AIと楽しく学ぶ量子論 二重スリット実験
0. 背景
本記事は
■シミュレーション仮説に住んでいる確率 (鋭意制作中)■
を説明するための補助的な資料となっています。
量子 (≒ミクロ) の世界は我々が生活して実際体感, 観察しているマクロ (≒
巨大) の世界とは異なり, テレポーテーション, ワープや一見タイムトラベルと関連付けられる物理現象が観察されています。このことは多くのSF (遥か未来ではもはや科学) 現象を説明する間接的な根拠にもなることがあり, 科学者や一般SF読者, オカルト分野でも興味が尽きません。
理解することは非常に難しく, 自分自身最近まで多くの誤った解釈をしてきました。近年のAI, とくに生成系AIの発達でAIと対話することでこれらの難解な現象が今までよりも比較的容易に理解できる環境となりました。今回, 特に二重スリット実験にfocusを当てて出来るだけ分かりやすく, 誤りのないように解説したいと思います。
本記事はAIと対話して作成しました。質問の微妙なしかたによって解答が大幅に変わり, これまで記事の変更を何度かしています。これは現代もコペンハーゲン解釈, 多世界解釈 (Many-Worlds Interpretation, MWI), 量子デコヒーレンス理論など多くの解釈があるためAI自身も理解に一貫性がないように見えることが原因と考えています。これを回避するために
コペンハーゲン解釈ではどうなっていますか?
と尋ねるようにしました。
1. 量子力学の奇妙な現象について
二重スリット実験に入る前に量子力学, 特に量子の基本的な性質, 用語の解説に入りたいと思います。高校物理などすでに学習されていたら, スムーズに入りやすいかもしれませんが, 直感的な理解を優先するため, 出来るだけ数式や難解な表現は使わずイラストや現実世界での例えを多用していきたいと思います。
1.1 粒子の二重性 (光の粒子性, 波動性)
今から400年ほど前, 光が波であるか粒子であるかについて長い間議論が分かれていました。ニュートンは光を粒子として捉え, ホイヘンスは波として捉えていました。しかし、20世紀に量子力学が発展した結果, 光は条件によって波としても粒子としても振る舞うことがわかり, 現在では「波動・粒子二重性」としてこれらの性質が統合されています。
光が『波』の性質を示すことを最初に実験で確認したのは1801年にヤングが行った二重スリット実験です。後のChapterで解説します。
1905年にアインシュタインは光の粒子性を示す実験 (光電効果) を行いました。光は「光子」としてエネルギーを持ち, 金属の電子にそのエネルギーを与えることで電子が放出される現象 (光電効果) を確認しました。
1900年代前半にハイゼルベルクによって提唱されたコペンハーゲン解釈を光の二重性や本記事で述べますスリット実験の考察に矛盾がないように簡単に解釈すると以下の通りになります。
1.2 量子の重ね合わせと観測問題
量子力学の世界では, 電子や光子などの非常に小さな粒子は, 私たちが普段理解しているような「ここにある」や「この速さで動いている」といった具体的な状態を持っていません。これらの粒子は, 観測されるまでは複数の異なる状態に「重ね合わせて」存在しているとされています。後に紹介します二重スリット実験では, 粒子(光子, 電子)が観測されない限り波の性質を持ち, 両方のスリットを同時に通過したかのように振る舞います。観測を行うと, 光子は1つのスリットを通ったと確定し, 干渉パターンは現れなくなります。
例を電子のスピンとして考えますと, 電子のスピン方向は観測するまで「上向き」か「下向き」かが決まっていない状態, つまり重ね合わせ状態にあります。これは電子のスピン方向が確定しておらず上向きと下向きの両方の状態 (上向きが下向きがそれぞれ50%の確率で重ねあわされて存在している), にあることを意味します。
しかし, 観測を行うとスピンは「上向き (スピンアップ)」か「下向き (スピンダウン)」のどちらか一方に確定します。この瞬間, 電子のスピンは波動関数の崩壊を起こしたと表現されます。
これに対してマクロの視点, 現実世界ではどうでしょうか。シュレディンガーの猫ならぬ, 白黒のペンキ猫で説明します。古典力学では重ね合わせのようなことは起こらないという説明です。箱と猫を用意します。箱の中には50%の確率で白, 50%の確率で黒いスプレーを出す装置があります。
スプレーでペンキを塗られた猫を観察すれば50%の確率で白猫, 50%で黒猫という事が確定されます。マクロの世界では観察という行為は結果に影響せず, 箱を開ける前からすでに白猫か黒猫か確定しているはずです。
もしミクロの世界でこのようなミニミニ猫がいれば, 観測する前は白と黒の猫が観測されるまで, どちらかに確定せずに可能性が共存した状態で, 観測後に白か黒が確定するということです。自分でも何を言っているのかいまいちわかりませんが。
