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heldio #3. 「塵も積もれば山となる」に対応する英語の諺

はじめに

今回は、日本語のことわざ「塵も積もれば山となる」に対応する英語のことわざについて取り上げます。

英語では Many a little makes a mickle といいます。たくさんの小さいことを重ねると "makes a mickle" となります。mickle は大きいことを意味します。趣旨としては、日本語の「塵も積もれば山となる」と全く同じです。

日本語のことわざ「塵も積もれば山となる」

まず日本語の「塵も積もれば山となる」ですが、これ自体が非常によくできたことわざです。ことわざは、まずリズムが良くなければ覚えていられません。もちろんその中に知恵、人生の知恵も含まれています。

この意味とリズムが合わさったところで人々の記憶に残って、代々受け継がれて現代にまで至るのがことわざです。「塵も積もれば山となる」という日本語は、まず七五調です。七五調といえば日本語的なリズムですね。

このリズムにはまると日本語耳にとっては心地よいフィット感があります。「塵(ちり)」「積(つ)もる」の発音にもなかなかのリズム感が出ています。

「塵」「積もる」は、意味的にも縁語といえる関わりの深い語です。音としては「ち」「つ」となります。これが「七」の前半部分ですが、後半の「山となる」という「五」の部分ではむしろ柔らかい音、ア段音が続きます。「山(やま)」というのも非常に柔らかいですね。

前半の「ち」「つ」が比較的固い音に聞こえるのに対して、「山となる」は非常に大らかで大きなものに連なっていくという雰囲気があります。

英語のことわざ Many a little makes a mickle

英語では、「塵も積もれば山となる」に対応することわざは冒頭に述べたように、Many a little makes a mickle という表現になります。

小さいものを多く集めればそれは mickle、大きいものとなるということです。この英語のことわざも非常に優れたことわざです。これは意味だけではなく、リズム感が非常に整ったことわざなんです。

細かく見ていくと、まず many a little という部分があります。普通、many は「たくさんの」という意味なのでその後に複数形が来そうですが、古くは many times の代わりに many a time という言い方もあり、現在でも少し古風ですが使う用法です。

many の後に a little という単数形が来ることについて、もう少し説明します。これは every という語が everyone や every man のように単数形を伴うのと同じ発想です。確かに意味は複数形なのですが、これを表すのに個々のものを一つずつ指差すようにして、合わせて「たくさんの」という気持ちで、単数形を伴う使い方があるのです。

many a little という部分が、まさにこの用法です。many littles ではなく many a little とすると、少し古風になりますが、たくさんの小さなもの、複数という意味になります。形としては単数扱いなので、everyone と同じく動詞には makes のように3単現の -s がつきます。

mickle の語源とリズム

そして何を make するかというと a mickle です。この mickle は、このことわざ以外にはほとんど見かけませんが、語源的には much と一緒です。mickle という単語は、much と同じく大きいもの、たくさん、多数という意味です。これ自体も a mickle と a で受けて、一つの大きいもの、日本語のことわざで言えば、一つの山になるというようなイメージです。

一般に英語のことわざの面白いところは、全体が強弱強弱というリズムの組み合わせでできていることです。

改めてリズムを意識して読んでみると、Mány a líttle mákes a míckle のように強弱のリズムが繰り返されていますね。これは非常に典型的な英語のリズムです。これにハマると英語としては気持ちがいいわけです。ちょうど日本語で七五調とか五七調にハマるとフィット感があるのと同じように英語ではこの Many a little makes a mickle というこのリズム感が整うと、ドンピシャリ、ハマったという感じがあります。

頭韻の効果

この点だけでもことわざとしては優れています。非常に記憶されやすい、覚えやすいし、受け継がれやすくなりますね。ですが、それだけではなく、このことわざについてはもう一つのテクニックが使われています。

それは頭で韻を踏む、頭韻 (alliteration) が使われていることです。これは強弱、強弱と続くなかで、強いアクセントがある部分の単語の最初の子音が同じ音であるということです。

このことわざには強弱が4回繰り返されています。Mány a líttle mákes a míckle というふうに強い部分が4回現れるのですが、この1つ目と3つ目と4つ目の単語がすべて m で始まっています。これによって英語は頭韻のリズムを作り出しています。m 音がきれいに響いていますね。

まとめ

この2つのリズム上のテクニック、強弱強弱というものが繰り返されるという1つのルールと、もう1つは、その中でも強のところで同じ m 音が4つのうち3つの部分で使われているということ。これによって英語のリズム感が最高潮に達します。

そこには、もちろん意味が載っています。人生の知恵という意味が載っています。あらためて非常によくできたことわざだと思いませんか。日本語の「塵も積もれば山となる」もそうですが、英語の Many a little makes a mickle も完璧と言っていいことわざと言えます。

以上、Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の「#3. 「塵も積もれば山となる」に対応する英語の諺」に基づいて書き起こしました。


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