映画『はりぼて』
※2020年10月7日にCharlieInTheFogで公開した記事(元リンク)を転載したものです。
2016年、わずか半年で14人もの市議が辞めるに至った富山市議会の政務活動費不正問題は、地元のローカル局チューリップテレビのスクープに端を発した。
そもそもこのスクープの取材は、議員報酬を10万円引き上げる動きが出てきたのを契機に始まっている。だが、引き上げを主導した中川勇・自民会派会長にその根拠をただそうとする記者はどこか頼りなく、インタビューでは逆に中川氏に言いくるめられてしまう。
スクープで流れが変わり辞職ドミノが起きるが、しかしその過程はすごく緩い。情報公開請求ではあっさりと資料が出てくる。関係者もカメラの前に顔を出して普通に正直に答えてくれる。それらの証拠を議員に突きつければ、いったんはごにょごにょ言うけれど、数日立てば涙ながらに記者会見して辞職していく。いい歳したおじさんたちのガバガバさは、もはやコメディーだ。
しかし起きていることは詐欺であり、実際に中川氏はじめ多くの議員が刑事告発され、有罪判決も出ている。市長と対峙してきたベテランたちが退場し、経験不足の新人ばかりが議場を構成することで、議会の緊張感は失われていく。
スクープ取材の中心を担ってきた2人の記者は、一方は報道から異動となり、キャスターを兼務していたもう一方は葛藤の末退社を決意する。本作公開に際したインタビューでの発言によれば、異動や退社は圧力によるものではないと言ってはいるが、議員を何人辞職に追い込もうと、市民が市政刷新を実感するに至らない閉塞感を前に、報道が自己否定に傾かざるを得なくなる状況はあっただろう。
議員にしても、報道にしても、ただ個人が消費されるだけ。その繰り返しを果たしてコメディーとして笑っているだけでいいのか。消費の主体は他でもなく私たちなのではないか。そんな問いをしっかりと訴えかけてくるドキュメンタリーだった。
(2020年10月6日、シアターセブンで鑑賞)
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