もちろん桜は溜飲を下げることなんかできなかった。
「じゃあ、富田純也さんはどこに帰ればいいんですか?」利根川たちが止めるのも聞かずに聡美のもとへ訪れる桜と真に対し、聡美も心を開いていく。「彼がいなくなったのは、私のせいなんです。」聞くに、聡美は純也に対して罪悪感を覚えているらしかった。
選手として将来を期待されていた純也は日本代表入りが内定していたものの、合宿直前のある日、階段で足を踏み外した聡美をかばって腕を骨折。それ以降、思うようにプレーができなくなってしまったという。「私が彼の夢を奪ってしまったんです。もし彼が自殺したなら、私が殺したようなもの。私のところになんか帰りたくないはずです。」
そう自分を責める聡美のため、桜と真は「本当に純也が自殺したのか」解明するため、捜査一課の手嶋に頼んで拘留中の西川を問い詰める機会を得る。……そう、スン顔でプライドの高い手嶋くんも、想い人の真さんには弱いのです。かわいいね。
だが西川は、そこで桜に「あいつは間違いなく自分から飛び降りた。死にたいヤツは死なせてやったほうがいい」と言ってのける。自分の欲求を優先して純也を見殺しにした西川に、桜は声を荒らげる。「あんたが一言でもいいから声を掛けていたら、彼も、踏みとどまれたかもしれないのに!」桜の心には、過去の自分がいたのだ。このときにはまだ語られていないが、自殺しようとしたとき必死に救ってくれた人がいたからこそ、今生きている自分と、純也を重ねていたのだ。
純也を家に帰してあげたい。聡美の止まった時間を動かしてあげたい。桜と真の思いは一緒だった。その思いが相談室のメンバーをつき動かし、現場にて純也が落としたスマホが発見される。そしてそこから純也の思いがわかり……。
純也が最期に撮ったのは、雑誌でもパワースポットとして紹介されていた現場からの夕日だった。純也は自殺したんじゃない。このきれいな夕日から、もう一度生きる力をもらおうとしていたのだ。しかし不運にも足を滑らせて転落してしまった……。
その事実を知った聡美は、嗚咽しながら声をこぼす。「バスケットボールに似ていたから、手を伸ばしちゃったのかな。」彼に会わせてください。

もう……号泣である。第1話から一気に引き込まれた。純也を演じた浅利陽介さんも、聡美を演じた仁村紗和さんも最高で、もう会えない人や届かないものに手を伸ばす姿が美しく、でもやるせなくて切なかった。
生きて戻ってほしかったであろう聡美のことを思い、これでよかったのかと思い悩む桜に対し、真は「私は良かったと思ってる。これで彼女は前に進めるんだから」と背中を押した。
そう、だからこそ真は4話で前に進めたのだ。諦めよう、忘れようと必死に慎一のことを頭から追い出そうとしていた真が、桜のがむしゃらなまっすぐさのおかげで前に進めた。慎一に「おかえり」と言えた。彼女たちが実際にそれを口に出して伝えることはないけれど、視聴者だけは知っているのである。


・キイちゃんとハルピ(第6話)

第6話の行旅死亡人が、キイちゃんと呼ばれる、いわゆるトー横キッズだった。彼女は雑居ビルの屋上から飛び降り、命を絶った。本名もなにもわからない彼女の身元を探すうち、彼女と特に仲が良かった「ハルピ」と呼ばれる少女と出会うことになる。彼女は自分の容姿に自信がなく、常にマスクをしていた。だがそんなハルピに得意のメイク術をほどこし、背中を押していたのがキイちゃんだった。
「キイちゃんは家になんか帰りたくないよ、絶対に。」第6話は、「『GOHOME』が示す『帰る家』は果たしてどこなのか」というテーマでもあった。キイちゃんはあまり深く自分のことを語ることはなかったが、家に不満があるようだった。
そして桜と真がキイちゃんの身元を調べていくうち、彼女の故郷がわかる。ハルピはキイちゃんの身元調査に自分も連れて行ってほしいと頼むが、もちろん一般市民を捜査に巻き込むわけにはいかない。結局、『たまたま旅行に来て鉢合わせた』という体で、桜とハルピは一緒に聞き取り調査を進めるが、やっぱりハルピは頑なにマスクを外そうとしなかった。
間もなくしてキイちゃんの実家がわかり、ハルピと桜はふたりで家を訪れるが、キイちゃんの死に肩を落とす実母に対し、再婚相手は「娘じゃねぇし」と遺骨の引取りを拒否。かと思えばキイちゃんの遺品に現金15万円が入っていると知るやいなや、「やっぱり引き取る」と手のひらを返す。
「あんなやつんトコに、キイちゃん、帰したくない! 」番組は再婚相手を『毒親』と言っていたが、毒親育ちからしたらあんなの親ですらない。メイクアップアーティストになりたかったキイちゃんが、メイクのバイトでこつこつと貯めたお金を、パパ活だなんだと色眼鏡で見た上にそのお金目当てで遺骨を受け取るなんて、それがキイちゃんの帰りたい家なのか? でも両親が引き取ると言っている以上、桜とハルピにそれを拒否する権利はない。
その夜、ハルピと桜はキャンプ場で一夜を過ごす。人生で初めてのキャンプに喜ぶハルピは、高校生のときトー横で遊んでいただけでパパ活していると学校で噂され、それ以来学校にも家にも居場所がなくなってしまったのだと桜に打ち明ける。ハルピと一緒に居てくれたのは、キイちゃんだけだった。
「推しが死んじゃったからだと思う。」ハルピは言う。「キイちゃんが死を選んじゃったのは、好きだったアニメのキャラクターが物語の中で死んだから。……それなのに、それがわかってたのに私、ウザがられると思って、私、キイちゃんに言えなかった。『推しがいなくなっても、私がそばにいるから』って。」
そう自分を責めるハルピを、桜は精一杯慰めた。「それだけあなたがキイちゃんのことを大切に思っていたからだよ。あなたにとっての推しは、キイちゃんだったんだね。」推しがいなくなっても、あなたはいなくならないでね。生きていれば、また必ず推しに巡り会えるから。
そう言う桜の脳裏には、真がいた。桜は生きていたから、真という推しに巡り会えたのだ。そして彼女の人生は色付いたのだ。
キイちゃんも、ハルピを思っていた。その証拠に、彼女のスマホにはマスクを外したハルピの写真がたくさん残っていた。キイちゃんが死ぬ前、ハルピにスマホを託したのは、自分に自信を持ってほしかったからだろう。
推しが死んだから死ぬなんて、と思う人はきっといるだろう。でも私は少し、わかる気がした。死が近くにある人にとって、死は簡単に選択肢のひとつになってしまう。日常的に暴力を振るわれると、ちょっとずつ思考が死に寄っていく。推しが死んだことでキイちゃんが自殺を選んだのは、そういう蓄積もあったと思う。
実際この後、キイちゃんは母の再婚相手によってDVを受けていたことが判明する。だから家を出た。でも心の傷は癒しきれなかった。
結局、桜とハルピはキイちゃんの両親に15万円を渡すことで、遺骨の引き取りを諦めてもらうように頼む。すると再婚相手はあっさりと受け入れ、キイちゃんを「かわいそう」と雑に哀れんでみせた。その瞬間、ハルピは初めてマスクを外して怒鳴る。「キイちゃんはかわいそうなんかじゃない!あんたにDVされて、家を出るしかなかったんじゃないか!」
母も知らないところで、キイちゃんは暴力を受けていた。無数のアザもあって、ハルピはそれに気付いていた。「それでも、キイちゃんはかわいそうなんかじゃなかったよ。大好きな推しと一緒に死んだんだから。……あんたと一緒に死んでくれる人がいる!?あんたが死んで、泣いてくれる人がいる!?少なくともキイちゃんには、そういう仲間がいたよ。あんたなんかよりキイちゃんの方が、よっぽど幸せだったんだから!」ハルピの怒りは剥き出しで青くてまっすぐで、だからこそ桜もそれを後押しした。「正直申し上げて、紗季さん(キイちゃん)が心から安らげる場所は、ここではないと思います。紗季さんのご遺骨は、こちらで引き取らせてください。