ここで疑問が湧くかもしれません。例えばマクロな世界で水を観察したとき, 水自体はH2O (水分子) の集合体と考えることができるので, 人間が水を見た時点で量子 (水分子) が観察 (観測?)され物理量が決定されるかどうかということです。結論からいうとNoで以下のように説明できます。まずはデコヒーレンスという概念の理解が必要です。デコヒーレンスとは『量子力学的な振る舞いが外部環境との相互作用によって古典的な振る舞いに変わる現象』です。
まずミクロの水で考えると, 水分子は観察される前はスピン方向, 位置, 運動量などの物理量は確定されておらず, 『電子顕微鏡, 分光器など量子状態を測定する装置』 で直接観測すると, 確定します (上の図の小規模) 。次に中規模系では, 水分子が集まると, 互いに影響しあい (相互作用), 量子的な振る舞いは平均化されていきます。
さらにマクロなスケールになると量子的な振る舞いは非常に小さくなり, ほとんど古典的な物理法則が支配するようになり人間が水を見るという行為は水分子の『集合体』を見ているだけにすぎず, 量子力学的な不確定性や重ね合わせの影響を受けず, 水分子を直接観測したことにはなりません。
別の記事で説明しますが, シミュレーション世界がもし実現するなら, この現象はシミレーション世界を再現する上で重要な概念となってきます。
1.3 量子もつれ
光速は秒速30万キロメートルで一定で, あらゆる速度の上限が光速であるのが物理学で公知の知識です。過去に様々な思考実験が行われ, それらは物理法則に反すると確認されています。例えば非常に長いハサミ (数千万キロメートル) を巨人が動かすと刃先は光速を超えるはずです。しかし現実にそのようなハサミを作れたとしても刃先が瞬時に動くわけではありません。ハサミの動きは, 材料内部の力の伝達速度に依存しており, この伝達の速度は光速が上限でハサミの刃先も光速以下の速度でしか動きません。
一方, 量子の世界では一見, 速度が光速を超えるように見える現象が確認されています。これは量子もつれ状態と呼ばれる, 粒子のペアの存在において観測された現象です。量子もつれ状態は人工的に作り出すこととも可能です。下の図では分かりやすいようにペアの粒子を青色と赤色で便宜的に表しています。
この粒子のスピン方向を考えます。二つの粒子のペアは観測前は上向きか下向きかは確定しておらず重ね合わせの状態です。ここで片方の粒子を観測した場合, 仮に青い方の粒子を観測し上向きであることが分かったとします。
すると不思議なことにもう一方の粒子 (下図の右の赤い粒子) は下方向に確定します。これは距離がどれほど離れている (光速を超えるような距離であったとしても) としても瞬時に伝わることが実験によって確認されています。
しかし, ここで注意するべき点は, 量子もつれでは実際に粒子間で『情報の伝達』がなされているわけはなく, 片方の量子の状態が確定した結果, もう一方の粒子の状態が確定しているだけであり, 実際に情報や物質が光速を超えてやり取りしているわけではないということです。本記事では文字数の関係上, 多くは触れませんが以下のように解釈します。
1.4 波動関数の崩壊
波動関数は量子の空間的, 時間的な位置, 重ね合わせの状態を数式 (関数) で表したもので, 要するに量子の状態を言葉ではなく数学で記述するというイメージです。非観測時には量子は波動関数で記述され重ね合わせの状態ですが, 観測後は位置, 運動量やスピンなどが確定し古典的な物理式で定義されます。これを『波動関数の崩壊 (収縮) wave function collapse』と言います。
先ほど粒子のスピン方向は観測前は重ね合わせの状態であり, 特定されていませんが, 観測という行為を行うと『波動関数の崩壊』が起き, スピン方向が特定されると説明しました。そもそもなぜこのようなことが起きるのか不思議です。マクロの世界と照らし合わせて考察していきたいと思います。
例えば現実 (マクロ) 世界でコインを落下させたときを考えます。ここでコインの表裏はミクロ世界の粒子のスピン方向, 上向きか下向きに対応します。
コインが落下しているときはコインは高速で回転しているため表面を上にしているか裏面かどうかは固定されず, どちらとも言えない状態です。これは量子世界の非観測時にあたります (スピンが上向き下向き重ね合わせの状態) 。コインが地面に衝突したときは, コインの運動は止まり表面か裏面かどちらかが上で確定した状態で地面で静止します。この状態はミクロでいう, 観測後の波動関数の収縮時にあたります。
マクロの世界で回転して落下しているコインを強制的に動きを止める外因子的な役割は地面との衝突です。動いているコインの視点からすれば, ものすごいエネルギーを与えられ動きをやめざるを得ないようになったと解釈できます。あくまで直感的な理解をするなら, ミクロの世界でも同じようなイメージでスピン方向が定まったと解釈できます。
