■黒部川に土木の魅力を訪ねる■②宇奈月温泉周辺を巡る
黒部川の電源開発プロジェクトの拠点として大正時代に開発された、宇奈月温泉。その場所にオフシーズンの真冬に訪れました。前回は、富山駅から新幹線と富山地方鉄道を乗り継いで宇奈月温泉までの道のりを紹介しました。(前回の記事はこちら)
今回は、宇奈月温泉周辺の様子をレポートします。
■宇奈月は、水路の宝庫
こちらは、国土地理院の地形図で宇奈月温泉周辺を見たところです。宇奈月温泉より上流には、これだけ広い平坦地は無いので、この場所に電源開発の工事拠点を作るのは必然だったのではないでしょうか。そして、特筆すべきは、いくつもの地下水路を示す「点線」があることです。点線の多くは、上流のダムから下流の発電所まで水を運ぶ地下水路です。黒部川の発電所は黒部川第四発電所まであります。「黒一」と呼ぶべき発電所は、宇奈月温泉の少し上流に過去にあった、「柳河原発電所」です。これは、宇奈月ダムが完成した平成4年にダム湖に沈んで今はありません。ここから上流に、黒二・黒三・黒四の発電所や、上流にダムができるたびに「新黒二」「新黒三」のような発電所もできており、それらの発電施設とダムを結ぶ水路がいくつも繋がっています。
実は、発電以外の水路もこの地図の中にあります。正直なところ、そういう土木施設が沢山集まっているところだと知り、驚きました。宇奈月温泉付近をクローズアップした地図で見てみましょう。
興味深い水路の一つは、「十二貫野用水」です。黒部川は水量が豊富ですが、その少し南側の「十二貫野」と呼ばれる地区は、水が得にくい場所でした。そこに水を引くために、江戸時代にその地よりも標高の高い、宇奈月温泉の上流の尾沼谷川からはるばる20km以上もの距離を水を引きました。今はトンネル化された部分も多いですが、今も昔も地域を潤す用水路。こういうものが作れる技術力は、実はとてもすごいことだと思います。
もう一つの興味深い水路は、宇奈月温泉のお湯を上流の源泉・黒薙温泉から引いている、「引湯管」です。大正時代に設置された管。1980年代に宇奈月ダムの建設に伴い、新しいルートに付け替えられたそうですが、今も上流からお湯を運ぶインフラが存在します。
この「引湯管」ですが、実は意外なところで有名なのだそうです。引湯管が一部無断で他人の土地を拝借してしまっていたようで、それが原因で発生した「宇奈月温泉事件」という裁判。これが法曹界では有名なのだとか。現地には石碑もあるようで・・。なかなか興味深い水路のお話でした(笑)。
■宇奈月温泉付近を歩く
さて、すごく前置きが長くなったところで(笑)、宇奈月付近を散策した様子を紹介します。
宇奈月温泉周辺は、珍しい石がたくさん見つかるそうで、「ジオパーク」に選定されています。駅前に「うなジオ」というジオパークの交流施設があります。
宇奈月からのトロッコの線路は、除雪されていないので雪が積もっています。除雪しないとこんなにも雪が積もるのかと実感しましたが、訪れた時は宇奈月では異例の少ない雪の時期だったとのことでした。観光スポットの脇に、さりげなく発電所に冬場に歩いて向かうための歩廊が顔を出しているのが、やはり黒部なのだと実感させてくれます。
宇奈月温泉付近の真冬の散策は、ここまで。次回は宇奈月ダムや下流の黒部市内のことを少しご紹介したいと思います。
■終わりに
本来は、宇奈月温泉には夏場に訪れ、ここを拠点にして上流の黒部キャニオンルートになる部分を探索したいと思うのですが、今は真冬なので、宇奈月に行ってもあまり面白くないのでは?と思っていたのですが、そんな予想を良い意味で裏切られた感じとなった宇奈月の街でした。黒部川開発を目指した人の拠点となった宇奈月や下流の黒部川流域の人たちも、この黒部川の水や温泉などの天然資源をうまく活用し、土木工事によりその恵みを享受していることを改めて知り、魅力的な街であると実感したのでした。