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1月・2月に読んだ本
4月に東京から引っ越して遠くに住むことが決まっているのですが、おおきくて綺麗な図書館のある街らしいので、ひっそりわくわくしているちゃんすです。さいきんは現代短歌の本を毎週借りて読みたいなあとか思っています。
はじめに
今回は、1・2月に読んだ本の記録を書きました。
1月末に大学生活最後の試験期間があったので、それまではレポートのための本ばかり読んでいて、正反対に、2月に入ってからは旅行先で見つけた本屋さんやカフェで自分の読みたいものばかり読んでいた2ヶ月でした。
このシリーズは、読書感想文ではなく、ゆるっと読んだ本を提示しつつわたしの気持ちを書き留めていくものです。読書感想文より軽い気持ちで肩の力を抜いて書いているので、みなさまもぜひ、飲み物を片手ににのんびり読んでくださるとうれしいです。
前回までのnoteはこちらから↓
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①『当事者は嘘をつく』 小松原織香
授業でタイトルだけ紹介されて、忘れられなかったのでその日中に図書館で予約を入れた本です。
小松原さんは、修復的司法(Restorative Justice)の研究をしている哲学研究者であり、性暴力被害のサバイバーでもある。
当事者であるということを隠しながら研究者として生きてきたけれど、そのあいだずっと「自分は嘘をついている」という痛みを抱えていた、と書いてあった。そして、それを語ろうとするときにもまた、自分の語りが信じられなくて「自分は嘘をついている」という苦しみがある、と書いてあった。
わたし自身も、卒論でヤングケアラーについて扱うなかで、あるいは自分自身の家族の経験について書くなかで、ずっとおなじことに悩んでいて、やっぱりどうしても書けない、と先生のまえで泣きそうになったことがあった。
自分の経験や感覚に根づいた、自分の心のいちばんやわらかい部分をえぐり出したような問題意識と向き合い続けることと、それを書くことがどれだけむずかしいか、わたしはそれを(ほんの少しだけど)知っている、と思った。
苦しくて、でも止まれなくて、本に顔をつっこむようにして一気に読んだ。
この物語は真実だが、私は常に「嘘をついている」と思いながら語っている。あなたが、私の言葉を疑う以上に、私は自分の言葉を疑っている。だからこそ、私はあなたに最後まで聞いてほしい。真実を明らかにするためにではなく、私の生きている世界を共有するために。
この本を開く瞬間、わたしはただ小松原さんの物語を覗き見することはできなくて、すごく大きな責任を感じながら、この言葉に応えなければならないとつよく思う。
②『長崎にあって哲学する』 高橋眞司
これも授業で紹介されていて、レポートの資料にするために読みました。
高橋さんという哲学者が、長く住んだ長崎という土地で、その場所に根差した哲学をしようとした、そのかけらを感じることのできる本でした。
震災や原爆の記憶を、わたしたちはどのように語ることができるだろうか。「都合よく語らないでほしい」という言葉を、どのように受け取ることができるだろうか。
長崎の浦上に原爆が落とされたことについて、永井隆博士は、浦上燔祭説という考えを示したという。
浦上燔祭説とは、浦上という多くのカトリック教徒が住む地域に原爆が落とされたことを「神の恵み」であるといい、「世界大戦争という人類の罪悪の償い」のため、迫害と殉教の歴史を耐え、信仰を守り、平和を祈り続けてきた「日本唯一の聖地浦上が犠牲の祭壇に屠(ほふ)られ燃やさるべき潔き羔(こひつじ)として選ばれた」というのが、彼の意見だったという。
その語りに救われた人がいることは事実であり、その語りによって原爆という途方もない出来事を理解できるようになった人がいることもまた事実ではあるけれど、でも、その語りがなにか重要な事実から目を逸らすことになってはいないだろうか、と思う。
わたしたちは、うたがわなければならない。自分の言葉を、語りを、絶えずうたがいながら生きていかなければならない。