マクロの世界での観測 (より正確には観察) は (コインの) 系にはほとんど無視できる影響しか及ぼしませんが, ミクロの世界という極めて小さい系では観測行為が十分すぎるエネルギーのやりとり, (相互作用) がなされていると解釈します。以下, 崩壊 (収縮) が起こる条件を3つまとめます。
特に光に関して言及しますと, 以前の量子学の説明では光は観測される前は波で観測後は粒子としての性質を持つとされていました。しかし, 特にウィーラーの遅延実験結果をみますと『観測後は波動関数の崩壊が起き, 波または粒子としての挙動を示す (∵必ずしも粒子のみではない) 』と説明した方が整合性が取れていると思われます。
2. 二重スリット実験主な実験と年表
これらの奇妙な現象を確認するために行われたのが二重スリット実験です。量子が粒子として振舞うか, 波として振舞うかを確認するために始まった一連の実験群と考えます。実験を行う毎に詳細な解析, 深い考察がなされ, さらに新たな疑問が生まれ現在も未解明なことが多いです。
特に本記事で注目するのは観測 (測定) することで物理量などが確定するいわゆる観測問題, また観測が一見過去のふるまいに影響を与えるかのように見える問題について深堀したいと思います。
電子や光子の代わりに有機分子 (サッカーボールのような構造のフラーレン分子C60) などで二重スリット実験が行われましたが, 他の物質でも同様に干渉パターンや波動性が確認されています。
3. 基本の型 ~ヤングの実験
一般的なイメージの二重スリット実験を以下に示します。
電子銃から放たれた電子 (光源から放たれた光子) が二重スリットを通過した後スクリーンにどのような映像が投影されるかを観察する実験です。その前の用語の使いかたを説明したいと思います。勘のいい方は気づかれているかもしれませんが, これまで『観測』と『観察』を状況に分けて使い分けてきました。観察は主にマクロの世界で見るという行為, 例えば猫が人間を見る場合は観察, 一方, 観測はミクロの世界で量子を機器などを用いて測定する行為に用いています。
前者は見るという行為で被対象物 (=人間) に影響はありませんが, 後者は測定自体が系に影響を与え, 例えば電子 (光子) は観測により波動関数が収縮し, 粒子としてふるまうなどの現象が確認されています。まずは最もシンプルな実験からです。二重スリットに粒子を通過させます。粒子は古典的な球のイメージで例えばピンポン球やパチンコ球のようなイメージです。
二重スリットを通り抜けた球 (粒子) は粒子パターンを形成します。これは直感的なイメージ通り球の形がそのままスクリーンに投影されている様子を表します。
次に光源で実験した場合はどうでしょうか, 光源は裸の電球をイメージします。たくさんの光が出てきます。二重スリットを通り抜けた, 光は波の性質を持っているためスクリーンには『干渉縞』として現れます。
ここでややこしいのは光の二重性についてです。光が粒子と波の両方の性質を持つという二重性があるのなら, 粒子パターンは現れないのかという疑問です。これは後で詳細に説明しますが, 『観測されない』かぎりは粒子としてではなく波としての性質が現れます。
ここで実験を止めてくれていれば, 解釈に苦しむこともなく平和に終わっていたのですが…以降, どんどん複雑な実験を行い人類はドツボにハマっていくのであった。
4. 単一電子 ~メルリの実験
光源 (光がたくさん出てくる) ではなく, 量子一個 (ここでは電子一個ずつを) 飛ばすとどうなるかという実験です。
ここまでの実験結果や直感を信じると電子が『一個』でしかも粒子であることから, 波ではなく粒子パターンを形成して欲しいところです。しかし, 実験結果は予想を裏切るもので『干渉縞』が現れました。これは当時の物理学者の頭を悩ませ (もちろん今この記事を書いている当方も混乱しており) ました。
当時に言われていた直感的な仮説として, 一つの電子が物理的に分裂し半分の状態になり別々のスリットを同時に通り, それぞれの分裂した電子が互いに干渉しあい干渉縞を作るというものです。
他にも電子は粒子として片方のスリットを通過しそのまま粒子としての性質をたもち何らかの影響が働き, スクリーンで投影される際に干渉が起こった説などもあります。(いずれも現在ではコペンハーゲン解釈などで否定されています)
量子力学の奇妙な現象はこれだけではありません。単一粒子を観測した場合としていない場合で全く異なる挙動を見せました。すなわち, 『観測しなかった』時には干渉縞 (波動性) を示し, 『観測した』時には粒子パターン (粒子性) を示すという驚きの結果でした。(この現象が直接厳密に確かめられたのは1990年代の量子消しゴム実験でした)