こんな選択があるんだ、と思った。『GOHOME』というタイトルだから、身元不明人相談室のみんなは「遺骨を家に帰すこと」。そして「家とは家族がいる場所」に他ならない。そう考えられても仕方がないと、私はどこかで思っていたんだ。
でも桜は言う。「心から安らげる場所に帰してあげたい」。彼女は猪突猛進だし、真に対して時代錯誤な年齢いじりをすることもあるけれど、やはり眩しい。フジテレビでやっていた『大奥』のときにも感じたけれど、私はやっぱり小芝風花さんの演じる「圧倒的太陽属性」に弱い。その清らかでまっすぐな眩さにひれ伏し、心を奪われてしまう。そんな力が、彼女にはある。
そんな桜に、ハルピは最後、自分の名前を名乗った。そして桜を推しだと言い、キイちゃんの想いを背負って、晴れやかな笑顔で生きていくのだった。


・千明と真由美(第7話)

第7話の行旅死亡人の遺留品は、1匹の柴犬だった。いわば遺留品ではなく、遺留犬。都内の路上で遺体となって発見された女性の飼い犬と思われており、彼女自身犬の散歩中に息を引き取ったため事件性はないと考えられていたから身元不明人相談室担当となったのであった。
女性の左手薬指には指輪が嵌められており、犬の首輪には『MAKOTO』と記名されていた。ここの手嶋くんもかわいいんだよ〜! 犬の名前が『マコト』だとわかるやいなや「そういうことなら僕も協力します! 」と目の色を変えてやる気になる。……そういうことなら? こういうちょっとズレた天然気質なところも、手嶋くんの良いところである。

それらのことから少しずつ彼女の身元を捜査していくものの、中々判明には至らない。そうこうしているうちに、柴犬マコトが保健所行きになるかもしれないという展開にまでなり……。
だが、ここで自体は一転する。女性の遺体発見時に現場から逃げた強盗犯が見つかったのだ。強盗犯が奪った財布は探し当てられなかったものの、相談室のメンバーで捜索したところ、中にあったトリミングサロンのカードが見つかる。そこで桜はマコトを連れ、そのトリミングサロンを訪れることに。するとマコトは、トリミングサロンの代表真由美が出てきた途端しっぽをぶんぶん振って飛びついた。女性の写真を見て「存じ上げないです」と真由美は言うが、それにしてはマコトが懐きすぎている。何か知っているのではないか。
桜が訝しみながらも、『身元がわからないと家にも帰せない』と話すと、真由美は顧客情報を調べてくれる。女性の名前は川崎千明。そして真由美の記憶から、千明の実家も判明し、千明は家族に遺骨を受け取られることに……ならなかった。
「受け取らないと、駄目なんですかね。」千明の両親は、千明の死に胸を痛めているものの、それとは別の理由で遺骨の受け取りを拒否しているらしかった。理由を訊いてもプライベートなことだからとあしらわれ……。どうにかしてマコトを救いたい桜は、千明の住んでいたマンションへ行き、事態を解明しようと奔走する。
すると、ひとつの仮定にたどり着いた。「千明と真由美は交際していたのではないか」。女性同士の恋愛、別に突飛な発想だとは思わない。ただそれを仮定に動くには、あまりにも危険すぎる。それを感じたのか、利根川が桜を制した。
「身元不明人相談室の仕事はあくまで行旅死亡人の身元を明らかにし、ご遺骨を帰るべき所にお帰しすること。それ以上でも以下でもない。それに、千明さんのことを知ろうとして周りの誰かを傷つけたり、千明さん自身が丸裸にされてしまうことを、千明さんが望んでいるとは限らない。」千明さんが何を望んでいたのか、それを語れるのは、本当に彼女のことを理解していた人間だけだ。
私自身、性的マイノリティ側の人間である。アウティングは最も忌むべき行為のひとつだとすら思っている。だからこそ、この利根川の理性的な行動は目からウロコだった。
利根川の言葉に反論できない桜。それでもマコトを救いたい。もうできることはないのかと歯がゆい思いをする桜に声をかけたのが、真だった。「だったら、その人に聞けばいいんじゃない?」。本当に彼女を理解していた人に直接聞けばいい。真にそう言われ、桜はハッとひらめいたのだった。
『その人』はマコトだった。でもマコトは人の言葉が話せないし、桜にはマコトの気持ちがわからない。……でも真由美にはわかる。真由美は訥々と、それこそマコトと話すように、千明との日々を少しずつ話していった。
千明と交際していた日々が幸せだったこと、千明も幸せだったからこそ両親に認めてほしがったこと、でも否定されてしまい千明は両親との絶縁すら考えていたこと、でも真由美はそんな選択を千明にしてほしくなくて自分の気持ちを殺して別れを選んだこと。
旅館を経営する両親のため、千明は男性と結婚して跡取りを産まなければならなかった。そうじゃなくとも、両親を愛するからこそ認めてほしかった千明が絶縁するなんて、真由美には耐えられなかった。でも、千明は諦めていなかったのだと知る。
千明がつけていた薬指の指輪は、自分で購入したペアリングだった。ジュエリーショップの店員の話によれば、千明は指輪と一緒に携帯用のジュエリーケースも同時に探していたという。おそらく、動物たちを傷つけないよう、仕事中はアクセサリーを付けられない真由美のために。
それだけでなく、同じく同性愛者の男性に人工授精を持ちかけ、真由美とふたりで子どもを育てる未来も思い描いていた。そうすればいつか両親に理解してもらえる日が来るかもしれない。子どもと3人で、旅館を継いで真由美と生きていきたい。その思いを知った真由美は、静かに涙し、「三田さん、私も一緒に千明のご両親に会わせてください」そう言った。

