【南大沢土木構造物めぐり】No.93 大学セミナーハウスを訪ねて
ゴールデンウィークに美術館巡りをするきっかけとなったのは、地元・八王子市の下柚木地区にある、「大学セミナーハウス」に訪れたからです。多摩ニュータウンに隣接する下柚木地区の野猿峠に近い場所にあるこの施設。不思議な建物が異彩を放つ場所ですが、実はル・コルビュジエの弟子である、建築家・吉阪隆正さんの代表作の一つだということを知り、それをきっかけに2つの展覧会をハシゴしてきたのでした。
(前回の投稿はこちら)
今回は、その「大学セミナーハウス」で、「DOCOMOMO-Japan」(モダン・ムーブメントにかかわる建物と環境形成の記録調査および保存のための国際組織)が主催する、文化遺産としてのモダニズム建築展が開催されていたので、それを見学しつつ、セミナーハウスを歩いてきましたので、その模様をお伝えします。
■大学セミナーハウスとは
大学セミナーハウスは、1965年に開業した合宿施設であり、国公立・私立の枠を超えた大学の交流などを目的に作られました。1965年といえば、多摩ニュータウンの新住市街地開発事業のエリアが決まり、開発がスタートしたときであり、開発の歴史を遠くから眺めてきた場所です。開業から57年が経過し、一部古い宿泊施設を取り壊して建て替えるなどのリニューアルも進んでいますが、特徴的な建物の本館などは健在で、とても特徴的な建物となっています。
DOCOMOMOという団体は、モダン・ムーブメント(モダニズム建築ともいわれる)の重要性を一般市民に広めるべく、これまでに250のモダニズム建築を紹介し、その利活用や建築史的な価値を認識することなどを活動しています。その建築物を紹介する展覧会が、セミナーハウスで開催されたのです。大学セミナーハウスは、No.19として登録されています。
セミナー室で開催されている展覧会を鑑賞しています。ピラミッド状の不思議な空間の中で、DOCOMOMOが推薦する250の建物の保存等の状況について紹介するイベントです。
展示されている建物は、こうして図面や建設当時の写真を見ると、とても素晴らしい建物だと再認識するのですが、おそらく老朽化しているから、とか、耐震性能を満たさない、などの理由でやむなく解体するものも少なくないようで、この都城市民会館は、2019年に解体されてしまいましたが、その際にもDOCOMOMOが保存等を訴える活動をしています。最近解体が始まった、銀座の中銀カプセルタワーも、同じようにDOCOMOMOの250選に入っています。
この展覧会を見ていると、モダニズム建築がとても素晴らしいものであることを再認識しつつ、それをどのように利活用しつつ、後世に残していくかと言うメッセージを強く感じることができました。
建築の設計の3要素に、
用:使用するのに使いやすいこと
強:十分な強度を持っていること
美:すぐれた意匠であり、美しいこと
があると教わりました。古い建物は、「美」という意味ではエイジングでの陳腐化の問題がありますし、特に「用」については、時代の変化に対応しきれなかったり、「強」についても、新耐震基準を満たさないなどの課題があるので、建物を生かしながら維持し続けるのは、なかなか難しいことも多いようです。
大学セミナーハウスは、ひょっとするとあまり潤沢な資金を持っていないことが幸いしてか(苦笑)、本館などの建物をそのまま使い続けています。但し、宿泊棟などは、陳腐化しないように新しい宿泊棟を建設するなど、工夫しながら施設を維持しているように感じます。その建物群、とても個性的なものを歩いてきたので紹介します。
■大学セミナーハウスの建物群
セミナーハウスは、1965年の開業から何度かにわたって増築され、最近では古いコテージ等を壊して新たな宿泊棟やレストランを作るなど、だんだんと進化しています。ところどころ老朽化している場所もありますが、きれいな宿泊施設やレストランもあるので、古い建物を生かしながらうまく活用している例でもある気がします。
■終わりに
わが街・南大沢から歩いて行ける範囲にある、昭和の名建築・八王子大学セミナーハウス。吉阪隆正さんの設計した建築物の中で開催された、DOCOMOMOさんの展覧会。モダニズム建築を広め、利活用・保存をしたいという動きもあります。この大学セミナーハウスも、とても素晴らしい建築がたくさんありますので、後世まで残ってほしいと思いました。