干渉縞となるか粒子パターンとなるかの決定的な違いとしては, 人間 (装置) によって『観測』されたかどうかという事実のみでした。この現象を初めて見た人は, 『量子は意識をもっている』と感じてしまうかもしれません (現代量子力学では否定的な考えですが..)。人間に『見られた』ときには粒子として振舞い, それ以外は波として振舞うという風に。
5. 遅延選択実験 ~ウィーラーの実験
『過去の情報を書き換える』量子力学の実験としてセンセーショナルに宣伝されることになる有名な実験です。この実験は二重スリットを通過した時刻よりも, 後の時刻に観測が行われ, 観測結果により通過した時刻の挙動が変わるように見える不思議な実験です。※スリットを使っていないので厳密には『二重スリット実験』には含まれません。
5.1 過去を変えるマジシャンの話
直感的な説明のためまずはマクロで以下の話を考えてみました。ここは中世の劇場。あるマジシャンが観客の前にいます。箱の中には白, 黒, 白黒の猫が入っており, 観客の望む色の猫を出せると言っています。
観客の一人が『白猫を出してください』といいました。すると中から本当に『白猫』が現れました。たまたまだと思い, 観客が方々から希望する色の猫を出すように言いました。
今度は観客が望んだとおりの色の猫が箱から出てきました。ここでマジシャンは言いました。『私はタイムトラベラーです。皆さんが希望した猫の色を覚えて過去に遡りました。あらかじめ箱の中にその色の猫を入れたんです。』観客一同『まさに奇跡だ!』
これが量子力学における, 過去を遡っている (過去の情報を書き換えた) ように見える量子の挙動の全体像です。後ほど, このマジックの種明かしと共に量子の挙動も説明していきます。
5.2 実験の概要と実験結果
遅延選択実験の装置図 (光学系) を示します。
各装置の説明です。
① M (mirror) ミラー:入射した光を100%反射し進路を90度曲げます。いわゆる鏡です。② BS (beam splitter) ビームスプリッター:分光, 光を分けます。入射した光を一定の割合で分光します。今回の実験では50%がそのまま透過し, 残り50%が反射しています。量子力学的には単に「光を分割する」だけでなく, 「量子状態を重ね合わせにする」役割を果たしているとのことです。いわゆるハーフミーラーはこの類です。
③ PD (photon detector) 光子検出器:やってきた光を検出します。光を電子エネルギーに変換し測定します。後述しますが, この測定行為 (経路情報を取得) は量子系と相互作用することにあたり, 波動関数崩壊を引き起こし, 波としてか粒子としてかの挙動が決定します。いわゆる観測者です。
実験方法は主に下の③つです。
① BS2を設置した場合
ビームスプリッター2 (BS2) を設置したときの挙動を下に図示します。
結果の解釈としてはBS1に到達した単一光子は確率波としてそのまま透過する波, と反射する波が重ね合わせの状態となります。それぞれが再びBS2で透過, 反射し検出器1と2に向かいます。
PD1へ向かう合成は弱めあい, PD2へ向かう波は強めあい干渉パターンを示します。
強めあうか弱めあうかの理由については補足Chapter 位相のはなしのはなしで解説しています。
② BS2を撤去した場合
次はBS2を取り除いたときの実験です。
BS2を取り除くと, 光子が粒子パターンとして登場しました (50%の確率でPD1, 50%の確率でPD2に)。一見, 粒子としてパターンが描かれているのならそれぞれの経路を粒子として通過したように見えてしまうのがこの実験の最大の落とし穴 (先ほどのインチキマジシャンのくだり) です (↓図)。順に解説していきます。
先ほどのBS2があるときと今回のBS2が無い時の光子の挙動は全くことなりました。前者は波, 後者は粒子でした, 量子力学的に決定的に違う点は, 経路が特定できるかどうかです。下図のように, 粒子性を示したBS2が無いときは, PD1に入る光は経路1からのみ, またPD2は経路2からのみです。これを量子力学では経路情報(which-path information)の取得といいます。
一方, BS2があるときはPD1, PD2に向かう光は経路1, 経路2いずれの経路からも侵入する可能性がある, いわゆる『経路情報が取得できない』状態です。このようなときは粒子パターンではなく, 干渉縞を形成します。
続いて本実験の最も重要な結果である遅延選択について述べます。
③ 遅延選択(BS2の配置を光子がBS1を通過した後に選択)
①と②は『初め』からBS2を置くかどうかの選択を決めた実験でした。③遅延選択は光子がBS1を通過してからのタイミングで遅延してBS2を置くかどうかを選択します。この実験の意義は古典的な考え方であれば, もしも粒子としてBS1を通過したのであれば, BS2を設置しても波動になるわけがない, もしも粒子として通過して, 後から干渉が起きれば過去を置き換えているように見えてしまうということです。