「千明さんを産んでいただいて、ありがとうございます。」千明の両親と再会した真由美は、深々と頭を下げた。自分たちを受け入れなかった相手を非難するわけでもなく、ただ静かに感謝してみせたのだ。
千明と出会えて本当に幸せだった。きっとこれからも、彼女のことを思い出して強く生きていける。自分のことは許してもらえなくていい。でも千明がどれだけ両親のことを思っていたか、それだけはわかってほしい。「彼女がずっと帰りたかった場所は、ここなんです。だからどうか、『おかえり』って、言ってあげてください……どうか……! 」。真由美の熱意は、伝わった。
千明の父親は言っていた。「頭ではわかっているんだ。でもどうしても、心が追いつかない」。私は別に、同性愛を認められない人を責めるつもりはない。その人にとってはこれまであった『普通』が揺らぐのが怖くて、臆病になってしまうだけなのだと思う。ただ否定する人がいると悲しい。
だからこそ、法律に変わってほしいと切に思う。法律って大きいんだよ。大事な家族が「法律で認められていないこと」に感情を浸していると思うと、どうしても認められない。頭が固いと言われればそうかもしれないけれど、そう言って同性愛を認められない人がいてもおかしくないとは思ってしまう。
法律、変わってくれ。真由美と千明のような人がこれ以上増えないためにも。改めてそう思った回だった。でも同じくらい、彼女たちがお互いの未来をどこまでも想っていたことが嬉しくて、とにかく愛情深い回だとも思った。
千明の遺骨は、両親のもとへ帰ることになった。マコトは真由美に引き取られることになった。そして桜と真は、千明がつけていた指輪をマコトの首輪に、そして千明が真由美のために購入したペアリングを真由美に渡した。その指輪を真由美が自分の薬指に嵌めたその傍らには千明がおり、桜は柔らかく微笑むのだった。「ぴったりですね。よく似合います。」


・手嶋淳之介と梶原真司(第8話)

はい! 大本命来ました!! 夫婦の愛、女性同士の友愛、女性同士の恋愛、そしてこちら、男性同士のめちゃデカ友愛です!! みんな好きでしょブロマンス!!

第8話、冒頭から手嶋くんは大きなミスをしてしまう。夜道で若い男ふたりに襲われ、拳銃を奪われてしまうのだ。警察官として最大の失態。しかもその直後、手嶋を襲った犯人のうちのひとりが拳銃の発砲によって死亡した。
当然、手嶋くんは謹慎に追い込まれる。そんなこともちろん知らない身元不明人相談室のメンバーに、捜査一課から身元特定専従班として捜査に加わるよう協力要請が舞い込む。遺体は20代の若い男性で、至近距離から拳銃で頭部を撃ち抜かれ即死。捜査一課は殺人事件として犯人の行方を追っているという。……そう、奪われた手嶋くんの拳銃による発砲事件である。だがその犯人も遺体も身元がわからない。だからこそ捜査一課は身元不明人相談室に協力要請したわけだが……。
遺体の上半身に入れ墨(俱利迦羅紋紋)が彫られていたことから、暴力団員の可能性が高い。そう踏んだ元マル暴の晴さん(武藤)が染野組の関係者でないかと考察し、桜とふたりで染野組事務所を訪れることになる。ところが染野組の組員は組長も含め全員が口を揃えて知らないと言う。
一方で真は、手嶋くんの捜査一課でのバディ西本沙耶香を問い詰めて、手嶋くんが謹慎中であることを知る。誰よりも早く手嶋くんのこと気にしてるし……何気にいい感じなんだよな、てしまこ。
そして真は手嶋に連絡するが応答なし。真と桜はふたりで手嶋くんの家を訪れるが、手嶋くんは目が当てられないほど凹んでいた。ここの手嶋くんが可愛いんだよ……。ぐでたまみたいにぐでぇっとしてたのに、真が来たと知るやいなやヘアバンド(ヘアバンド? )を取って応対する。かわいい……。
「すいません、ご心配をおかけして。全て僕の、僕の不注意なんです。」手嶋くんは何度も自分を責める。そして最初は真も、冷静に物事を判断していた。「そうだね、どんな理由があろうと絶対にあってはならないことだよ。警察官が拳銃を奪われるなんて。
「真さんの言う通りです。僕は刑事失格です。」でもそこで手を差し伸べるのが、真の優しさだ。そこに惚れたんだろうな。「でも、無事でよかった。一歩間違ったらあなたが殺されてもおかしくなかったんだからね。」でも弱った手嶋くんはとんでもないことを口走る。「いっそ、その方が……。」ドンッ! 怒った桜が机を叩いた音だった。そうだ、言ってやれ! そんなこと絶対言うな手嶋淳之介!
「責任取るなら、やるべきことをやってからにして。」「襲われたときのこと詳しく話してください。」手嶋くんはきっと、これまでエリート街道一直線で。だからこそ、とんでもなく凹むし思い詰めてしまうんだろう(まぁそりゃあ刑事が拳銃奪われればそうなるだろうが)。
手嶋くん含む捜査一課は通報に駆けつけた、だがそれによって手嶋くんは襲われ、拳銃を奪われたのだ……。「きっと彼は、僕の拳銃で……。」手嶋くんの凹み具合は、ひどいものだった。「これ以上おふたりを巻き込むわけには……! 僕とは一切接触していない、何も知らないと……」そしてそんな手嶋くんを、「手嶋ぁ! 」真は一喝する。ぽすん。圧で手嶋くんがベッドに尻もちをついた。可愛い。

