鈴木智彦『ヤクザときどきピアノ』
※2020年4月27日にCharlieInTheFogで公開した記事「見た・聴いた・読んだ 2020.4.20-4.26」(元リンク)から、本書に関する部分を抜粋して転載したものです。
暴力団をめぐる潜入ルポで知られるライターは、『サカナとヤクザ』の校正を終え、映画『マンマ・ミア! ヒア・ウィー・ゴー』を見ます。流れてきたのはABBAの『ダンシング・クイーン』。ライターズ・ハイの状態で聴いたヒット曲に心をつかまれてしまった著者が、ダンシング・クイーンをピアノで弾きたいと一念発起、ピアノ教室に通う日々を綴った本です。
ピアノの教習は講師(大半は女性)と生徒が一対一で行うため、50代中年男性というだけで受講を次々に断られます。そんな中、通えることになったピアノ教室で指導に就いてくれたのがレイコ先生でした。生徒の特性を見抜き、それによってレッスンのスタイルを変えるというレイコ先生の名指導の下、練習を積み重ねていきます。奮闘記の執筆も決まり、目標として設定されたのが1年後の演奏会。果たしてダンシング・クイーンが弾けるようになるのでしょうか。
ヤクザ取材のエピソードと、ピアノレッスンや音楽をめぐる思い出がオーバーラップしながら進められる記述は、テンポ感豊かで著者にしか書けないものになっています。聞き手から弾き手になることで新たに発見する音楽への感動、そしてピアノ講師の仕事の素晴らしさが鮮やかに描かれ、感涙を禁じ得ません。購入特典として演奏会映像へのリンクも掲載されています。
(2020年、CCCメディアハウス)