結果は予想を見事に裏切ってくれました。
とくに前者の結果 (BS2を後から設置したときに干渉縞を示した結果) は一見実験結果②と矛盾しているように見えます。②ではBS2を置かないときは粒子パターンとなるというものでした。時系列で整理し, キーとなる時刻を以下の4つの時点で考えてみます。
②でBS2を置かない場合は粒子としてパターンが観測されていますので, 直感的にはBS1を通過し (T1), 経路を通っている時 (T2) には経路1か2を粒子として存在していると考えたくなります。
しかし, BS2 を設置し (T3), 検出器で観測された (T4) あとには干渉縞として波のパターンとして確定しています。この時点 (T4) から振り返ってみるとやはり, BS1と経路1 (2) は波として通過していたのではないかという矛盾が生じるように思えます。
5.3 過去を変えるマジシャンの種明かし
冒頭の過去を書き換えるマジシャンのトリックは以下の通りです。箱にはハチワレの白黒ロボットを予め入れていました。このロボットは遠隔操作で毛皮が白か黒 (粒子) に変化します, もちろん白黒 (波) のままで色を変えないことも可能です。マジシャンはポケットの中にリモコンを忍ばせ, 観客の色を聞いたのちにリモコンで色を決定します。
遅延選択実験とマジックを時系列ごとに対比させていきます。下の図は全体の流れです。各時間ごとに起きている現象を説明します。
T1:BS1を通過したとき
光子は粒子ではなく波としてBS1を通過しました※。量子力学の大原則として観測が行われなけれないなど波動関数が崩壊してない限り光子は『波』として振舞います。マジックでは白黒 (波) の白でも黒 (粒子) でもない猫が箱に入ります。(※ 『波』として重ね合わせの状態にあるということです。T4で観察されるまで波として確定していません。分かりにくくてすみません…)
T2:経路を通過中
重ね合わせの状態で, 経路1と経路2を確率波としてそれぞれ50%の確率で存在しています。マジックではまだ猫の色は確定しておらず, 白か黒に分かれる (粒子), そのまま (白黒, 波) いずれでもなれる可能性を同時に持った状態です。
T3:遅延選択 (BS2を置くかどうか決定)
光子がBS1を通過した後, 検出器に到達するまでの間にBS2を置くかどうか決定します。この行為は波として振舞うか粒子として振舞うかの選択に関わりますが, この時点では波動関数は崩壊しておらず, どちらかには決定していません。一方, マジックではリモコン操作で白黒のまま (波) か, 白か黒 (粒子) かを選択します。しかし仕様上, 実際に色がかわるのは箱から出てからとなります。
T4:検出器で光子が検出
検出器に到達した光子は経路情報が確定しているとき (BS2を設置していないとき) は粒子パターンを示し, 確定していなければ波 (干渉縞) を示します。マジックでは箱から出てきた猫の色が確定します。
過去を変えているように見える点として, 実験ではT3でBS2を設置するかどうか決めた行為の結果がT1の光子の状態 (粒子か波動か) が変わっているようにみえることです。一方, マジックではマジシャンが観客から希望の色の猫を取り出し, 過去に遡りT1でその記憶を元に同じ色の猫を入れたこと述べたことでした。以上がこのマジックのトリックです。
もともこもない話ですが機器による観測ではなく, 超能力 (心眼) などで直接スリット (ビームスプリッター) を通った時の状態を『観測』できる悪魔がいたら解決するかもしれません。
もしも中世の時代に間近でこのマジックを見たら, マジシャンが言うように本当に過去を変えているようにしか見えないと思います。もしも当時の人にリモコンの無線通信技術で猫の色を変えたと言っても, タイムトラベルと同じくらい非現実で信じてもらえないでしょう。
遠い未来, 量子のメカニズムが解明され, 波動関数の崩壊, もつれに関して今のリモコン技術と同じくらい理解されると, 時間巻き戻しよりは受け入れやすい概念かもしれません。
6. 遅延選択実験の結果考察:パラドクス
以下の表に時系列でみたときに光子が粒子, 波いずれの状態で存在し得るかをまとめました。繰り返しになりますが, ビームスプリッター1 (BS1) を通った時刻 T1では波としてしか存在しえずに, その後の遅延選択でT4の観測時点ではどちらでもなり得ます。
6.1 過去を書き換えているように見える現象について
T3でBS2を非設置と選択した場合を考えます。非設置の場合はT4で粒子が検出され粒子パターンが観察されることになります。
その場合T1でどのような状態であるかをChatGPTに聞いてみました。
遅延選択で非設置を選択したときT1 (BS1を通過したとき) の光子の状態を教えて下さい。