そんな手嶋くんを、見捨てた人は誰1人いなかった。「残念だけど、もう手遅れ。」「え? 」この顔もかわいいんだ本当に。あべちゃんって「え? 」顔がかわいいんだよ。ちょっと引きつったこのお顔。
結婚記念日なのに手嶋くんのために残業する堀口さん。その堀口さんに絵を渡す晴さん。「落ち着いたら月本とデートさせてやる。面白そうじゃないですか。」と軽口を叩きながら、夜中の相談室でふたりは捜査に励んでいた。
そして科捜研のメンバーも、利根川も、上司じゃなくても同期じゃなくても、手嶋のために動いている。「もうみんな手嶋さんのために動いちゃってます。」桜の表情は、ドヤ顔と呼ぶにふさわしいものだった。
「今まで散々私たちに協力しておいて、自分のときは手を出すなってカッコつけるのはなし。」語りきれないけど、桜と手嶋もいいんだよ。手嶋くん、桜に対してはタメ口で「三田」呼びなんだよね。先輩らしくカッコよく指示出したり話したりしているのに、こういうときに桜の正義感に翻弄されちゃうの、かわいい。
そして真も、手嶋のために動いていた。「うまくやるからご心配なく。私たちを信じて。こんなんアラジンやん。空を飛べるか不安になっているジャスミンに手を伸ばして「僕を信じろ」と微笑んだアラジンじゃん……。手嶋くんヒロインじゃん……。

そしてヒロイン手嶋くんは、自室のソファで普通に桜と真の間に座って話し、3人で現状を整理する。そこで手嶋くんが実は元高校球児だったことが判明する。その上、行旅死亡人と発砲事件の容疑者のふたりがよくキャッチボールしていたこともわかり……。「野茂こそが俺の神様だ」というその口癖から、手嶋くんはその容疑者に思い当たる人物を見つける。
心当たりあるけど言えない手嶋くん。ひとり部屋で過去の写真を見て、覚悟を決めた目をする手嶋くん。ここの手嶋くんが大好きでさぁ……! 高校球児時代の集合写真は最高に可愛いのに、それを見て覚悟を決めた目をする手嶋くんは本当にかっこいいんだよ。あべちゃんの目って、黒目が大きいけどどこか冷たく鋭い印象を与えるとても魅力的な目をしていて、だからこそ覚悟を決めた表情をしたときにその目が映えるんだよ。ぜひもう一度ご覧ください。

「手嶋さん知りませんか? 連絡が取れないんです。」翌日、西本ちゃんが身元不明人相談室へ相談に来る。が、真が電話したらすぐに取る手嶋くん。そういうところやぞ。バディを大事にせんかい。
「今回のことは、自分がまいた種なんです。僕はかつて自分がしたことに、落とし前をつけなきゃいけない。」だいぶ覚悟決まってますけど! ちゃんと報連相はしなさい! バディを大切にしなさい! かっこいいけど! 好きな人にかっこいい顔見せたいのはわかるけど!

場面は、拳銃自殺しようとする梶原に移る。そこへ手嶋からの着信。梶原は空元気を見せながら不器用に応答した。「変わってないな、お前がそうやって空元気見せるのは、追い込まれてピンチの時だって決まってた。……なぁ、今から会わないか? 」バ、バディだ……お前のことならわかってるよ的なバディだ……! 西本ちゃん(沙耶香)というバディを大事にしろよと言ったところだけど、手嶋くんは昔のバディを大事にしようとしてるんだ……。いや、バディじゃない、『バッテリー』を。
「バカ言ってんじゃねぇよ、俺を捕まえるつもりだろ。」だが梶原は心を閉ざす。「心配すんな。誰かのせいで俺は今謹慎中だ。」お前と話がしたいだけだ。
て、手嶋〜! 言葉選びがいちいち太陽属性〜! 漫画のヒーロー〜! 清廉潔白で穢れを知らない純白〜!

「信用できるかよ。また裏切るつもりだろ、あんときみたいに。」「違う! 」そんな梶原の卑屈な声も、手嶋は真っ向否定する。「お前を助けたいんだ。今度こそ。」その言葉に、梶原も重い腰をあげた。わかった、会おう。

調べていくうちに、梶原には補導歴もあって前科もあったこともわかる。そしてここで妹がいるとわかるやいなや、桜より早く真が動くんだよ〜! てしまこ〜! ……あかん、てしまこの話は後でするんです。
「あの人にとっては、私より組の人の方が家族なんだと思います。弟分のことも良く、面倒見てました。」梶原の妹に話を聞き、ここでようやく行旅死亡人の名前が「池田義人」だということがわかる。そしてもうひとつ、穏やかでないことも。
「兄は手嶋さんのことを恨んでいます。夢を奪った張本人ですから。」
その上さらに、利根川から残酷な宣告が打ち下される。「今回の件から手を引く。」手嶋の失態を揉み消して界隈の組を潰す。そう判断を下した捜査一課に、相談室としては従うしかないようだった。
「そんなの、手嶋くんが納得しません! 手嶋くんを見捨てるんですか!? 」そんな利根川に噛み付いたのは、真だった。真は真で、手嶋の実直さを信用しているのだ。
そしてその場に、桜はいなかった。
そう、桜は染野組に乗り込んでいたのだ。「亡くなった方は池田義人さんという方です。一緒にいたのは梶原真司さん、本当に、本当に知りませんか? 」涙声で震えながら訊き続ける桜を、助けに来たのが堀口さんと晴さんだった。
一触即発、そんな空気の中、止めに入る組長。怖くても懸命に訊き続ける桜。それでも、組員たちは組を守るためにふたりの存在を頑なに認めなかった。そんな組員たちに、桜の堪忍袋の緒が切れる。
「亡くなった人の気持ちがわかったようなこと、軽々しく言わないでください! 」身元不明人相談室でいろんな人と関わってきたからこそ、言える言葉だった。
いわく、染野組は経営が厳しく、麻薬に手を出さないと存続が難しかった。でも組長はそれだけはしたくないと考えており、梶原と池田もそれに倣っていた。組長は、ふたりの義理堅さを想っていたのだ。「俺の可愛いバカ息子たちだ。」なんだかこの台詞に、ONEPIECEの白ひげを見てしまった。
組を解散する。組長は言った。「池田の亡骸は俺が引き取らせてもらう。あとは、梶原を助けてやってくれ。」池田が帰った場所は、実の家族じゃなくとも「家族」の場所だった。でもそれは亡くなったから。ここで冒頭の晴さんの台詞が生きてくる。「同情なんかしちゃダメですよ、腐ってもヤクザ、反社です。この法治国家には存在しちゃいけない連中なんです。」
そこにしか居場所がないと思い込んで生きていくには、正しくない場所。それがヤクザである。梶原は、これからも生きていく人間だ。彼がどんな道を選ぶのか、私はこの時点で随分と感情移入していた。