それはとても苦しいけれど、都合のよいなにかを盲目的に信じて、ほんとうのことに目をつぶっているほうがわたしは苦しい。語れなさにもがきながら、なにを・どうやって語ることができるのか、もうすこし考えてみたいと思った。
③『小さなトロールと大きな洪水』 トーベ・ヤンソン
きっかけは忘れたけど、ムーミンパークに行くことになったので、いちおう、と思って読んだら、大好きになってしまった一冊。
わたしは、平和でかわいい雰囲気のムーミンより、いつも怒っていてちょっとおどろおどろしい雰囲気のムーミンが好きだ。原画の、どちらかというとみにくい生き物として描かれているムーミンをみていると、なんだか、世界へのうがった気持ちが自分のなかで溶けていく感じがする。
この本には出てこないのだけど、わたしはムーミンのなかではニンニというキャラクターが気に入っている。
ニンニは、皮肉屋のおばさんから冷たい仕打ちを受けたことで、だんだん青ざめて、他人の目から姿が見えない透明人間になってしまった女の子。「目に見えない子」というお話しのなかで、ニンニがムーミン一家と過ごすうちに姿を取り戻していくシーンがあって、それがうれしいやら苦しいやらで大好きなお話しです。
④『地球に散りばめられて』 多和田葉子
松本本箱というブックホテルで見つけて、小部屋にこもって一気に読んだ。
留学中に故郷の島国が消滅してしまった女性Hirukoは、大陸で生き抜くため、独自の言語〈パンスカ〉をつくり出した。Hirukoはテレビ番組に出演したことがきっかけで、言語学を研究する青年クヌートと出会う。彼女はクヌートと共に、この世界のどこかにいるはずの、自分と同じ母語を話す者を捜す旅に出る――。誰もが移民になり得る時代、言語を手がかりに人と出会い、言葉のきらめきを発見していく彼女たちの越境譚。
あらすじがすごい。留学中に故郷の島国が消滅してしまう、というところも、混ざり合った言語に言葉のきらめきを見出すところも、すごい。
この本を本棚で見つけたときはノンフィクションかエッセイかと思っていたので、消滅した島国がどうやら日本らしい、というところまできて、これは小説か、と気づいてびっくりした。それから、ほんとうに留学中に日本が消滅したらどうしよう、と思って、海面上で似たような危機にさらされている国のことを考えた。
なんとなく、上橋菜穂子さんの小説を思い浮かべる。小説としておもしろい。でもそこになんとなく、現実的な問題意識やメッセージ性を、読む人が勝手に見出す。だから、いつかかならずこの小説を思い出すだろう、と思う。
⑤『適切な世界の保存』 永井玲衣
松本に泊まったときに、「哲学と甘いもの」というカフェで読みました。永井さんの2冊目のエッセイが出たということはずっと前から知っていたのだけど、なんとなくタイミングを逃してしまい、気になったままずるずるときてしまった。
はじめて『水中の哲学者たち』を読んだとき、わたしは、こんなふうにおろおろと生きていてもいいのだ、と思ってすごく救われたし、世界のめちゃくちゃさにびっくりすることからも哲学がはじめられるのだ、ということがすごくうれしかった。はじめて読んだとき(たしか成田空港からの帰りで、京急の鈍行に乗っていた)この人はわたしだ、と思った。
あれから3年が経って、哲学や哲学対話日記に少しずつかかわるようになって、永井さんはわたしではなかった、と思うようになった。この本を読みながら、たしかにわたしは彼女に救われたけれど、彼女がわたしのすべてを代弁してくれるわけでも、道を示してくれるわけでもないということに気づいてしまった。
わたしには怒りがある。世界への怒り。はちゃめちゃさへの憎しみ。この世界に生まれてきてしまったこと、この世界で生きることへの根深い苦しみと絶望がある。わたしの哲学は、いつも怒りからはじまる。
だからわたしは、きっと永井さんにはなれないし、永井さんではないのだ、と思った。
***
おわりに
今回は外で読んだ本が多いので、おまけに何枚か写真をのせておきます。最後のほうには、読んだけれど載せられなかった本と、これから読もうと思っている本を貼っておきます。
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◆読んだけれど載せられなかった本
◆これから読む本(積読)