誤解矛盾を生むような解答です。いずれ確定するという言い方です。この言い方であれば, 粒子として特定の経路を通る可能性があるという解釈が出来てしまいます。先ほどの表ではT1, T2では波としか存在しえないと言いました。しかし, GPTは遅延選択の結果によっては『粒子として特定の経路を通る』可能性があると述べています。これをそのまま解釈すると
しかしこれは誤りと考えます。実際, 粒子パターン (BS2非設置) が観測された場合でも特定の経路を通っていたと考えるのは誤りです。なぜこのような誤りが生まれてしまうかの考察は以下です。
T4の時点で粒子として観察されているのであれば経路情報 (which way information) が確定し特定の通路を通ってきたと考えてしまうところに落とし穴があります。結論から言いますと実際には特定の経路を通っているわけではなく, T4の観測時点でどちらの経路を『通ったように見える』情報がえられたと解釈することが, この現象を理解するのに妥当ではないかと考えます。
6.2 いつ波動関数が崩壊したか?
この実験結果ではBS2を置かない選択をすれば, 『粒子パターン』が現れると言いました。サラっといいましたが, 一見すると大きなパラドクスが見えます。粒子と言っときながら検出器に入ってきたのは本当に粒子なのかという疑問です。
これはおよそ卵ニワトリ問題に思えてきます。AIに卵が先かニワトリが先かを質問すると答えがループしたり, 混乱して毎回違う答を出したりしてしまいます。
これと似たような挙動がみられました。AIに遅延選択時にBS2を置かない選択したときの, 光子の状態について質問してみます。
観測器に検出される直前 光子の状態はどちらですか?
これに対する答えは『波』でした。つづいて何度も, 『検出器に入る前の状態は?』や『入ってきたときの状態は?』と尋ねるとそのつど答えが変わり, 波や粒子など答えが一定しません。
これはいうなれば, コンビニにニワトリ (波) が入ってきたはずなのに店員さんが確認したときには卵 (粒子) だった場合に似ています。
観測, 波動関数の崩壊はいつ起こったのかという事を考えることが, 本質的な解答に繋がります。① 遅延選択により, BS2を置くか置かないかという選択は, 経路を特定できるかどうかの選択, 将来, 粒子として観察するか波として観察するかを決めただけです。② 検出器に入る直前は光子が経路を通り切ったあとで, その時点で経路情報が取得されたように直感的に思われるかもしれませんが『量子学的な』経路情報は取得されていません。
③ 検出器に入る瞬間に, 検出器による『観測』が行われ, その時点で波動関数が崩壊, 波としての性質が失われ, 特定の経路を通過したようにみえる, いわゆる経路情報が取得されたという順序です。
7. 遅延選択実験の結果考察:波動関数の崩壊
そもそもなぜこのような不可思議な現象が起こるのか, 過去を変えるように見える現象など, 解釈が非常に難しいこれらのメカニズムをマジシャントリックみたいな直感に訴えるような説明ができたらと思います。Chapter 1.4 のおさらいですが, 波動関数の崩壊の3条件は以下です。
このうち遅延選択実験で特に関わりが深いのが1. 直接相互作用です。
7.1 直接相互作用 Direct Interaction
さきほどのコインの例の繰り返しとなりますが, 落下中のコインの状態を想像します。表面が上か, 下かという観点では回転しながら落下しているのであれば, 状態は『不確定 (不安定)』で確定しません。地面との衝突という形でこの系 (コイン) に相互作用 (エネルギーのやりとり)が発生します。その結果, 不確定さが崩壊し, 裏面か表面かに確定されます。
この地面との衝突に共通した量子の行為は『観測』です。マクロの世界では何かを見る (観察) という行為は大きなやり取り (相互作用, エネルギー的な観点も含めて) は発生しません。しかし, ミクロの世界では系の状態を変えるに十分な相互作用 (エネルギー的には必ずしも大きいかどうかは別として) が生じます。下の図は検出器に入ってきた光子と電子のやり取りを示しています。
光子は検出器内の半導体結晶の電子と相互作用し, その結果, 電子はエネルギー準位の異なる電子軌道 (励起したと言います)に移ります。その代わりに光子は波 (または粒子) の状態から, 収縮し粒子へ変わります。
7.2 経路情報 Which-path information の取得
経路情報の取得の有無が波動関数の崩壊, 波動性, 粒子性にどのように影響があるのか, また, 単に『情報』の有無のみで結果が変わるのか議論が分かれているところです。
経路情報の取得 (消去) のみで波動関数の崩壊, 復活がなされているように見えるのは
量子の世界では『情報』のみが状態を変えるという事ですか?
