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読書記録50『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』

村上春樹/河合隼雄
『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』
(新潮文庫 1996年)


熱心なハルキストではないけれど、家の本棚には村上春樹の小説が15冊弱くらいはあるだろうか。
カウントダウンしてまで書店に走って単行本を買いには行かない。文庫になることをまって書籍は購入している。

日本にとってターニングポイントまではいかないまでも、影響を与えるできごとは毎年のようにある。

この2人の対談が行われたのは1995年の11月。この年の漢字は「震」だった。

1月には阪神淡路大震災、3月には地下鉄サリン事件。社会不安が増していた。
まぎれもなく日本に、日本に住む人たち社会に大きな影響を与えた年である。
(当時中学生の私は何を考えていただろうか…、ゲームの数字のように増えていく死者の数にいたたまれなくなった感覚は覚えている。)

そこから大きなターニングポイントとなるのは、東日本大震災とコロナの蔓延による混乱。
今とはよほど感覚なども違うのだろうと思ったが、2人の対談「村上春樹、河合隼雄に会いにいく」を手に取ってみた。

村上春樹さんはやっぱり難解な人だなと思いつつ、河合隼雄さんの懐の深さというかカウンセリングマインド(持っているのは当たり前ですよね)によって会話が弾んでいるような印象があった。私も人の話をきくことと聞いてくれる人がいるというのはいつも楽しくて、ついつい喋り過ぎてしまうこともある。

強いボールや、ちょっと外してしまったボール、受け取れないかなと放った一球がしっかりとキャッチされ投げ返されるような会話、そんな相手がいるということはいいですよね。本当にたのしい。

コロナ禍以前の話なのであまり期待をしていなかったのだが(=失礼!!!)、もちろん言葉の端々に琴線に触れることが多々。一瞬で読了。
以下は、自分自身の備忘録。

1、河合「…なんのために結婚して夫婦になるのかといったら、苦しむために、「井戸掘り」をするためなんだ、というのがぼくの結論なのです。」(p98)
→欠落を埋めるのは自分自身しかない。他人がやってくれるものでは無い。自分で認識するしか無い=これは幸せになるためにしてもらうために結婚をすればすべてがうまくいくというわけではないということを示唆する。

2、河合「ほんとうに話にならないのは、それを頭でつくってしまうことですね。これはぜんぜんだめです。ほくはそういうのをよく、「つくりばなし」と言うんです。「つくりばなし」というのは体が入ってないのですね、頭だけでつくっている。そんなものには読者があまりついてこない。」(p119-120)

3、村上「…僕の場合は、三十過ぎてものを書きはじめて、それがその欠点を埋めるためのひとつの仕事になっていると思うのです。」(p128)

4、河合「現代の一般的風潮は、村上さんの書かれたことのまったく逆の、 「できるだけ、早い対応、 多い情報の獲得、大量生産」を目ざして動いています。そして、 この傾向が人間のたましいに傷をつけ、その癒しを求めている人たちに対して、 われわれは一般的風潮のまったく逆のことをするのに意義を見出すことになるのです。このように考えると心理療法家の仕事と作家の仕事の間に共通点が感じられて嬉しく思います。それにしても、 一人ひとりのたましいを深く傷つける前述のような傾向が、個人主義を唱える欧米から生じてきたというアイロニーについて、ゆっくり考えてみなくてはならないと思います。個人をもっとも大切と考える生き方が、個人をもっとも深く傷つける傾向を生み出しているのです。」(p152-153脚注)

5、村上「僕が日本の社会を見て思うのは、痛みというか、苦痛のない正しさは意味のない正しさだということです。たとえば、フランスの核実験にみんな反対する。たしかに言っていることは正しいのですが、だれも痛みをひきうけていないですね。文学者の反核宣言というのがありましたね。あれはたしかにムーヴメントとしては文句のつけようもなく正しいのですが、だれも世界のしくみに対して最終的な痛みを負っていないという面に関しては、正しくないと思うのです。」(p207)

6、村上「河合先生は、日本的システムの柔構造のもつある種のメリットを、西欧的整合性に対する一つのアンチテーゼとして話されました。それはぼくは非常によくわかるし、いま日本に帰ってきて、その中でよかれあしかれ、 ぼくもそれに入って行かざるをえない状況にいるのですが、同時にまたその柔構造に対して、ある種の恐布も感じるのです。」(p211)

7、村上「ただ、日本の社会というのは、理論的であるより情緒的なものですね。」(p212)


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