「梶原! 俺だ。」母校の野球部の室内練習場に入る手嶋くん。そこがふたりの待ち合わせの場所で、思い出の場所でもあったのだろう。
だがその瞬間、手嶋くんの背中に拳銃を突きつけられる「間抜けだなぁ、手嶋刑事。」嘲笑うような、泣きそうな声だった。「まじでひとりできたのかよ。お人好しにもほどがあんだろ。」お前は刑事に向かねぇよ。
『GOHOME』では度々、手嶋くんに対して「刑事に向かない」と言われるシーンがある。捜査一課の若きエースであるにも関わらず、だ。そしてその言葉を、ここにきて元バッテリーの梶原が言う。手嶋くんにとってはきっと、重い言葉だっただろう。
身体は軽かったけど。手嶋くんは壁にドォン! と背中を叩きつけられる。なにかと弾みやすい身体だな、この子。かわいいな(それどころではない)。
「久しぶりだな。」「こんな再会はしたくなかった。」「俺は結構楽しいぜ、お前の辛そうな顔が見れて。」縋るように嘲笑う梶原に対し、手嶋くんはどこまでも太陽のように正しい言葉を紡いだ。
「なんでこんな真似したんだ。あの射殺事件、本当にお前がやったのか。」刑事だけど、刑事にしてはあまりにも情に厚い言葉だった。「俺があいつを殺した。組を守るためにはどうしても金が必要だった。お前から奪った拳銃を使って現金輸送車を、襲う計画だった。」梶原はあっさり告白する。
でも梶原は、出直そうとしたのだ。警備が思ったより厳重だったから、と言い訳を重ねて。でも池田は聞かなかった。ビビってるのか。そう言って行こうとした池田を止めようとして、持っていた拳銃で発砲してしまい……池田は死んでしまった。それまで「池田」と呼んでいた梶原の「義人! 」という悲痛な叫び声がこだました。
「お前は、池田を止めようとしたんだな? 」手嶋くんは、必死だった。「だったら自首するんだ。拳銃を奪って現金輸送車を襲おうとしたことは許されることじゃない。でも殺人罪にまでは問われない。今からでもやり直せる。」頼む、自首してくれ、梶原。
「またそれかよ。」手嶋くんの言葉を、梶原は鼻で笑い、一蹴した。「お前はあの時もそう言って俺から夢を奪ったんだ。お前が監督にチクリさえしなければ俺はマウンドに上がれた! 」高校球児時代の話だった。
「肘に爆弾を抱えてたお前は予選からの連投でもう限界だった。」肘を故障しかけていた梶原のため、バッテリーだからこそそれに気付いていた手嶋くんは、監督にそれを告げて、それが原因で梶原は地区大会の決勝の舞台に上がれなかったのだった。
「それでも投げたかった! 」梶原の声は悲痛だった。もう嘲笑うような色は一切無く、ただひたすらに手嶋くんに縋っていた。「それが最後になったって、ずっと甲子園を目標に野球しかしてこなかったんだ! ……いいよなぁお前らは、グラウンドで悔し涙が流せて。」梶原の人生は、そこから転落していった。夢が途切れ、生活は荒れ、補導され前科がつき、いつの間にか暴力団員になっていた。
でもそれは、手嶋くんの望んだ未来ではなかった。「俺はお前に、あそこで終わってほしくなかった! 甲子園に行けなくたって、お前なら大学や社会人野球で……! 」あぁ……正しすぎるんだよ、手嶋くん……。
「簡単に言うなよ! 現実そんなに甘くねえんだよ。……やり直せる? ふざけんなよ。『義人』まで死んじまって今更何をやり直せるってんだよ! 」ここで印象的だったのは、梶原が『義人』と呼んだこと。自分の手で殺してしまったときからずっと、彼は罪悪感にとらわれてしまっている。ゆるされてはいけないと思っている。『義人』と下の名前で呼んで必死に手を伸ばしてすがりつくように、あぁきっと、彼が伸ばした手で掴めたのは手嶋くんだけだったのだ。
梶原は手嶋くんの首元に銃を突きつけながら、言う。「バッテリーってのは一心同体なんだよな? ……だったら一緒に死んでくれよ。」
あががががちょっと待てぃ!!! びっくりした……いきなりそんなめちゃデカ激重感情が表出するとは……手嶋くんしか縋れないのはわかるけど、縋り方が瀕死のそれすぎる。晩夏の蝉のような縋り方。そんな梶原を燦燦と照らし上げる手嶋くん……なんだこれ、宗教画か?

なにも言わない手嶋くん。「いっそ、そうなった方が……」前半の手嶋くんの弱気な発言がよぎる。手嶋くん……まさか……! だがそうはさせなかった。「待ってください! 」真だった。そう、彼女は、寝たふりをした利根川の目を盗んで行く手嶋のもとへ来たのだ。
「話は全部聞かせてもらいました。」そう言って真が耳から抜いたイヤホンは、手嶋のポケットのスマートフォンと繋がっていた。
「もし俺が死んでも、事件の真相は知らさなきゃならない。……俺は刑事だからな。」て、手嶋くん……! そして知らせるのが真なんだ……真さんの「私たちを信じて」を本当に信じてるんだ……健気……報われてほしい……! そして刑事としてもちゃんと全うしている……友人として落とし前はつけても、刑事としての仕事を疎かにはしない。それが手嶋淳之介の誠意。手嶋くん、かっこいい……!