実際AIに純粋な『情報』のみが物質の状態 (ここでは光子の波動性) を決定することがあるかどうか聞いてみたところ, 『単に情報の有無が結果を与える』とニュアンスの解答がありました。
しかし, この解答は純粋なコペンハーゲン解釈の範疇から逸脱した内容であり, 多世界解釈論などの非主流の考えがとりこまれており, その意味では『誤り』ではないかと考えます。
下の表に遅延選択実験における, 経路情報取得と波動関数の崩壊についての全体像を示します。非常にややこしいので, 順を追って説明します。
まずはT4でBS2を設置しないで粒子パターンが観測されたときを考えます。
T4で光子が検出器に入った時点で波動関数の崩壊が起きます。これは機器による観測が行われたと解釈します。波動関数の崩壊は古典的には『波動性が消失し粒子性を得る』とされていましたが, 現在の主流は『崩壊自体が波動性・粒子性を確定するのではなく, 広い意味の観測方法によってそれが決まります』と考えます。
どういうことかと言いますと, 波動関数の崩壊=粒子性獲得ではなく, 粒子性を確定するためには経路情報の取得が条件になります。ただここでも話をややこしくするのが経路情報の取得, 確定も定義があいまい?のためか解釈を難しくします。
時系列ごとに考えると, 経路情報の取得そのものは観測にあたり, 波動関数が崩壊します。この時点では波か粒子は確定せず本実験では, 経路情報が取得されていることをもって粒子性が固定されています。どちらの経路を通ったかに関しては検出器を見てみないと分からず, 実際観測された検出器をもって経路情報は確定されますが, 過去のその時間に粒子として通ったとはなりません (やはりその過去の時間は確率波として存在)。
次はT4でBS2を設置したときの場合を考えます。直感的には, 波として干渉縞が観測されているので, 経路情報も取得されない, 波動関数も崩壊しないと考えてしまうかもしれませんが主流のコペンハーゲン解釈は異なります。
光子が検出器で観測された時点で光子と検出器内の電子が相互作用し, 波動関数の崩壊は起こります。しかし崩壊=波動性が失い粒子性が出現するではなく, 最終的な観測結果は『経路情報を取得 (確定)』できるかどうかに依存しています。この実験では経路情報を取得できないため, 依然重ね合わせの状態が維持され, 干渉縞を示します。
一言でまとめると『観測が行われたが, 経路情報が取得されなかったため, 光子は波として干渉パターンを示す』と表現します。
というわけでBS2の遅延選択において, 設置するかどうかの条件で波動関数の崩壊という視点から『経路情報の取得』の意味が異なることが分かりました。
8. 遅延選択型量子消しゴム実験 Delayed-choice quantum eraser experiment
直感的には時間を遡るかのうように見えた挙動など量子力学の不可思議な現象は本質的には先ほどの遅延選択実験+コペンハーゲン解釈でほとんど説明がつきます。という訳で1999年, 量子消しゴム実験で新たに発見された興味深い知見に関しては簡単に紹介したいと思います。結論から言いますと, 今回の実験結果の解釈でも基本的なスタンスとして『過去の挙動を変えることはできない』ことで説明していと思います。
過去を書き換えることができるかについて
現代の量子力学の実験で以下は確認されていますか?
