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映画と美術#9『セザンヌ』ストローブ=ユイレのセザンヌ解体新書
▷キーワード:ポール・セザンヌ、印象派、ポスト印象派、キュビズム、抽象画
「モネは1つの目にすぎない、だがなんと素晴らしい目であることか。」
ポスト印象派の巨匠であるポール・セザンヌが遺したこの言葉は目の前に広がる世界の捉えようとする印象派の流れを掬いあげるものがある。帽子製造業と銀行業で財を成す裕福な家庭に生まれた彼は法律を学ぶも、父を説得する形でパリへ飛び出し画家を目指すようになる。1961年にカミーユ・ピサロと出会い野外で作品制作するようになる。
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1873年に制作した風景が「オーヴェールの首つりの家」の経験がセザンヌの人生に大きな影響を与えていく。彼は印象派グループと交流する中で「うわべだけの表現」に幻滅し目の前に映る風景の本質を捉えようと構造的な静物画や風景画を描くようになる。
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たとえば、「リンゴとオレンジのある静物」では複雑で不安定な構造を、幾何学的なジグザグとした導線により生み出しており、その中で転がるリンゴとオレンジからは果物の様々な側面を捉えようとした形跡がうかがえる。
このようなセザンヌの構造は後にキュビズムや抽象画へと影響を与えた。
1980年代後半、オルセー美術館の視覚聴覚部門ディレクターであるヴィルジニー・エルバンがポール・セザンヌ初期絵画展に合わせてストローブ=ユイレと短編映画制作の企画が立ち上がった。ストローブ=ユイレ自身、セザンヌの絵画に基づく短編を撮ろうとしていた時期がありタイミングがよかった。こうして『セザンヌ』は制作されたのだが、試写を観たエルバンと関係者は本作の上映を拒否した。
本作は彼の幼馴染であるアンリ・ガスケの息子であるジョアシャン・ガスケが書いた評伝『セザンヌ』のテクストを引用し、セザンヌが作品を描いた地や作品、ジャン・ルノワール『ボヴァリー夫人』にストローブ=ユイレが手掛けた『エンぺドクレスの死』のフッテージを織り交ぜた作品である。
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まず、360度パンにより何の変哲もない場所の全体像がカメラに収められる。ここは葉を落とした「葉を落としたジャ・ド・ブッファンの木々」が描かれた場所である。
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次の場面では、サント・ヴィクトワール山を見つめる眼差しが収められている。田園地帯が立ち並んでいた光景も100年が経過すればHLM(Habitation à loyer modéré=低家賃住宅)が立ち並ぶ場へと変貌を遂げている。この変化には本質レベルで共通したものがある。農民もHLMに暮らす者も生活レベルは一致しているといえるのだ。何気ないショットに時間的重ね合わせの理論を織り交ぜていくのだ。
このように時間芸術である映画の特性からセザンヌの人生に迫ろうとする宣言から本作は語られるのである。
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