あれから「ウニ」を食べていない
-あの「ウニ」が「創造的破壊」を教えてくれた -
つまり
私は小樽でウニがのった海鮮丼を食べた時、「創造的破壊」を感じずにはいられなかった思い出がある。
あれは去年の8月のことだった。
ちょうどウニは旬だった。
私は友達と北海道を旅行していた。
この旅いちばんの楽しみは何を隠そう海鮮丼だった。
小樽に着いた次の日の朝、私たちはスキップしながら「小樽朝市」にくり出した。
朝8時とは思えない賑やかさ
お腹もどんどん空いてくる。
どこのお店で食べるか考えてこなかった私たちは、市場に入るやいなやフレンドリーで威勢のいいおじさんおばさんの、「うちのお店美味しいよ!」「このいくら食べてみな!」「今なら席空いてるよ!」という勢いに押されながらも、とりあえず市場を一回りしようと試みた。
市場の出口が見えてきた頃だった。
「うちのウニ食べていきな!!」
え?
ウニ試食で食べさせてくれるの??
みんな揃ってすかさず「お手」のポーズ
手のひらにのせられたウニは恍惚としていた。
それをぺろり
(今じゃ洗ってない手のウニ食べるとかもう論外なんだけど。)
えっ?
、、、
、、、
あっま、い、よね!?!?
みんなで顔を見合わせた
みんな驚いた顔をしている。
味の認識を恐る恐るすり合わせる。
自分が今まで食べてきたウニだけが苦いのかと思っていた。
しかしどうやら違うらしい。
みんなの驚きっぷりからして、私が今まで食べてきた苦いウニはどうやら一般的で、今目の前にある甘い「ウニ」の方が特殊だということがわかった。
少しホッとした
そして次の瞬間、とんでもないものに出会ってしまったと心がざわついた。
私たちは吸い寄せられるようにそのお店に入っていった。
看板には「北のどんぶり屋 滝波食堂」と書かれていた。
わがまま丼というメニューが名物のお店だった。
上にのせられるネタは10種類程度の中から選べた。
イクラ・生ウニ・カニ・本マグロ・ボタンエビ・甘エビ・サーモン・真イカ・活ホタテなど、、
どれもこれも捨てがたい。
幸いなことに待ち時間がかなりあった。
私たちは自分のお腹との対話を重ね、なんとか4種類まで絞ることができた。
(とてもじゃないけど3種類に絞ることはできなかったからそこはお金で解決。)
私は先ほど食べた「ウニ」と、大好きなサーモンと、まだ北海道に来てから食べていなかったカニとボタンエビをチョイスした。
運ばれてきた私のわがまま丼はアンビリーバボーな輝きを放っていた。
先ほどの「ウニ」との再会
深いコクがある
とろっとしている
苦味が少ない
そして甘い
わ〜ぁ〜〜〜
深い幸せな穴の中に落ちていく感覚があった。
気づけばそこは宇宙だった。
「創造的破壊」が起こった。
ウニは苦い食べ物だと思っていた。
ウニの良さは苦さにあると思っていた。
そう思うことで自分は大人だな〜と思ったりもしていた。
その固定概念が崩されていったのだ。
そして新たな概念が構築された。
ウニが甘いなんて
知らなかった。
これがウニの本来の姿だったのだろうか。
私が今まで銚子丸とか築地とかで、おいしいおいしいと食べていたウニは「ウニ」じゃなかったのだろうか。
ひょっとすると小樽の「ウニ」が偽物だったりして。
新たな価値観を受け入れるのはそう簡単なことではなかった。
どちらの方がおいしいとは一概に言えない。
今まで食べてきたウニは苦みがおいしいし、小樽の「ウニ」は甘みがおいしい。
それぞれ良さが違うのだ。
違う土俵で戦っているのだ。
一度食べただけでどっちが本物のおいしさなのか決めるのは難しい。
しかしここは海の幸の宝庫、北海道
説得力は圧倒的だ。
私は「おいしいウニ」のあるべき姿を塗り替えざるを得なかった。
「ウニ」の概念の破壊と創造が起きた瞬間だった。
あれからまだ「ウニ」に再会できていない。