1. 観測された干渉縞が遅延選択で粒子パターンに変更される
2. 観測された粒子パターンが遅延選択で干渉縞に変更される
8.1 これまでの実験との相違点, あらたな疑問
ウィーラーの遅延選択実験との大きな違いは『遅延選択のタイミング』と『経路情報の消去による波動性の復活』にあります。
遅延選択実験では遅延選択した時期は検出器に光子が入る『前』で量子消しゴム実験では光子が入った『後』であり, 時間を遡っている感がより強く感じとれてしまいます。しかし, 時間巻き戻しに見えるトリックは遅延選択実験のときと同様, やはり, 観測が行われ, 経路情報が得られた時点 (今回は量子もつれによる確定もありますが) でパターンが確定するというものです。
また, 経路情報の取得を遅延して消去するというによって, 波動関数が崩壊した後に干渉パターンが復活するように見える, いわゆる波動性の復活 (The revival of wave interference) という概念が新しい点です。
8.2 波動性の復活 The revival of wave interference
遅延選択実験の粒子パターンが確定したときの例を振り返ります。遅延選択でBS2を置かない場合, 検出器に光子が入った時点で観測 (経路情報の取得とほぼ同意義) が行われ, 波動関数が崩壊しその後, 粒子パターンが確定します。
この条件の実験結果から, 直感的な観点から, 『経路情報を取得する』という行為は本質的には, 検出器内において『光子と電子が相互作用する』という解釈が成り立ちそうです。その結果, 波動関数の崩壊や粒子パターンの確定などが起こりました。
簡略化すると, 相互作用によりエネルギーのやり取りが起こり, 波動関数が崩壊し, 波動性が失われ粒子性に確定したと言えます。
一方, 量子消しゴム実験では, 一旦, 経路情報を取得し, 粒子性が獲得 (粒子性と振舞うことが決定しましたが, 実際に干渉パターンが観察されたわけではないです) され, その後, 遅延選択で経路情報を消去し, 最終的にはスクリーンに干渉縞の信号パターンが観察され波動性の復活が確認されています。
粒子性が獲得され, その後, 波動性が復活したということは, 一度観測によって相互作用により波動関数が崩壊し, その後, 再び経路情報消去によって『波動関数』が復活したというふうに感じるかもしれません。光子と観測機器との間で相互作用, エネルギーのやりとりは確かにあったが経路情報の『消去』によってそれを『なかったことに』するという考え方です。
しかし, その考えは誤りで波動関数の崩壊は非可逆性, 一旦波動関数が崩壊するとそれを元通り, 無かったことにすることは出来ません。
量子消しゴム実験において, 経路情報の消去によって, 『波動性の復活』が起きるように見える
メカニズムについて解説してください。
この実験の本質は一言でいうと, 過去を書き換えるわけでもなく
物理量のやりとり (相互作用) をなかったことにするのでもなく
新たな量子系を再構築したということですよね。
9. まとめ
以下, 本記事のまとめです。主に『過去を変えることができるのか?』の疑問をテーマに作成しました。
本記事の総括をお願いします。主に『過去を変えることができるのか?』をテーマに遅延選択実験,
量子消しゴム実験の結果についてまとめをお願いします。
補足 位相のはなし
遅延選択実験
本編では敢えて位相などの言葉を使わずに直感的な説明を重視しました (∵数式や専門用語など多くなりがちなので)。以下ほんの少し詳しめに「干渉する原因」について述べます。光の波の振幅を簡単に y = sin(x) として表すことができます。この波の1サイクル (周期) は 360°, または 2π ラジアンで表されます。波が1周期を通してどの位置にあるかを示す指標を「位相 (phase)」と呼びます。
同じ波長, 周波数の波を合成するとき, たとえば位相差が0°であったり, 360° (2π) の整数倍の場合, した図のように全く『同じ』波を合成することになるので振幅が2倍の合成波が出来上がります。これを強めあう (constructive interference) と言います。
一方, 位相差が 180°, 540°, 900° など (180°の奇数倍) の場合は波の山と谷が互いに完全に打ち消し合い (destructive interference), 合成波の振幅がゼロとなります。このとき2つの波は逆位相 (anti-phase) であると表現されます。
ノイズキャンセリングの技術はこの原理を使用しており, 環境音 (ノイズ) の逆位相の波をイヤホン内で作り出しているとのことです。
先ほどの実験装置において, それぞれの経路でどのような位相のずれが生じるか考えてみます。まずは各ミラーで以下のずれが生じます。
光波が経路1 (ミラー1を経て時計回り 青の部分) を通って検出器1に到達する場合と経路2 (ミラー2 反時計回り ピンク) を通って検出器1に到達する場合の位相の差 (相対位相差 Relative Phase Difference Δϕ) を考えてみます。
ϕ経路1はビームスプリッターを直進 (0), ミラー1を反射 (π), ビームスプリッター2を直進 (0) し検出器1にすすむ経路です。そこで生じる位相差 (合計位相シフトΦ1) のことで0+π+0=π となります。同様にϕ経路2はBS1で反射 (π/2), ミラーで反射 (π), BS2で反射 (π/2) する経路の位相差で π/2 + π + π/2=2πです。
πということで打ち消しあい, 検出器1では検出されないという結果になります。次に検出器2に入る光についてですが。同様に経路1と2から向かう光の合成を考えます。
位相差は無くなり強めあいます。