視点を変えて見ることで、まるで見え方が違ってくる 〜森達也『A』シリーズ読了〜
オウム真理教の一連の事件、裁判、信者達の生活などを追った森達也の『A』
「A」「A2」は映画(98年、01年)にもなっていて彼の出世作でもあるようで。
ようやく最終章の「A4」まで読了しました。
A3の上下巻含め計5冊
(A3は文庫版が上下巻で加筆あり)
地下鉄サリン事件などの一連の事件や麻原裁判などを「別視点」で追ったドキュメントであり、これはかなり批判もあったようですが。
オウムに危機感を持った世間には受け入れられにくかったようです。
かくいう私も、あの当時(18歳)にその存在を知ってたら拒絶してたのではと思う。
あれからもうすぐ30年。
麻原彰晃を始め、実行犯幹部の死刑も執行された今、世間の関心はすっかり薄れてしまっている。
しかし、あの事件を深く掘り下げ調査し、広い視点で追ったこの本は本当に重要な事が沢山詰まっていた。
当時の日本社会(つまり私達)の行動、あの事件が、あの裁判がこの国に与えた影響、今に至るまでに日本の在り方がどう変わって行ったのか。
間違いなくあの事件は日本を大きく揺るがせた。
それは、世間を震撼させた、恐怖に陥れた、だけに留まらず、日本国民の意識や世の中の風潮、司法の在り方まで変えてしまうきっかけとなったのだと思う。
変わったことは確かだけど、果たして正しい道を選べたのだろうか?
どんな物事も「多面性」があり、複雑だ。
しかし、戦争や凶悪事件ほど多面的に報じられる事も、そういう見方をしようとする人も少ない。
(メディアは多面性とは相性が悪い)
感情が先走るからなのか、
「みんな」で突っ走る傾向にあるのか
でも、常々思うのは「再犯防止」のためには短絡的に罰するだけではいけない。
その背景をしっかり見る事で、何故こんな事が起きたのか、そこを知ろうとする事が大切だと思う。
と、この本は改めて気付かせてくれた。
だからこそ、あの裁判は本当に公平にやるべきだった。
もう遅いけれど。
なんとも後味の悪い事件だった。
とうとう主犯からは何も語られないまま死刑も執行されてしまった。
(私はそれをきっかけに死刑関連の本を読むようになったんだけど)
しかし、その傷跡に気づいておくのが大事な気がする。
「多面性」
「集団化」
「迫害」
「思考停止」
「危機管理意識」
「メディア」
「宗教」
「忖度」
「裁判、司法」
計5冊の中で、たくさんの重要なテーマが出てくる。
世の中の見え方や、自分の中にあった意識も覆されるというか。
一連の事件だけ当てはまるものではなく、日常での自分達の意識や行動にも重なる部分がある感じでした。
一冊目のAから衝撃は衝撃だったけど、やはり圧巻だったのは麻原彰晃の裁判やオウム幹部との面会記録などを綴った上下巻のA3かな、やはり。
ドラクエみたいに3が名作になる事は多いですな笑
あの事件に関わった人達、信者達、拘置所に服役する幹部達、関心を持って迫った人達、批判する人達、それぞれの思いが交錯する。
非常に学ぶことが多い圧巻のドキュメントでした。
最後まで読んで良かった作品です。
でも、A4が出たのもまだ刑の執行前だったので、完結ではないのだと思う。
いや、今もずっと続いていて、これからも森さんはこの問題を色々な場面で取り上げていくのだろうなと。
視点を変えて見ることで、まるで見え方が違ってくる。
まあ、内容が濃過ぎてサクッとまとめるのは難しいので、そこから学んだ事は追々細々と書いていけたら良いかなと思っております。