河川争奪がもたらした都会のオアシスを歩く ~東京・世田谷 等々力渓谷~
東京にある渓谷といえば・・・、等々力渓谷というものがあると聞いたことがあるので、ちょうど東急線のワンデーパスを手にしたので、途中下車して行ってみたいと思い立ち、ふと等々力駅に降り立ったのでした。
■等々力渓谷とは?
等々力渓谷とは、東京都世田谷区にある渓谷です。渓谷をつくる川は、谷沢川という名前の川です。国土地理院の地形図の等高線図を描いてみると、等々力駅の南側に、比較的深くて狭い谷があることが分かります。これが等々力峡谷です。
この地図を見て、ちょっと違和感を感じる方、いませんか?等々力駅付近の谷は、本来黄色い色の高さの緩い谷が、東急大井町線沿いに、「等々力駅」から「尾山台駅」方向に続いています。これは、本来「九品仏川(くほんぶつがわ)」という川が作る谷です。そこに、南から谷沢川の深い谷が台地を削って合流している感じになっています。実は、かつては等々力駅から上流部分も、九品仏川の流域であったのが、谷沢川が台地を削って九品仏川の上流部の流域を奪い去った跡、なのです。こういう現象を、地理学では「河川争奪」と呼びます。
もっとも、この等々力の谷沢川については、九品仏川の水はけをよくするために人工的に開削したとする説もあるようです。いずれにしても、今は谷沢川にはかつての九品仏川の上流部の水も流れ、台地を深く削る部分が、「渓谷」のようになっている場所が、「等々力渓谷」なのです。このへんは、こちらのサイトにも詳述されているので、詳しく知りたい方は是非ご覧ください。
前置きが長くなりましたが、等々力駅から歩いてみたいと思います。
■レトロな駅、等々力駅からスタート
等々力駅は、東急大井町線の自由が丘駅と二子玉川駅の間にあります。渋谷からも20分くらいで到着する、東京都世田谷区の住宅街に駅があります。
そして、商店街には、先日のパリオリンピックで金メダルを獲得した、藤波朱理さんを応援する横断幕が。近くの日本体育大学在学中だとか。近所の方の「推し」が世界一になるとか、素晴らしいですね。
■等々力という地名の「謎」
ちなみに、等々力と聞くと、多摩川の対岸、川崎市のJリーグチーム、「川崎フロンターレ」の本拠地を思い浮かべる方もいらっしゃいます。最寄り駅は、対岸を走るJR南武線の「武蔵中原」駅など、です。間違ってこの駅で降りると大失敗、みたいな場所。なんでこんなことに?と不思議な場所ですが・・。
この地域、かつて多摩川が蛇行していて、川崎の等々力緑地は、かつては「多摩川の左岸側」(東京都側)にありました。その証拠に、今昔マップでは、等々力緑地付近にかつての蛇行跡があり、等々力緑地が「東京都」だったころの地図が残されています。お隣の「下野毛」も、東京都の対岸にある、「野毛」地区と同じ東京都でした。
■等々力渓谷を歩く
さて、駅前の商店街から、等々力渓谷を目指します。
で、この「ゴルフ橋」という名前の橋がちょっと気になると思いますが・・。実はこの橋の向こうに、東急の前身、目黒蒲田電鉄が戦前に作った、「玉川ゴルフコース」という小さなゴルフ場がありました。戦時中に、軍の施設となり廃止され、クラブハウスは空襲で焼けてしまったとか。その後公務員住宅になりましたが、今は取り壊され、公園になろうとしているところです。
何故通行止めかというと、昨年度の猛暑で、遊歩道で倒木が発生したので、調査して樹勢が弱っている木を伐採せざるを得なくなったのだとか。この渓谷の公園を管理する世田谷区の「苦肉の策」ともいえる対応状況です。
最近、東京都日野市でも倒木の下敷きになり、人が亡くなったばかりです。公園などの豊かな森林と、樹木の健康管理、最近はとても重要でかつ、悩みの多いトピックになっているようです。
ということで、今も通行止めになっていない場所まで歩いてみましょう。
そこは、もう少し下流にあるので、下流を目指します。途中に出てくるのが、こちらです。
さすがに、都市部の河川なので、昔ながらの岩肌ゴツゴツ、という雰囲気ではありませんが、深い谷底に水が流れる川は、渓谷と呼ぶにふさわしいものでした。
等々力不動尊は、丘の上の住宅地に近いところにあり、階段を降りると渓谷があるという、なかなか楽しい散策スポットです。
■終わりに
渋谷駅から、わずか20分足らずで到着する世田谷区の住宅地にある、東急大井町線等々力駅。レトロな駅、河川争奪の末に生まれた、丘を削り取った深い谷の渓谷、ゴルフ場の跡地、弁財天など、何だかとても面白い場所満載のスポットです。こんな魅力的な場所なので、是非再訪したいと思いました。