そんな覚悟が決まった手嶋くんを見て、真は言う。「彼のことを憎んでなんかいないんじゃないですか? 拳銃を奪った相手が手嶋刑事だったのはただの偶然だった。」それは覚悟を決めていた手嶋からしたら、きっと想像すらしていなかった言葉だった。
曰く、現場には鉄パイプも落ちていたけれど、手嶋刑事を襲ったのは木の角材だったらしい。「手嶋刑事とわかって手加減したんじゃないですか? 現金輸送車を襲うのを辞めたのも、彼の拳銃を犯罪に使いたくなかったから。」……待て、真。それが本当だったら……いや、梶原の表情が本当だと告げている……。なんだ、なんてこった、じゃあ本当の本当に、梶原は手嶋くんに縋っているんじゃないか……!
「でもそのせいで池田さんが亡くなってしまった。あなたは悔やんでも悔やみきれずに、やり場のない怒りを手嶋刑事にぶつけてる。……でも本当は彼に助けを求めてる。」あ〜〜感情が大きすぎる……! 私よくリアタイ視聴したよ。一時停止して深呼吸したいくらいだもん、この大きさ。大切な弟分を事故で殺してしまった梶原は、元バッテリーの手嶋くんの正しさに縋るしかできなかったんだ……。
梶原は泣きそうな顔で激昂した。もはや子どもの八つ当たりに近かった。「てめぇはまた俺のやろうとすることの邪魔しやがって。なんであそこにお前が現れたんだよ。お前じゃなかったら遠慮なく銃ぶっぱなして、金奪って組を守れたはずだった。」そうすれば義人だって……! なんなんだよお前は……!
スゥーーーーッ! なんなんだよお前は、はこちらの台詞です梶原真司。お前じゃなければよかったのに、お前だから罪を犯せなくて、お前だったから弟分を殺してしまった。手嶋淳之介という太陽とすれ違ったから正しい方向に導かれ、でも梶原真司のした今までの罪がそれをゆるさないように、ひとつの大きな罪が罪悪感となって彼を襲った。なんなんだよお前たちは……!
「わかってるよ、12年前も今も、俺は全部お前のせいにして逃げてるだけだって。」梶原は、手嶋に向けていた拳銃を自分の頭に突きつけた。「悪かったな、『淳之介』。」ここにきて下の名前呼びですよ……梶原真司、お前さては最後すべてを諦めて縋るときは下の名前で呼ぶタイプだな……? それがお前の不器用な『愛』なんだな……?

驚いた顔で手も足も出ない手嶋と真。
結果、梶原の自殺を止めたのは義人の投球だった。いや、実際には桜のめちゃくちゃなフォームの投球だったが。桜の投げたボールは組長からの餞別で、でかでかと「破門」と書かれていた。
そして桜は組長からの伝言を伝える。「『今までありがとうよ、だが染野組は解散する。いい加減親離れしやがれこのクソガキ。』」お前にヤクザは向いてない。
「刑事に向いていない」けどエリート街道を突き進み、優しさ故に今回失敗してしまい、それでも「刑事だから」と意志を貫く手嶋くん。組長という父と慕っていた人から「ヤクザに向いていない」と言われ、弟分を殺してしまった罪悪感に向き合う梶原。間違いなくバッテリーだよ……。

項垂れる梶原を見、手嶋くんは言う。「悪いけど俺は、12年前のこと間違ったと思ってない。今でもお前ならやり直せるって信じてる。」手嶋淳之介は、どこまでも正しく清い太陽だった。「お前の生き方を、刑事として認めることはできない。今回お前がしたことを絶対に許すわけにはいかない。でも、それでもやり直せる! 」手嶋くんの言葉は力強かった。
「勝手なこと言うなよ、無理に決まってんだろ。」「できる! 」覆い被さるように大声で、手嶋くんは梶原の可能性を肯定し続けた。
そしてちらりと真を見る。「二度と立ち上がれないようなつらいことがあっても、歯を食いしばって笑って前に進もうとしている人のことを、俺は知ってる。まっすぐなその人は、昔のお前によく似てる。どんな相手でも逃げずにバカのひとつ覚えみたいにストレートで真っ向勝負していたお前に! 」おま、おまえ……! 真さんに、梶原と似たところを感じたから惚れたのかよ……ちょっと待て、梶原→手嶋もデカいと思っていたけど、手嶋→梶原もデカすぎるだろ……思わずテニプリみたいな反応しちゃうよ……。
その大きさに、梶原は息を取り戻す。「また戻れるのかよ……楽しかった、あの頃みたいに。」
手嶋くんは力強く頷いた。「戻れる。お前なら絶対にやり直せる! 負けんなよ『真司』!」ここにきて下の名前呼び〜! 梶原が全てを諦めたときに『淳之介』と呼んだのに対し、手嶋くんは諦めないでほしいときにこそ『真司』と呼ぶんですよ……! あなたのすべてを肯定することはできないけれど、あなたに生きてほしいと強く存在を肯定するんですよ手嶋淳之介は……!
太陽すぎるだろ……。

そしてそんな太陽に、梶原は言う。「拳銃は2丁あった。池田を撃った銃は、近くの川に捨てた。この銃は1発も打ってない。」
ちょっと待てぃ!!! 私の中の千鳥が叫んだ。もう2度目だ。だってつまり、今手嶋くんに渡した拳銃は手嶋くんから奪ったものというわけじゃないですか……その拳銃を、梶原は手嶋くんに突きつけ、それで自殺しようとしたわけじゃないですか……。手嶋くんの拳銃で現金輸送車を襲うのは憚ったのに、手嶋くんの拳銃でバッテリー一蓮托生しようとしていたの……?手嶋くんの拳銃を使うことを躊躇って使わなかったのに、手嶋くんを撃つか自殺するかのときには手嶋くんの拳銃を持ってきていた……????? 宇宙猫になってしまう、こんなの。

これが愛じゃなければなんと呼ぶのか、僕は知らなかった(再放送)。

そしてふたりは最後、キャッチボールをして希望へ向かうのだった。

手嶋くんの「やり直せる! できる! 」ていうのは根拠のない自信なんだけど、そうやって根拠のない自信を自信満々に言い切ってくれる姿が、眩しい太陽のようで梶原くんも高校時代から救われてきたんだろうな……。手嶋くん、そういうキャッチャーだったんだろうな……。
太陽のような手嶋くんが月を冠する真に惹かれて、また真のバディが太陽のような桜なの、良い。


・手嶋くんと堀口さん

そう、これが第8話。だがそのラストで、衝撃の結末が訪れる。
堀口さんが遺体となって発見されるのだ。しかも堀口さんは堀口さんではなかった……。何を言っているかわからないと思うが、あ、ありのまま起こったことを話すぜ……堀口さんは堀口じゃなかったんだ……!
堀口さんの死因は、階段で転倒して頭を強打したことによる外傷性脳損傷。通夜では誰1人現実を受け止めきれず、言葉を失っていた。
そこへ、堀口さんの母、律子が現れる。堀口さんの妻、由理恵は堀口さんから『両親は亡くなっている』と聞かされていた。だが堀口さんが亡くなったことで戸籍謄本を確認したところ、律子の生存を知り、慌てて連絡したのだ。律子の話では堀口さんは借金まみれの父に嫌気が差し、高校卒業後に家を出て、それ以来30年も音信不通になっていたという。だがそんな律子が堀口さんの遺影を見て、信じられないことを言う。「違います……尚史じゃありません! 」実際、律子が持って来ていた過去の写真も、堀口さんとは似ても似つかなかった。
つまり堀口さんは戸籍を偽って警察官になったということになる。なぜそんなことを……利根川に止められながらも、桜と真と手嶋くんは手を組み、堀口さんの真相を調べていく。

