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バーボンもオーク樽以外で熟成させたい! 《バーボンのスコッチ化①》
■前々回・前回のまとめ
・世界的にウイスキーの熟成では、バーボンで一度熟成に使われたホワイトオーク材の中古バーボン樽を使うのが一般的。
(スコッチやジャパニーズでは、感覚的に8割程度が中古バーボン樽か?)
・最近は、カスク・フィニッシュという「一度木樽熟成させたウイスキー原酒を、他の木樽に移し替えて、それまでの熟成とは異なるフレーバーを新たに加える手法」が増えてきた。
・バーボンは法的に「内面を焦がしたオークの新樽」しか使えないが、これだけカスク・フィニッシュなどが流行っていると、バーボンメーカーもオーク樽以外でも熟成させてみたい!
今回はこの続きからです。
■カスク・フィニッシュさせたバーボン
「内面を焦がしたオークの新樽」しか使えないはずバーボンですが、スコッチでいうところのカスク・フィニッシュをさせて「違う樽のニュアスンス」を入れながらも、『バーボン』として販売して人気を得る猛者が現れました。
その中の代表的な銘柄が『エンジェルズ・エンヴィ』です。
エンジェルズ・エンヴィ|バカルディジャパン株式会社【BACARDI JAPAN】
公式の商品説明を確認してみましょう!
エンジェルズ・エンヴィは、焦がしたホワイトオークの新樽で4年から6年熟成させたケンタッキー・ストレート・バーボンから始まり、ポルトガルのドウロ地方のポート樽で最長6ヶ月間仕上げられる。この仕上げ工程により、差別化された味わいを生み出しながらも親しみやすい風味を保ちつつ、複雑さが加わっている。
で、このエンジェルズ・エンヴィですが、ラベルに「ケンタッキー・ストレート・バーボン・ウイスキー」と書かれています。
なぜポート樽を使っているのに「バーボン」と呼べるのでしょうか?
■一回、バーボンをつくってから・・・
種明かしはこうです。
・一旦バーボンを完成させましたよー。
・で、その完成したバーボンに、ちょっと手を加えましたよー(ポートワイン樽でフィニッシュ)。
・でも、バーボンとして一旦完成させているからあくまでストレートバーボンウイスキーですよー。
と、バーボンの法定義を『解釈した』ということです。
いつの世も、一休さんみたいな人がいるものですねー!
以前のジンについての一休さんネタの記事↓
いつの時代も一休さんみたいな人はいるものです! オールド・トム・ジン《ジン⑭》|チャーリー / ウイスキー日記
■天使の嫉妬とは?
このエンジェルズ・エンヴィは『天使の嫉妬』という意味です。
木樽熟成によって失われる欠損は「エンジェルズ・シェア(天使の分け前)」と言い、天使が飲んじゃった、とされます。
でも、
天使が飲まなかった
樽に残されたウイスキー
の方が美味しいのであれば、
天使も嫉妬するよね?
という視点から名付けられたそうです。
なかなかシャレが利いていますよね!
エンジェルズエンヴィの種類と味わい、おすすめの飲み方 | Dear WHISKY
■アメリカのウイスキー業界も温故知新
アメリカでは最近、ライウイスキー(ライ麦が主原料)の人気が高まっていると言われています。
もともと、イギリスからの移民がアメリカで辿り着いた土地は、北米大陸・大西洋側の東海岸です。
その東海岸は、ライ麦の生育に適した環境だったので、ライウイスキーがつくられるようになりました。
その後、西部への開拓が進み、ケンタッキー州などに至るとそこではコーンの生育に適した環境だったので、コーン比率51%以上のバーボンがつくられるようになり、それがアメリカン・ウイスキーの主流となります。
ただ、今は再び温故知新で、少しクセのある味のライウイスキーに人気が集まっているそうなのです。
なんか大昔に流行って、その後ずっとダウントレンドで、2008年から再び人気が復活した角ハイみたいですね!
■ライウイスキーもカスク・フィニッシュさせたい!
勢いのあるライウイスキーで、特に人気なブランドに、ホイッスルピッグというアメリカン・ライウイスキーがあります。
ホイッスルピッグ | WhistlePig Rye Whiskey
そのラインナップで、ホイッスルピッグ12年という商品があります。
そのスペックはこうです。
・ライ原酒を、アメリカンホワイトオークの新樽で10年以上熟成。
・その後、3種類の異なるワイン樽(マデイラ/ソーテルヌ/ポートワイン)でフィニッシュ。
・その合計12年以上熟成させた3種の原酒をブレンドしたライウイスキー。
ラベルに原酒のブレンド比率が明記されているのが、ウイスキー愛好家には嬉しいところです。
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左から、
・マデイラカスク(ス) 63%
・ソーテルヌカスク(ス) 30%
・ポートカスク(ス) 7%
■アメリカン・ウイスキーのスコッチ化
もともと「内面を焦がしたオークの新樽」しか使ってこなかったアメリカのウイスキー業界ですが、スコッチのシングルモルトの成功を参考に、新たな原酒づくりへのチャレンジが始まっています。
今回はその中でカスク・フィニッシュについてご紹介しましたが、他にもバーボンがスコッチ化している事例があります。
次回に続きます!
※タイトル写真は、ウイスキー樽の内面を焦がしている様子(バーボンではマスト)です