花散るらん ✎ 2 ちーかま 2023年5月5日 00:07 俺、土方歳三は色の無い世界に居た。音も無い、静かな場所だ。微かに甘い花の香りが鼻をくすぐり、背中には柔らかな何かを感じていた。そうか…俺は死んだのか。辞世の句を読む暇もなかったな。皮肉な笑みを浮かべるものの、その顔を見る者も居ないようだ。遠くから俺の名を呼ぶ声が聞こえた。近藤さんだな。目を開けようとしたが、瞼はまるで縫い付けられたように動かない。体を起こそうとしても、まるで鉛のように重く動かない。近藤さん…近藤さん!心の中で叫べども、声はまったく出ない。近藤さ…勝っちゃん!勝っちゃん待ってくれ、体が動かねぇんだ。一人で行かないでくれ。俺の名を呼ぶ声は一段と大きく響く。おい…おかしくないか?勝っちゃんは何故俺の事を副長って読んでんだ?やがて体がひっぱられる感覚に襲われる。ふっと体が軽くなり、重かった瞼は開かれた。無色の世界は色のある世界へと変化した。「副長!」目の前には相馬主計の渋い顔があった。「なんでぇ…お前かよ」「美しく着飾った花魁の登場を、期待していましたか?」「おめぇにしては上出来な冗談だな」体を起こすと、桜の木の下で眠っていた事に気がついた。眼前の桜は満開で、花の中心が赤くなっている。「相馬、この桜の花の中心が赤い理由を知っているか?」相馬は渋い顔をさらに渋くさせ、やれやれといった様子でこう答えた。「桜の木の下には、死体が埋まっているからです。散り際か近くなったので、散らぬようにと死体の血を吸っているのでしょう」「現実主義のおめぇしては、上出来な冗談だな」「副長の好きそうな答えを口にしただけです」「ふん…」俺は立ち上がり、枝を軽くしならせて手を離した?はらりはらりと、桜は風に乗って舞い散る。「散り際が…ってところは正解。その後は根拠のない創作だな」「総裁が探しておられます。早くお戻りください」「はいはい」俺は桜の木に背を向けて歩き出した。ふとふりむき、独りごちる。「俺もお前さんと同じく、散り際なのかもしれぇな」*⑅︎୨୧┈︎┈︎┈︎┈︎┈︎┈︎┈︎┈︎*୨୧⑅︎*以前アメブロに掲載したショートストーリーを少しだけ手直ししました。動画はこのショートストーリーをイメージして作ったものです。画像はイメージとして【薄桜鬼】の画像をお借りしています。5月5日は土方さんの188歳の誕生日꒰ঌ ᎻᎯᎵᎵᎩ ᏴᎥᏒᎢᎻᎠᎪᎩ ໒꒱(*ˊᵕˋ*)੭ この記事が参加している募集 #私の作品紹介 108,217件 #私の作品紹介 #誕生日 #新選組 #土方歳三 #5月5日 2 この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか? サポート