この辺りは公式サイトを読んだり、本編を観た方がわかりやすいと思う。私が語りたいのは、堀口さんの真相ではない。『堀口さんと手嶋くんの関係性』だ。

堀口さんは元公安、手嶋くんは捜査一課のエリート刑事。どちらも優秀でなければなれない。それは元来のふたりが優秀だったことも指し示している。きっと出生が違えば、身分詐称なんてせずにいられれば、堀口さんも自分の警察官たる姿を誇れたのだろう。でも、堀口さんはその出生故に誇ることもできなかった。
そんな堀口さんにとって、エリート街道を突き進む、若くして捜査一課のエースである手嶋くんはどう映っていただろう。逆恨みしたっておかしくない。なのに堀口さんは、手嶋くんを可愛がっていた。
晴さんと3人で飲みに行って恋バナをしたり、真の話をする手嶋くんの話を聞いてあげたり、手嶋くんのために奔走して「月本とデートさせてやる」なんて言ったり。

手嶋くんの「優しくてまっすぐすぎて刑事には向いていないけど、捜査一課のエース」という警察官像は、堀口さんにとって理想であり、憧れであり、希望だったんだと思う。実際、堀口さんが憧れていた警察官(磯辺さん)は、ある種警察官らしくない、それでも優しく弱者に手を差し伸べてくれる人だった。だからこそ、手嶋くんは光だったんだろう。
だからこそ、手嶋くんも堀口さんを慕っていた。だからこそ、磯辺の説得にも尽力した。「好きな人に中々気持ちが伝えられないのを、いつも堀口さんにからかわれて。でもあれがあの人流の応援だってわかっていました。そうやっていつも僕のこと、気にかけてくれて……。」そして磯辺にこう言われる。「きっと、あんたのことが羨ましかったんだろうなぁ。あんたみたいな、まっすぐな刑事になりたかったんだ。」
手嶋くん……堀口さんのこと尊敬してて、大好きだったんだな……。そして堀口さんも、手嶋くんにまっすぐのびのびと、自分が憧れたような刑事になってほしかったんだろうな。
手嶋くん、どうか君は今のまま、刑事らしくないけど心優しい警察官として、自分の道を突き進んでくれ。


・てしまこ(手嶋くんと真)

大本命来ました! (Part.2)これを書くために書いてきたところある。そりゃそうだよ、手嶋くんと真、通称てしまこ。このふたりの恋路は物語の中でも大切にされてきた軸のひとつなんだから。
手嶋くんの真への恋慕は、第1話からとにかくわかりやすかった。「粉も好きっす! 」真から情報提供のお礼に食事に誘われたときのわんこ感ったら……しっぽが見えたほどだ。

手嶋くんの恋心はわかりやすい。第2話、福島でばったり会った真に対して「こんなことってあります? 」と言葉尻を上げながら駆け寄り、「もしよかったら、これ」雨の中動けない真に自分の傘を差し出す。しかもその間、その視線はずっと真を見ている。な……なんていじらしいんだ手嶋淳之介……!

しかもその後、物憂げに福島の海を見つめる真の背中を遠くから眺めながらも声もかけず、後輩バディの西本ちゃん(沙耶香)に頭ポンして「帰るぞ」と颯爽と車に乗る。
ず、ずるい男だよ手嶋淳之介〜〜!! 手嶋くんって真以外の異性に対してはまじで恋愛対象として意識してないのがいいんだよね。
だから普通に頭ポンとかしちゃったりするし、桜に対しても先輩らしく普通にタメ口だったりする。そして西本ちゃんも桜も菜津も、そして残念ながら真も、全く恋愛対象として見ていないところがまた良い。手嶋くんには悪いけど。
「手嶋くんが? 私を? ないない! 」第5話、真は菜津と桜との飲み会でこう言っている。ちなみに第5話では晴さんと堀口さんと手嶋くんの飲み会のシーンもあり、そこで手嶋くんはあざとく「これで! 」と口に人差し指を当てて内緒にしてねと約束する場面があるのだが、あまりにもかわいすぎるからぜひ観てほしい。

『GOHOME』が良いドラマだな、と感じるのは、こういうところもある。男女のバディでありながら恋愛感情の有無ははっきり描く。恋愛感情なしの男女の関係性も丁寧に描く。無闇矢鱈に男女だからと恋愛感情を絡めない。それでいて、手嶋くんから真への恋愛感情は誠実かつ丁寧に描く。そういうところでこの作品への信頼感は大きくなり、このドラマが好きだと思う一因に至ったのである。

手嶋くんの真への想いは、可愛らしくいじらしい。中々言葉にできず、デートに誘うことすらできない。最終的に告白することもできず、花束も渡せなかった。でもそれが手嶋淳之介の「愛し方」なのだと、私は思う。


4.手嶋淳之介の想い

手嶋くんの告白シーンは、公式にも上がっているからそちらを観ていただいた方が早いと思う。

科捜研の早瀬室長のエールに背中を押され、手嶋くんは真に声をかける。この早瀬室長の言葉も、なにか含みがありそう(自分の過去を回顧している? )で、手嶋くんもハッとした表情をするんだけれど、現時点でそこに関しては深く描かれていない。
描かれているのは、手嶋くんの告白シーンだ。「あの! ……真さん。」立ち去ろうとする真を、手嶋くんは呼び止める。「ん? どうした? 」対する真の声は、ただ切羽詰まったような手嶋くんを心配するような優しい声色だった。
「俺……」たぶんここら辺までは、手嶋くんも告白するつもりだったんだろう。でも真の表情を見て、覚悟の決まった表情がほろりとゆるんだ。それは「自分が真さんに告白したくない照れ」ではなく、真を思っての感情の変化だった。「福島に遊びに行ってもいいですか? 」
この言葉が発された瞬間、私は天を仰いだ。これが手嶋淳之介なのだ、これが手嶋淳之介の精一杯の「I love you」なのだ。
「もちろん、お寿司食べに行こ。」真の声は終始優しかった。そして手嶋くんの言葉を受けた真の表情はどこか安堵に満ちており、その表情にまた、手嶋くんも顔を綻ばせて静かに喜ぶのだった。
手嶋くんは今までで1番晴れやかな笑顔で頷いた。「はい! 」そこに後悔なんてものは、1ミリも存在しなかった。

