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【読書感想文】森達也『歯車にならないためのレッスン』



【解説】
人間は群れたがる生きものである。でも、だからこそ、僕たちには違和感を忘れないための訓練が必要だ。

過剰に安心・安全が求められるセキュリティ社会。不安や恐怖を煽られたひとびとは、群れ、馴れ、そして個を失う。その先に待ち受けていたのが、政権の暴走であり、死刑の追認であり、「自粛警察」の跋扈だった。

集団化に走る社会の「歯車」になることを拒み、負の歴史がつくってきた轍を二度と踏まないために。反骨のドキュメンタリストが倦むことなく違和感を表明してきた、この6年間の思考の記録



ようやく読了。
森達也はこれで14冊目。


2017〜2022年までの間にいくつかの雑誌に寄稿された原稿をその年ごとにまとめたアンソロジー、ですね。
349ページ。 
長いけど短編集みたいな感じなのでじっくりメモを取りながら読み進めた。
(なにせ「レッスン」だから)

森達也は他の著書もどれも目から鱗なんだけど、これ一冊で世の中で起きてる事の見え方がかなり変わる。
あらゆる事を多面的に見て分析している。

確かにタイトル通り、歯車にならないための「レッスン」だなと。
気持ちの持ち方が変わる。

不安や危機をを煽るような情報を目にしても、暴走せずに一旦立ち止まって考える癖が身について行く感じがします。


いやまあ昨今の不穏な世の中、色々ありすぎるので瞬間的にはカーッとなる事もあるんだけど。
でも、そのまま暴走しっぱなしにならず、ちゃんと落ち着きを取り戻す事が出来るようになってきた、立ち止まって俯瞰する癖が身についてきた、といった感じです。

森さんが常にあちこちの著書でも重要視している、物事を「多面的に見る」
その力を鍛えてくれる一冊、でもありますね。


まず「群れ」としての人間の本質を徹底的に学べる。
そこをきちんと自覚出来てるかどうかで自分の意識の持ち方が変わるように思う。

人はどうしたって流される生き物だけど、「流されている」自覚があるのと無自覚なのでは起こす言動もだいぶ変わってくる。


「流される」「群れる」
は、そんなにいけない事なのか?

と、言ったらまあ歴史を見ると戦争や虐殺、グループ犯罪、いじめ、炎上、少数派の排除、差別…みんな集団暴走だしなあ。
「流される」は負の方に働くと大規模な悲劇となりやすい。


あと「自由」
響きは良さげだけど、群れで生きる生き物である人にとって自由というものは実はとても怖いものらしい。

だから束縛を求める。無自覚に。

群れで生きる生き物は常に固まって同じ動きをする事で安心を得られる。
だから違う動きをする少数派に対して強い違和感を抱き、不寛容になり排除したがる。


そして「危機管理意識」の孕む危険性。
警戒する事が何を招いて来たか。

これはかなり重要なポイントでした。

高まれば高まるほど「自衛」の大義が出来る。
気づけば何もしてない相手に「自衛」を大義に先制攻撃までしてしまう。



帯にある
「群れ、馴れ、そして個を失ったこの国で。」

「集団化」「危機管理意識」の暴走が何を招くのか、世の中で知らず知らずに起きる悲劇に自分がどう関わってしまっているのか
「群れの一員」としての自分の在り方を考えさせられます。

微力な人間も、「群れる」とあっという間に大きな力になってしまう。
そしてあっという間に群れる。
あっさりと「微力」ではなくなる。
群れで生きる生き物が強く生き残るシステムだ。

この性質、ほんといい方に活かせないものかなと。
災害支援とかではいい方に行く事もあるから、もっと優しい集団化が出来れば良いのになと思う。

両方ある。あるけどね。
負の方に働いた歴史が悲惨すぎるのだよね。


先入観を持たずに世の中で起きてることをフラットに見ていきたい、といつも思うのだけど
自分がいかにうかうかしと流されていたか、細部まで見えずに決めつけていたか、
差別や偏見の目で見ていたかを思い知らされる瞬間が度々訪れます。

今まで正しいと思っていた事も視点を変えると見え方が変わる。


「視点」を変えて「多面的」に見る。

これはあらゆる場面で役立ちそうです。
自分の周りの人間関係でも実際見え方がかなり変わってきたように思う。


実際、「好き」「嫌い」で人を見たり判断しなくなった。

いや、結構するけどね笑
でも暴走はしない。

しなくなった…かもしれない
どうだ??まだまだかな?やっぱり…

 (本一冊くらいでいきなり人は変われない ・∀・ )



まあでもかなり良い方に役立ちそうです。

嫌われてる人がいじめられて排除される、みたいなのも過度な危機管理意識、自衛意識の集団暴走だったりするしなあ。
いじめ防止とかにならないかな。


まだ森達也を読んだことがないけど関心がある、という人にはこちらをオススメしたいですね。

「桃太郎はもう一度鬼ヶ島を襲撃することにした」あたりのユーモア系とセットで読むのがお勧めかも笑



今のところコチラは今年のベスト候補です。

本当は色んな人のを読みたいのだけど、森達也さんは今の私が抱えていたモヤモヤの答えをくれる、新たな気づきを与えてくれる感じで。

まあ自分の気質と相性が良いって感じですね。
「使命感より好奇心」で動くオタク気質っぽいあたりとか笑



そろそろ予約してた新刊が届くのでそちらも楽しみです。

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