『てっしー告白してよ! 』SNSにはこんな声がたくさん見受けられた。わからなくはない。早瀬室長に背中を押されたにも関わらず、手嶋くんは「好きです」とも「付き合ってください」とも言えなかった。それはこれまで手嶋くんの恋を見守ってきたファンからしたら、不完全燃焼になり得るものだろう。
でも私は、これが手嶋くんの恋なんだと思った。
手嶋くんは、真の慎一への想いを知っている。
第2話でひとり福島の海を眺める真の姿も、第4話で慎一の最期の姿を見て泣き崩れる真の姿も、手嶋くんは見ている。その感情が真にとってどれほど大切で、真が慎一をどれほど愛しているのかも、きっと知っている。
真が慎一と不慮の別れに襲われてから、今に至るまでの時間は、13年間だ。あまりにも長い。真は第4話まで何度も「慎一さんのことは忘れよう」と自分に言い聞かせていたが、13年間それができなかった。それほどまでに想っている相手の死を、受け入れて前に進むには時間がまだ足りない。その弱った心に付け入ってまで想いを伝えたいと願うほど、手嶋くんは器用な人間でもない。
きっと手嶋くんに呼び止められたとき、真はふと手嶋くんの恋心を思い出しただろう。「ないない」と否定したはいいものの、周りから見て「ある」と思われているのなら「ある」のかもしれない。手嶋淳之介は自分のことが好きなのかもしれない。……告白されるかもしれない。あのときの真のやや強ばった表情は、手嶋くんへの心配の中にほんの少し「告白されるかもしれない不安」も混じっていたのかもしれない。
だとするとやはり、手嶋くんが告白できなかったのも無理は無いだろう。そして彼は自分の意思でそうしたのだ。自分の意思で告白しない道を選び、それでいて「あなたの心の端っこに、たまにいさせてください」とでもいうように「福島に遊びに行ってもいいですか? 」と訊いた。ひとつ、ひとつずつゆっくり歩いて、おじいちゃんとおばあちゃんになってもいい。いつかあなたの心に寄り添える存在になりたい。そういう手嶋淳之介の優しさが滲み出た、「愛の言葉」だった。

主題歌のヨルシカの『忘れてください』は、亡くなった人から生きている人への言葉だと言った。でもこれを踏まえると、手嶋くんから真への言葉なのかもしれないとも思う。
もちろん、ヨルシカの意図はそこではない。

『忘れてください』という曲を書くために頭を悩ませていた頃、僕は北原白秋の「桐の花」という歌集を読んでいて、その中の一首に枇杷(びわ)をモチーフとした歌がありました。「枇杷の木に黄なる枇杷の実かがやくとわれ驚きて飛びくつがへる」という作です。僕はこの歌を見た時、庭に枇杷の木が生えた家と、そこで暮らす二人を想像しました。同時にその暮らしの終わりも想像しました。『忘れてください』は、いなくなった私を忘れてくださいという曲です。いなくなった誰かを探すという、このドラマに合った曲になっていることを願っています。

Yahooニュース記事より

だがあえて言うと、枇杷の花言葉には「密かな告白」という意味もある。

僕に心を 君に花束を
揺れる髪だけ靡くままにして

ヨルシカ『忘れてください』

僕に恋心をくれたあなたへ。花束を渡したかったけれど渡せず、あなたの人生をそのままに見守るよ。そんな手嶋淳之介の想いが枇杷の香りと共に、香ってくるようですらある。

春の日差しを一つ埋めて、
たまには少しの水をやって、
小さな枇杷が生ったとき忘れてください

ヨルシカ『忘れてください』

これの元の意味は時間とともに忘れてほしいという、いなくなった人の想いである。それと同時に、自分からの恋心を忘れて、安心して自分の人生を生きてほしいという手嶋くんの純愛も見える。それでも少しの水で恋心を自覚することはゆるしてくださいという、いじらしさも感じられる。

おじいちゃんおばあちゃんになってもいい。何度枇杷が生る季節を迎えてもいい。手嶋くんから真への恋心を忘れてくれていい。ただ安心感だけ残ればいい。
自分の好きだって気持ちを忘れられて、ただ安心感だけが残って、その安心感に寄り添える存在であればいい。
僕の恋心を忘れてください。その先も愛させてください。
そんな手嶋くんの想いが、「福島に遊びに行ってもいいですか?」には詰まっていると思う。


5.最後に

ここまで約3万字。正直全然語り足りていない。
毒親育ちとして最終話のにも「母親の『愛してる』を素直に受け止められなくてもいいよ。一生帰らなくてもいいよ。あなたの帰る家はここにもあるよ」と言いたかったし、ここについても深く語りたかった。
けどまぁ今回は『GOHOME』というドラマのコンビの良さや、最推し手嶋淳之介について語りたかったから、これでよかったんだ。
ちなみにてしまこが可愛いな、と思うのは、手嶋くんを演じたあべちゃんがクランクアップしたときに花束を渡したのが、真を演じた大島優子さんだということ。手嶋くんは真に花束を渡せなかったのに、あべちゃんは大島優子さんから花束をもらっちゃうんだね。かわいいね、そういうところ。

手嶋くんがいつか真に花束を渡せる日は来るだろうか。その日はいつになるだろう、本当におじいちゃんとおばあちゃんになっているかもしれない。花束じゃなくて小さな花一輪になるかもしれない。
それでも手嶋くんはきっと一途に真を想い続けて、真の傷が癒えるのを待って、真に寄り添い続ける。桜のようなバディにはなれないけれど、手嶋くんは手嶋くんなりの想い方で愛を抱えて少しずつ渡し続ける。それが手嶋淳之介だ。

願わくば。手嶋くんと真の出会いや、真と桜の出会いなど、episode.0的な前日談も観たい。というか続編が観たい。
どうかこの『GOHOME〜警視庁身元不明人相談室〜』というドラマが、長く日本に愛される作品になりますように。

最後になりましたが、この作品に推しの阿部亮平くんを起用してくれてありがとうございます。そして阿部くん、手嶋淳之介を演じてくれてありがとう。
おかげさまで、素敵な夏だったよ。

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